第七話 「ある少女の追憶②」

 まだ何事もなく、楽しく日常を過ごしていた春。

そして梅雨が近づいてきた時期、忘れた頃にそれはわたしに話しかけてきた。

「そろそろ、一年よ」

「……次、移動教室なんだけど」

「貴女が引き延ばしたのよ。もう待てないわ。」

「…………」

そう、わたしは三人で過ごしていた時間が楽しくて、儀式のことを忘れようとしていた。

「……どうするの?」

「急いで他の人材も集める。そして、儀式を執り行うわ」

「説明は、前にもしたわよね?」

儀式の内容は前に聞いていた。


『それぞれの人材を賢者の石を使い、錬金少女とし、それを殺す。そして、それぞれの人材にも、また別に願いの契約はしてもらうため、成功する保証はない。』


わたしの儀式条件は、

『前倉津凪を最後の一人にすること』

そうすればツーちゃんを生き返らせることができる。

他の錬金少女の儀式条件は、

『前倉津凪を消すこと』


 儀式にはツーちゃんも巻き込まなきゃいけないし、危ない目にも遭わせなきゃいけなかった。

それも嫌だった。

けれど時間が過ぎてしまえばこの夢も終わってしまう。

ツーちゃんは死んでいて、わたしはきっといじめられっ子に戻るだろう。

「……あと少しだけ、少しだけ待って!」

「もう待てないわ。」

「人材は儀式が始まってからでも集められるから、私は彼女に石を渡しに行く。」

「……待ってったら!」

「これが、ゲンジツよ」

冬乃蝶々はその場を去って行く。

「待って!!冬乃さん!!!」

わたしは走って呼び止めようとしたが、人影が見えたから追うのをやめた。

「あ、ツーちゃん…………」

「え、っと……」

ツーちゃんはとても困った顔をしていた。

もしかすると会話が聞かれていたのかもしれないと少し焦った。

「シュ、シュウちゃん次移動教室だよ?行かないの?」

そう言われて、たぶん聞かれていないのだろうと思い、笑顔で誤魔化す。

「あ、あのね。冬乃さんが授業行かない……みたいなこと行ってたから!行こうよ!って言ってたんだ~」

なんて嘘をついて。

「ごめんね?シウを探してくれてたの?」

「うん。教室にいないの珍しかったから。」

そう言われて、わたしを探しにきてくれていたことがとっても嬉しかった。

「ううん、なんでもないよ~」

わたしは、もう残り少ない日常を少しでも長く守りたかった。



 マリちゃんへのお見舞い。それもわたしにとっては皮肉なものだった。

わたしの儀式のためにツーちゃんと入れ代わったのだから、どんな心境でいればいいのかわからない。

しかも、マリちゃんも意識がないとはいえ、錬金少女の人材であり、殺す対象だった。

だからいろんな意味でマリーゴールドを持って行ってみたのだけど。飾れなくて残念だったな。


 その日の夜。わたしは家を抜け出しテレビ局へと向かった。

そして音無綺楽の飲み物に細工をし、家へ帰る。

翌日の昼には音無綺楽のニュースが全国へと広まり、わたしはそれで成功したのだと確信した。


 ユーちゃんに呼ばれ、あの学園に行くことになったのも、そこに音無綺楽が居たことも予想外だった。

音無綺楽をターゲットにしたのは、冬乃蝶々に指定されたからというだけだった。今思えば、それも策略として知らないところで勝手にねじ込まれていたのだろう。

そして、次のターゲット、鳳来南瑠とも知り合いになってしまった。

初めて名前を聞いたときは知らない人だったし、少しくらい顔を見られても平気だろうと思っていたけど。

わたしの儀式の難易度が上がってしまった。簡単にはいかせてくれないらしい。


 そしてもうひとつ予想外の出来事。

ソレがツーちゃんを狙うために発生したのだった。

儀式の始まりはまだのはずだった。

けれど、変身しないとどうしようもない、回避できないゲンジツを突きつけられ、わたしはツーちゃんを巻き込むしかなかった。


あぁ、終わってしまった。

楽しかった日常ゆめ

そして始まる儀式げんじつ

どうしようもない。

わたしはそうすることしかできない。

どんなことでもするって言ったのだから。

ツーちゃんのために。



 儀式が始まった次の日の朝。

わたしはツーちゃんに聞いた。

「ツーちゃんはさ、どうしたい?」

正直少し弱音を吐きたくなったんだと思う。


「ほら、その、錬金少女?よくわかんないけど……別にシウ達じゃなくてもさ。やらなくてもいいじゃん?」

「だって、ほら、冬乃さんは勝手に話進めてたけど、全然意味わかんないし~」

もし、ツーちゃんがやりたくなかったら、わたしが全部やるからって言うつもりで。

そもそも、わたしだってやりたくてやってるんじゃないけど。


「そもそもなんでシウ達がこんなゲンジツに襲われなきゃなんないんだろうね~」

本当に。

なんで、ゲンジツは残酷なんだろうって。

わたしはツーちゃんさえいてくれればよかったのに。

わたし達じゃなくてもよかったのに。

そんな風に、嘆いてしまった。


でも、彼女は変わらず、わたしを救ってくれた彼女だった。


「ふふ、よかった」

「シュウちゃんなんか無理してたかなって心配になっちゃって」

「ゲンジツ、はどうしようもないのかもしれないけど、ともかく普通にいつも通りにしてよっか」

その言葉で、

やっぱり敵わないな。すごいな、ツーちゃんは。

って思えることができた。

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