第六話 「それぞれの想い-side S-」
勉強ができればなんでもできそうな気がするでしょう?
確かにある程度のことは勉強や頭のキレの良さで決まることもあるのかもしれない。
でも結局、どうしようもないことはどうしようもないし、ゲンジツはいつだって不条理だった。
角ノ森グループの一人娘として私は産まれた。
それはもう待望の子供だったらしい。
けれどすぐに弱視だとわかって、両親は落胆してしまう。
そんな中、お祖父様だけは私を見限らなかったという。
目があまり見えなくとも、出来ることはある。と、仕事があるにも関わらず本を読み聞かせてくれたり、家庭教師を何人も私に付けた。
ここまで家の事業を拡大させた人だったから、どうしても諦めきれなかったのでしょう。
その姿勢から両親も感化され、私を天才少女へと英才教育に力をいれた。
物心つく前から環境がそうだったので、なんにも不満はなかった。ただ少しだけ街で元気にはしゃぐ同い年を見ていると羨ましかったけれど。
けれどここまでしてくれているお祖父様や、両親に感謝もちゃんとしているためそんな我が儘は私自身もあまり許せなかった。
そうして、このまま跡継ぎになるんだろうな。となにも疑いもせず敷かれた道をただ歩いていった。
ある日、一人で部屋にいた時、声がした。
「貴女に力を与えます。そして、どうか止めてほしい」と。
もちろん魔法やなにも信じていなかったけれど、その声は何日も私に語りかけてきた。
「条件があるから、貴女にしか頼めない。始まってしまう前に……」
「…………私になにが関係あるの?」
声に反応してしまった。
「ある少女が、ゲンジツを変えようとしている。けれどそれは本来ならば許されず、受け入れるしかないこと。」
「私の主様はそれを面白半分に了承してしまった。まぁあの人はこんな世界のそんな小さなこと、なにも気にしないんでしょうけど。」
「それが成立してしまえば、きっとあの子達も後悔する。だから止めてほしい。」
「確かにあの子達と貴女に関係はない。だから取り引きをしましょう」
「取り引き?」
「貴女に全てを教えます。そしてこれからのことも全部。あの子たちのゲンジツも含め、《全てが見える力》を与えます。」
「それを手に入れて、私になにかメリットがあるの?」
今まで、現実的な思考、知識、行動しか与えられなかった私は、少し興味が湧いた。
きっとどこかで私も普通の子供みたいに空想めいたことに憧れがあったのだ。
「そうね、例えば貴女のお家の会社を救えるとしたら?」
「救える?」
「えぇ、数年後になるけれど、どうしようもないゲンジツとして貴女にも、貴女のお家にも悪いことが起きるとしたら?」
「そんなこと」
「信じるも信じないも貴女次第、力を手に入れればそれらも見えるようになるから信じるしかなくなるけれど。」
「…………」
「その力があれば先回りできる。貴女がお家を助けたいのであればその力で助ければいい。力の使い方は問わないわ」
「ただ一つ、あの子を止められなければ……」
「止められなければ?」
「貴女は死ぬわ。近いうちに」
「!?」
「そん、なの……」
家と自分との取り引き。それが声の言うことだった。
そんなのは信じられない。断るべきだ。と理性は言った。
けれど信じられない根拠もない私にはただ選択するしかなかった。
家族のことを思い出す。
お祖父様が必死になって手に入れた地位。お父様もお母様もそのお陰で暮らしていける。私もそれら全てに恵まれて生きてきた。
もし、声の言うようにそれが全て無くなったり、悪いことが起きるとしたら?
私はその時になって後悔する。
あの時この取り引きを受けていたらって。
でも、もし声が言うあの子を止められなければ、私は死ぬ。
「………………」
「どうするの?」
「…………いいわ。取り引きしましょう。」
私は、私が生きて家を守れる方法と、死んだとしても家を守れる方法。どちらも考えた。
前者は、思いつかなかった。
生きたまま悪いことが起きて、そしたら環境に頼って生きている私なんて死んだも同然になるだろう。そしたらなにも守れない。
もともと障害がある身で、なにかをできるなんて思ってなかった。
天才少女と言われたところで、どうしようもないことが起きれば対処できる方法なんて限られている。頭の良さは関係ない。そしたら答えはすぐに決まる。
お祖父様が積み上げたもの。それに両親もそれをもっと大きくしようと頑張っている。
それが壊れると知って私になにができるのだろう?
ちっぽけな私に出来ることは、取り引きをして例え死んだとしてもそれを壊させないことだった。
それしかなかった。
「じゃあ、決まりね。」
声がそういうとパチンッと音がした。
手にはいつのまにか石を握っていた。
「それに願いなさい。そしたら全てを見れるようになるから。」
「あの子達のゲンジツも、貴女の未来のことも。」
「どうか、止められますように」
そう言って声は聞こえなくなった。
(願う……)
願うのは家のこと。助けてもらってばかりの私が出来ること。
するとまばゆい光が全身を包んだ。
一瞬なにも見えなくなる。
そして、目を開けると全てのことが見えるようになっていた。
視覚じゃなく、夢の中にでもいるように。私は全ての事象の中にいた。
過去、現在、未来が周りを流れている。
見たいと念じるとその事象が近くへと来て見せてくれた。
確かに角ノ森グループの未来は最悪だった。
破産、倒産し、一気に変わる生活。そして道行く人々はまるで犯罪者かのように私たちを見る。誹謗中傷。家庭崩壊。お祖父様は自殺し、両親は一家心中を目論む。
それを見た私は、こうならないように私が家を助けるんだという強い意思が生まれる。
そして声が言っていた、あの子を念じる。
それは、衝撃的だった。
私があの子ならどうしただろう。
考えても仕方のないゲンジツ。
(止める……私が……)
私は迷ってしまった。
だってこれは他にどうしようもないことなのかもしれない。と納得がいってしまったから。
それは同時に自らの死を認めること。
それなら、私はその時までに角ノ森に対して出来る限りのことをしよう。たとえ死んだとしても。
そして、これが私しか知りえない事だとしたら、彼女に伝えなくてはならない。
止めることが出来なくても、彼女が思い出せば少しは違うかもしれない。
私は目を閉じる。
すると現実世界へと戻ってきた。
「…………」
家のことはやることはやって、残りは全て記録を残そう。そうすれば私が死んでも家は助かる。
「あとは……彼女に伝えなきゃ」
私は夢を通じて彼女に訴え続けることにした。
例えそれが意味のないことだとしても。
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