第十二話 「友達ト自分ト儀式ノ完成②」

 病院へ行くバスの中。ツナギは流れゆく窓の外を見ながら、昨日のその後を考えてみていた。

(さっきのニュース、死体が発見されたとかなんにもなかったな……。冬乃さんが言ってたけど、それすら本当になかったことにされるの……?でもそれって──)

未だその辺りについて詳しいことがわからないツナギは、ただ意味もなく答えもなく、ぐるぐると思考をまわしていた。

バスは多少の揺れを起こし、病院前のバス停に停車する。


「…………」

(今日は少し外から覗くだけだし、受付はいいか……)

その場で働いている者は皆忙しなく動いている。

ツナギはマリの病室前へとたどり着く。

するとそこの病室には名前が書いておらず、空いている扉から覗くとベッドは綺麗に片付けられ、もぬけの殻と言っていいほどになにもなかった。

「え…………」

ツナギは病室を間違えたのかと思い、周辺を見渡す。

けれど、幾度と通ってきていたのだから間違えるはずない。と思い直す。

「病室……移ったのかな……」

ツナギは連絡をくれなかった親をどうかと思ったが、家をしばらく離れてるため仕方ないか。と結論付け、近くにいた看護士に声をかける。

「あ、あの……」

「はい?なんでしょうか?」

「この、病室にいた患者のことなんですけど……。どこか違う病室に移っ──」

「ああ、その子なら……」


「先日、になりましたよ」


「え」

「二日前ほどでしょうか?急でしたので……。そのあとは親族の方々も来ていただいて──あっちょっと!」

ツナギは看護士の話を最後まで聞かずに走り出していた。

「きゃっ……すごい勢い……誰あの子?」

もう一人の近くにいた看護士がツナギとぶつかりそうになる。

「ここの患者さんだった子の知り合いみたい?だったけど……」

「お友達とか?」

「さぁ……」



「はっ、はっ、はっ、はっ、はぁ、はぁはぁ」

 病院から全速力で抜け出し、雨粒に当たりながら走れるだけ走ったツナギは息が限界になり足を止める。

「はぁ、はぁ、はぁ」

息があがり、胸が苦しく、張り裂けそうになっていた。

「っはぁ、っくぅ」

そしてその場に膝をついてしまう。

「な、んで……」

「誰、も、教え、て、くれて、ない、の?」

思考がごちゃごちゃしていて、息が切れながらも全て声に出してしまっていた。

「…………っ連、絡」

ツナギはポケットから携帯を取り出す。通知は何一つ来ていなかった。

震える指で自分の親の電話に掛けてみることにした。

〔ツー、ツー、ツー、ツー〕

「なんで掛からないの!?なんで!?なんでぇ…………」

何度掛けても同じだった。


ピコンッ

その時、携帯は通知音を鳴らす。

「はっ」

ツナギは親かと思い、顔をあげその通知をみる。

「……夕から、だ……」

そのメッセージにはこう書いてあった。

〔ちょっと、話したいことがあるの。ここまで来てくれない?〕

「…………」

〔今はちょっと──〕

と打ちかけ、ツナギはその文字を消した。

〔わかった。〕

それだけの言葉をメッセージに返信し、ふらふらと立ち上がって歩き出した。



 ──ツナギとユウの待ち合わせ場所。

そこに今は一人で傘も差さずにいるユウ。

〔わかった。〕

ツナギのメッセージを確認したユウは、胸の内でもう一度自分に問いかけた。それでいいのか、と。

「いいに決まってる。だって、もう────」

ユウは空を見上げる。

雨粒は顔の上で弾け、目の中にも入り、全身を濡らしていく。

太陽は雲で覆われ、何処にあるかすらわからない。

そんな中、ユウはツナギが到着するのを待った。

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