第四話 「ある少女の回想④」
「…………」
そのまましばらくの間、顔を伏せていた。
「お困り?」
声が聞こえた。
「…………」
「私なら貴女の願いを叶えてあげることができる。って言ったら貴女はどうする?」
「え…………?」
わたしは顔をあげた。
すると目の前にはさっきまで誰もいなかったのに、気配すらなく、足音ひとつたてずに近づいたのだろう。
一人の少女がこちらをみて微笑んでいた。
「だれ……?」
「私なら貴女の願いをなんでも叶えてあげられる。」
「え?」
「どんな無茶難題でもいい、例えば……」
その少女は含み笑いながら言った。
「そうねぇ、死んだ人間を生き返らす。とか……」
「!?」
「まぁ条件はいろいろあるけど」
「…………」
「どうする?」
「信じ……られない……」
「そうよね。人間っていつもそう。こう言ってあげてるんだから、もっと強欲に生きればいいのに」
「…………」
「証明すればいいのよね。えーっと、じゃあ……」
少女は周りを見渡していた。
「なんにもないわね」
「…………」
「なんか壊れてるものとか、持ってない?消耗品でも良いわ」
「消耗品……?それなら……」
わたしは筆箱から消しゴムを取り出した。
「うーん、マジック程度にしか見られない気がするけどいいわ。それ持っていて」
「……?」
言われるがまま消しゴムを手に持った。
「一瞬だから目を離さないで。」
そう言うと少女は消しゴムに触れる。
「!!」
半分くらいは使ってあったはずの消しゴムは目の前で、みるみる新品さながらの形になっていった。
「わー……」
「ほら、それだとマジック程度にしか見られないって言ったじゃない」
「で、どうするの?」
「え……?」
「え、じゃなくて。貴女の願いを叶えられるのよ?条件はつくけど。」
「…………本当に、死んだ人間を生き返らすことなんて出来るの?」
「できるわよ」
即答だった。
「ただし、条件と期限はあるわね」
「条件と期限……?」
「詳しいことは始めてみないと定まらない。」
「?」
「まぁ、貴女がどんなことをしても彼女を生き返らせる。という覚悟があるなら出来るってことよ」
「え、ツーちゃんのことなんて一言も……」
「なんでも知ってるわ。貴女がいじめられていて、それを助けたのがあの子で、唯一の友達で。」
「!」
「あの子が死んだ時も知っている。もちろん殺した犯人もね。」
「っ!」
「見たければ見れるわよ。その瞬間を。おすすめしないけど。」
「…………」
「そして叶えられる願いはひとつだけ。貴女に払える対価なんてそんな程度しか持ってないから」
「だからあの三人を消すことだって出来る。でもそんなことより、貴女の願いはあの子が生きることでしょう?」
「…………見せて」
震える声でお願いした。
「……おすすめしないって言ったけど、いいの?」
「…………」
わたしは頷いた。
「そう。わかったわ」
パチンッ
指を鳴らす音がした。
そこは駅のホーム、ツーちゃんはそこで電車が来るのを待っていた。
特急の電車が通過するお知らせが鳴る。
ツーちゃんは先頭に並んでいた。
後ろには何人も並んでいて時間帯的にも混み始めていた頃だった。
そして、ツーちゃんは電車が通過する直前に線路に落ちた。
それはもう、即座に四方に飛び散った。
落ちる直前、すごい勢いで誰かに押されたことがわかる。
騒ぐ人達。その場で吐く者もいる。
騒然としたホームで、誰よりも早くその場を抜け出そうとしていたあいつらが見えた。
「…………うっ」
意識が体に戻ったのを感じた。
「…………おえぇ」
その場でわたしも吐いた。
「だからおすすめしないって言ったのに。」
「…………うっうぅ………」
涙と鼻水が止まらなくなった。
「……で、貴女の願いは?」
「……お願い、ツーちゃんを……生き返らせて……。」
「……どんなことでもする!だから、シウに関わったばかりにこんなことになったツーちゃんを生き返らせて!」
「……承知したわ」
「生き返らすには、貴女はどんなことでもする。それが条件。」
「そして、期限は一年間。その間は幸せな夢を見させてあげる。」
「これは錬金術を使った《儀式》。貴女がその条件を全て果たした時、初めて彼女は生き返る。」
「条件は追々話すわ。私も側で見守る。」
「では、せいぜい幸せな時間を。後悔しないようにね」
そう告げた瞬間、突風が吹き荒れて目の前から少女は消えた。
「…………」
ピコンッ
携帯がメッセージを受け取った音。
そのメッセージは、ツーちゃんからだった。
〔いいよー! じゃあ明日また学校でねっ〕
「……ほん、とうに?」
心の底から喜びが込み上げてきたが、謎の少女は本当に願いを叶えてくれたんだろうか?
このメッセージだけでは、判断できなかった。
明日になれば、わかる。
そう思い、わたしは家に帰った。
帰ってくるのが遅いと親に叱られ説教を受けたけど、無事に部屋に帰ることができ、携帯を手にした。
「…………」
人身事故の件がどうなったか気になったわたしは、SNSでそれらしき単語で調べてみる。
「えっ……」
なにひとつでてこなかった。
無かったことになっているのか、ただ消されただけなのかわからなかったけど、もしかしたらさっきまで悪い夢を見ていただけなんじゃないかとさえ思えた。
そう思ったら、なんだかどっと疲れが押し寄せて、わたしはそのまま寝てしまった。
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