第五話 「ある少女の回想⑤」

 朝になった。

カーテンの隙間から太陽の日差しが顔にかかり、目が覚める。

時計を見ると、ツーちゃんとの待ち合わせ時間だった。

「え!?なんで!」

「なんで起こしてくれなかったの~?」

そう言って慌てて部屋から出ると、家はとても静かだった。

(いつもならこの時間はまだお父さんもいるはず……?)

リビングへと向かう。

「だれもいない……」

(昨日は怒られたから話を聞かなかったけど、朝、早かったのかな?)

とにかく自分が間に合わなくなるから、支度を始める。

ピコンッ

「ツーちゃんからだっ」

慌てて携帯を手に取る。

〔シュウちゃん、お寝坊ー?〕

〔ごめんねっ今日は先に行ってて!〕

〔了解ー〕

「急がないとっ」

大急ぎで荷物をまとめて家を出た。

学校にはギリギリで間に合った。


 わたしが教室に入ったあと、すぐに担任が入ってきて、ツーちゃんと話もできなかった。

ツーちゃんは自分の席でわたしに手を振った。

なんとなく、教室を見渡した。

なにも変わりない。

本当に昨日のことは夢だったのかもしれない。


「夢じゃないわよ」


「ひっ」

「ん?どうした、大元」

「い、いえなんでも……」

「そうか」

(今声がどこからか……)

「教室の端の席をご覧なさい」

「え…………」

 言われた通りに端の席を見た。すると見慣れない少女が当たり前のように席に座っていた。

「あれ、私の半身みたいなモノだから。仲良くしてあげてね」

「…………」

そう言って声は聞こえなくなった。

見慣れない少女は、なんとなく昨日の少女に似ていて、こちらに気づくと数秒見つめた後、顔を前に戻した。



 朝のHRも終わり、ツーちゃんの席まで行く。

「ねぇ、ツーちゃん?」

「なぁに?シュウちゃん」

「ツーちゃん……本物?」

「えっなあにそれ?なんかのクイズ?」

「ううん、ねぇ、昨日……なんだけどさ」

「昨日?」

「あ……いや、なんでもない……」

「そう?変なシュウちゃん」

「……じゃ、じゃあシウは授業の準備するねっ」

「あ、うん」

なにも言えず、自分の席に戻る。

その後の授業も普段通りだった。

見慣れない少女も普通に授業を受けている。

「…………」

わたしは気になりすぎて、授業の内容はこれっぽっちも入らなかったけど。



 お昼休み。いつも通りにツーちゃんとお弁当を食べる。が、朝は寝坊したし、親がいなかったからなにも持ってこれなかった。

ツーちゃんがお弁当を分けてくれた。

「……ねぇツーちゃん?」

「ん?」

「あの、その、クラスのさ、端っこの席に座ってる──」

「冬乃さん?」

「そ、そう、冬乃さん……。下の名前ってなんだっけ?」

「えっと、確か……冬乃蝶々さん。だったと思うよ」

(聞いたことない、そんなクラスメイトなんて……)

「そっか!思い出した!ありがとう」

「冬乃さんが、どうかしたの?」

「え?いや、ほら、なんか不思議だなーって……」

「ミステリアスだよねー美人だし。」

「う、うん……」


「そういえばシュウちゃん、親御さんなんでいなかったの?」

「え?さぁ……」

「もしかして当分帰ってこないとか?」

「えっと……確認しないとわかんないけど……」

「もし、そうなら。私がシュウちゃんの家に泊まってもいい?」

「えっ……」

「ダメ……だった?」

「ダメじゃないよ!全然、でもいきなりだったから~」

「ほら、シュウちゃん今日寝坊してたから、それに一人だとなにかと心配だし……」

「……親に、聞いてみるね」

「うん」

「……でも、シュウちゃんの家族はいいの?妹さんの勉強だってあるんだし……」

「あ……えっとね、昨日、私早く帰っちゃったじゃない?」

「?」

「それで……ちょっと真流が、事故に遭っちゃって……」

「え!?」


びっくりした。

ツーちゃんと昨日の認識も違ければ、マリちゃんが事故なんて話……

そこでわたしは思い出した。

昨日あの少女が言っていた言葉。


『生き返らすには、貴女はどんなことでもする。それが条件。』

『そして、期限は一年間。その間は幸せな夢を見させてあげる。』

『これは錬金術を使った《儀式》。貴女がその条件を全て果たした時、初めて彼女は生き返る。』

『条件は追々話すわ。私も側で見守る。』

『では、せいぜい幸せな時間を。後悔しないようにね』


これ、全部夢なんだ。

幸せな夢。

それをゲンジツにするには、わたしはどんなことでもしなくちゃいけない。


「……シュウちゃん?」

「えっあっごめんね~そんなことも知らなくて……」

「ううん。あ、ねぇ、お見舞い今度一緒に行ってくれる?」

「うん。もちろん~」

「よかったぁ、きっと真流も喜ぶよ」

「……うん」

隣には何も知らないツーちゃんがいる。

わたしは、

わたしは、

どんなことをしても絶対ツーちゃんを生き返らせる。

そう誓った。

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