第四話 「友達トノ日々①」

「──まだ───だ──いの?」

「もうすぐ────しまう」

「い──なら────あう」

「──やく、──も──だして──」


 キーンコーンカーンコーン……

「────!」

「─────なぎ!」

「───津凪!」

「うーん……」

 目を開けるとユウが隣にいた。

「津凪が居眠りって珍しいねー、寝れてないの?」

「んーいやちゃんと夜も寝てるんだけどな……あはは」

自分の失態に少し恥ずかしくなるツナギ。

「それより次移動教室だから、いかない?」

「そうだね。……ってあれ?シュウちゃんは?」

ツナギは教室内を見渡し、もう1人の友人の姿を探した。

「あれ、いないね。いつもなら真っ先にツーちゃん~ってしてるか、寝てるか内職でもしてるかなのに。」

「内職って……」

「あれは傑作よ。芸術品だわ!」

「先生の話聞かないでお絵描きしてるだけじゃん……しかも下手……」

「いやいやあれは見る人が見たらすごいものかもしれないよ?」

悪巧みをするかのような笑みを見せるユウと呆れるツナギ。

「トイレでも行ってるのかな?」

「そうだね……あーでも次移動って知ってるかな?」

「シュウちゃんのことだから……どうかな……」

「じゃあ、あたし時間かかるし先行ってるね!」

「うん。シュウちゃん見つけたら追っていくね」

軽く手を振り合う二人。車椅子を転がし去っていくユウを横目にツナギはシュウカを探すため廊下に出歩く。


(トイレにいなかったなー……じゃあ職員室?んー、でももう時間あんまりないしそのまま向かった可能性も……)

 友人が見つからないツナギは移動教室の方へ歩き始めていた。と、その時見えにくい角度だがシュウカらしき人影が見えた。

「あっシュウちゃ……」

手を振りシュウカを呼ぼうとしたツナギ。だがシュウカの向かいにもう一人別の人物の影が見え、呼び出すのをやめてしまう。

(あれは……同じクラスの……冬乃さん?話したことないけど……)

シュウカの向かいに立っていたのはクラスメイトの『冬乃ふゆの 蝶々ちょうちょ』だった。

整えられた綺麗な黒髪。制服も着崩さず、手持ちの物も一切着飾った様子がない。いつも凛としていて、けれどどこか現実離れしたような雰囲気を纏う少女。

ツナギは話したことがなく、そもそも誰かと話す姿を見たこともないような子だった。

(シュウちゃんが冬乃さんと……?なにを話すんだろ……?)

向こうからはツナギの姿は死角で見えてないらしく、シュウカはツナギの存在に気づいていない。かといって会話が聞こえる位置でもないのでツナギは様子をみることしかできなかった。

「────」

「────!────!」

(シュウちゃん、なんか必死そう……?でも内容は聞こえないし……)

「────」

「────!」

「…………」

表情も一切変えることなく、その場から立ち去ろうとするチョウチョがツナギの方へ歩いてくる。

(わっこっちに来てしまった)

とっさに動けるわけもなくツナギはその場に硬直してしまった。

隣を何事もなかったかのように素通りしていくチョウチョ。一瞬、すれ違う際に横目で見られた気がした。

「待って!!冬乃さん!!!」

チョウチョを追いかけるようにシュウカが走ってきた。

「あ、ツーちゃん…………」

ツナギに気づき、追いかけるのをやめる。

「え、っと……」

状況がわからないツナギは、その場の雰囲気からしてあまり良くないことぐらいしかわからなかった。

「シュ、シュウちゃん次移動教室だよ?行かないの?」

「…………そうだよね!今行くよ~」

先ほどの表情から一変、フニャリといつものふやけた笑顔をするシュウカ。

「あ、あのね。冬乃さんが授業行かない……みたいなこと行ってたから!行こうよ!って言ってたんだ~」

「そっか。びっくりしたよ、あんまり冬乃さんと話すイメージシュウちゃんになかったからさ。」

何事もないように話すシュウカ。ツナギも会話の内容は特に聞き取れていないし、それならば、と納得をした。


「ごめんね?シウを探してくれてたの?」

「うん。教室にいないの珍しかったから。」

「そっか~えへへ」

「どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ~」

キーンコーンカーンコーン……

授業開始の予鈴が響き渡った。

「はわ!」

「わっやば。急ごうシュウちゃん!」

「ふえ、また走るのー?」

「廊下は……走っちゃダメだけどねー、ほんとは。まあ早歩きで」

「ふえええ、待ってよツーちゃん~」


(あれは気のせいかな……?なにか言われた気がしたんだけど……)

チョウチョとすれ違った際に横目で見られ、チョウチョの口元が僅かに動いていた。気がした。

そんなことを考えながら早歩きで移動教室に向かった。

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