第十三話 「友達ト自分ト儀式ノ完成③」
ザッ、ザッ、ザッ
「…………津凪……」
「…………」
ユウは待っていた友人の登場姿に驚いた。ツナギもびしょ濡れだったからだ。
「はなしって、なに?夕。」
ツナギの声は淡々としていて表情も色も読み取れなかった。
「……あのね、あたし、その」
話すことは決めていた。けれど本人を目の前にしてユウは言葉に詰まる。
「…………」
「津凪と、友達でよかったと思ってる……」
「…………じゃあ、友達じゃなくなるの?」
ツナギの声はとても冷たく聞こえる。
「そんな、こと」
「じゃあなんで呼び出したの?」
ザァァァァァァ
雨が勢いを増したように思えた。
「それ、は……」
「それは?」
「………………」
ユウの身体を光が包み、錬金少女になった。
「…………ごめん」
震える声で謝罪をするユウ。
そしてツナギの方へ手を向け、その手の内に銃が握られる。
「…………どうして」
「…………」
「……ねぇ!どうして私なの!?どうして!ねえ!答えてよ!!」
「……それは──」
「っ!」
「!!」
ユウが答えようとした瞬間、その首元に刃先が向けられていた。
「…………秋、叶」
「ユーちゃんが銃を撃つのと、シウがこの首かっ切るの、どっちが早いと思う?」
「……シュウちゃんやめて」
「ねぇ、競争しよ?よ~い……」
「やめてって言ってるでしょ!!!!!」
ツナギは痛いくらいの大声でシュウカを止める。
「…………」
さすがに驚いたのかシュウカはツナギの方を見た。
「やめて……もう、いいよ……」
「なにが~?」
「っ……私っ……なんでもするからっ……ひっく……だからもうやめてぇ……」
言葉の最後の方は消え入るような声だった。
「……私、殺されていいから……だから、もう争わないでぇ……」
「……津凪……」
「…………」
「……なんでっ、なんで私なの?って思ってるけど、それより、なによりもっ!友達が殺し合うなんて……嫌だよぉ……」
顔が涙でグズグズになりながら訴えるツナギ。
「………………」
「………………」
少しの静寂。
ザアザアと雨の音だけ残る。
「…………津凪」
「?」
ユウが口を開く。
「本当に、津凪が友達でよかった。」
「……うん」
「後悔しないようにって、難しいね」
そう言いながらニコッと笑みを見せるユウ。
「……うん」
「…………ごめんね」
「うん」
ユウは引き金にかけていた指に力をいれる。
「今までありがとう」
「うん」
ツナギは目をつむる。
バンッ
ブシャァァァァァ
血飛沫が雨のように降り注いだ。
「え………………」
ゴトンッバタンッ
物が落ちる音が聞こえた。
それは奇しくも昨日、聞いたような音と同じで──
「ひっいやああああああああああああああああああ」
目を開けたツナギは、目の前の変わり果てた友人をみて発狂したように叫ぶ。
「いやあああああああ」
「なんで!シュウちゃん!!!ねえっ!!なんで!!!!」
涙か鼻水かわからないほど顔はぐしゃぐしゃになりながら、シュウカの方を向く。
「?」
「なんでって、そういう《儀式》だから」
「え……なに言ってんの……」
「そんな、そんなことで友達を殺さないでしょ!!!!?!」
「友達?シウの友達はツーちゃんだけだよ?」
「は??なに、言ってるの??」
シュウカは、転がった死体を見ながら、落ちた銃を手に取る。
「ひっっっっ」
「これで、儀式は完成する。」
「やっと、やっとだよ?長かったなぁ~」
「なに言って……」
「……胴体、腕、足、目、声、そして──」
シュウカは手に持った銃の先を自らの頭にあてる。
「なに……して……」
「そして、頭。これで全部だっ──」
笑顔のままシュウカは引き金を引いた。
バンッ
バタンッ
雨で地面は濡れ、そこに血が入り混じり流れる。
「は、はは………………」
「…………なんなの」
「……意味、わからない……」
そこへ黒く光る鱗粉を撒き散らす一羽の蝶が飛んできた。
その蝶は姿を変え、一人の人間になる。
「無事、儀式は執り行われました。」
「…………」
「…………」
静寂は二人を包み込む。
「……ねぇ」
「はい」
「なんなの儀式って!いいかげん教えてよ!これはなに!?なにが起きてるの!?」
ツナギは感情的に、チョウチョに向かって怒りながら聞いた。
「…………いいわ。儀式は無事終わり、あとは執行するのみ。全てを教えましょう」
そうしてチョウチョは話し始めた。
「──これが、今回の儀式の全容であり、ゲンジツ、よ。」
「…………」
「…………私が、」
「…………私が、いけなかったの?」
「…………」
「…………ねぇ教えてよ」
「…………」
「……………………」
雨に打たれ、ゲンジツを目の前に、ツナギはただ考えてもどうしようもないことを、ただひたすらに、ずっと嘆いていた。
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