第十一話 「友達ト自分ト儀式ノ完成①」

 三人は廃工場から出ることができた。あとからシュウカは自分が入るときには結界のようなものが張られていて、入ったらその壁に弾かれるため出ることはできなかったと言ってたが、そんなことは二人からしたらどうでもよかった。

 出る前に、ツナギはユウの両親が心配するだろうと、たまたま荷物にあった自分のジャージを貸した。

雨は来た時よりもさらに強く打ち続いていた。

シュウカは傘を差し、ツナギのジャージを着たユウと、その車椅子を押しているツナギは濡れたままでいた。

「……風邪、ひいちゃうよ?」

「…………」

二人はシュウカの声かけに反応せず、無言でいた。


 そのままユウを家に送り、自分達の家へと帰るツナギとシュウカ。

「…………」

「…………」

「……怒ってる?」

家に入るとシュウカはツナギに聞いた。

「…………ごめん、ちょっと今は無理」

「あっ……」

そう言ってツナギは部屋にかけあがった。

ツナギは部屋に入ると鍵をかけ、扉の前で立ち止まる。

「うぅ…………」

そしてその場でうずくまった。

色んなことが起きすぎて整理をする間もなく、それでもゲンジツはただ襲いかかってくるだけだった。



 一方、ユウは家に帰り、親にずぶ濡れなことがばれ、適当に誤魔化し部屋に一人でいた。

「…………っ、うっ……」

ユウも部屋に入るなり無数の涙がこぼれていたが、しばらくして自分の机の上に見慣れない物が置いてあるのに気付く。

「……て、がみ?」

泣きながら机の上に置いてあった手紙を手に取る。

〔網走夕様へ〕

白い封筒には横文字でそう書いてあり、裏を見ても差出人や他になにも書いていなかった。

(……あたし宛……ここには親が置いたのかな)

中を開く。

そこにはこう綴られていた。

〔網走夕様へ はじめまして。といっても、もうあなたに会うこともないのですが。 この手紙があなたの手に渡っている頃には、私は儀式を止められず、死ぬのでしょう。〕

「……?」

〔それでも私はあなたに真実とゲンジツを伝えます。 せめて後悔しないような選択をしてください。〕

「…………これ、は」

ユウはそのあとに書いてあったことに驚愕し目を見開く。

「………………」

「……後悔、しないような選択……」

「………………」

「…………あたしは──」

ユウは決心した。



 ──次の日。学校は休日でお休みだった。

「ん…………」

ツナギは冷たい感触に目を覚ます。

「私、昨日、このまま……」

ドアの前でそのまま丸まって寝ていたことに気が付く。カーペットの敷かれていない部分の冷たさだった。

「昨日…………」

考えるだけで、また瞳は潤みはじめる。

それでもツナギは唇を噛みしめ我慢するように部屋を出た。

「…………」

「……シュウちゃん?」

「…………」

家に誰かがいる気配はしなかった。

「…………とりあえず、なにか食べ物……」

昨日の昼からなにも食べていなく、空腹だった。

「……こんな時でもお腹減るんだ」

ツナギはキッチンへ行き、適当なパンを手に取りリビングへ戻る。無音が気になったため、何を見るわけでもなくテレビをつけた。

カーテンの外は昼だというのにも関わらず暗く、雲が広がってることがわかる。そして雨音もした。

「…………」

テレビを無心で眺めるツナギ。

【──こんにちは。お昼のニュースです。】

【──続いて、大手、角ノ森グループの跡継ぎで一人娘の角ノ森白世ちゃんが昨日から行方不明になっている件について、警察は──】

プツンッ

「…………」

ツナギはテレビを消した。

(……楽しい話題もなにもないのね)

パンを食べ終わり、天井をひたすら眺める。

(……昨日、私はどうしたらよかったんだろう)

(私達は、シュウちゃんが悪いとは言い切れない……。だってあのままじゃ殺されてたのは私、だったから)


『なんで、津凪ちゃん、なんだろうね?』


ツナギはナルに最後に問いかけられた言葉がずっと頭に残っていた。

「…………ぐすっ」

鼻をすする。

「そんなの、知らない。なんで私が……」

涙が溢れてしようがないツナギ。

一通り泣き終え、顔をあげる。

(こういう時……いつも真流が気を使ってくれてたっけ……)

大事な妹や家族を思い浮かべる。

(そういえば……しばらくお見舞い行けてない……)

暇さえあれば妹のお見舞いに行っていたツナギは、その頃を思い出す。

「真流……」

日付をカレンダーで確認するツナギ。今日の日付に印がついていた。

(そっか……ちょうど一年前……なんだ)

ツナギは重い体を持ち上げるように動かし、出掛ける準備をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る