第三章 「儀式」

第一話 「それぞれの想い-side N-①」

 子供の頃から運動はそこそこできた。

身長だって背の順ではいつも後ろ。活発で動き回っていて、女の子らしいところはなにもなかった。

別に自分ではそれでいいと思っていたし、特に困ることもなかった。

中学から学園に入り、スポーツは一通り出来たため、なんの部活でもよかった。ソフトボール部にしたのはただ今までであまりしてこなかったからってだけであり、やり始めたら案の定、コツを掴むのは早かった。

そう言ったら怒る同級生も出てきた。それは勘違いだ。


私は別に努力をしていないわけじゃない。部活のために見えないところでもトレーニングや練習はひたすらやっていた。

むしろそれしかやってないくらいだった。

他のクラスメイト達が遊びに行く時に誘われても断っていたし、携帯を見ていても、調べることはどうしたら上達するか?という方法ばかりだ。


ある時、家でついていたテレビを何気なく横目でみた。そこには同い年くらいの女の子が可愛く着飾られ、笑顔で周りの大人達と意味はないことを話していた。

持て囃され持ち上げられ、彼女はどんなに周りに与えてもらって生きているのだろう。と思った。

興味もなかったから見ていたのはその一瞬だけで、すぐにトレーニングに戻ったけれど。



 高校に上がった。

学園は中高一貫のため、普段からの勉学を怠っていなければ特に問題なく上がれる。

最初にクラスに入ったとき、なぜか一人の少女の周りにクラスメイトが群がっていた。

隙間から見えたその子は、見たことのある顔をしていた。

すぐは思い出せなかったが、あとで名前を聞き、あぁあのテレビでみたアイドルの子か。と判明した。

特に興味もないから、私はそれだけだった。

部活の方も高校になると本格的な全国大会へ向けて練習やメンバー選別がある。私にはそれだけのことしか頭になかった。


また高校になると中学からの私の噂は少し広まっていたみたいで、すぐにファンクラブみたいなものができた。

それにもあまり興味はなかったから、特にわーきゃー言われても軽く手を振るだけでよかった。


「ちょっとあんた」

そう彼女に呼び止められるまでは。


「なんだい?えっと、音無さんだっけ?」

「あんたのそれ、ファンサービスにすらなってないわよ」

「ファンサービス?」

「そう。応援してくれている子達への心からの感謝とお礼よ」

「そう言われてもなぁ……私は君みたいにアイドルではないし……」

「アイドルって職業のことなら、そうかもしれないけど。あんたにはもうファンクラブがあるんでしょう?」

「まぁ、勝手に出来ちゃってる……みたいだね」

「勝手に、でもなんでも関係ないわよ。つまりは応援してくれているのでしょう?」

「……まぁ」

「それに対してのあんたの態度。感謝の気持ちやお礼が微塵も感じられないわ」

「…………」

あまり考えていなかったことに突っ込まれた気分だった。他の人達が勝手にやり始めたことをどうして感謝しなくてはいけないのだろう。それに私には関係な──

「関係なくないわよ」

「え?」

口に出していたわけでもなく、心の中を読まれたようだった。

「確かにあの子達はあんたからしたら勝手にやってるのかもしれない。でも、勉強や課題もしながら、加えてあんたのことを応援するということをしている。」

「夜遅くまで横断幕を作ったり、どうしたらあんたが練習に打ち込めるか、迷惑にならないように応援するにはどうしたら。って毎日考えてる。」

「それって、あんたと同じなんじゃないの?」

「!!」

「あんたが部活に対して寝る間も惜しんで努力してるのをあの子達は知ってる。と同時にあの子達も同じようにあんたのことを思って努力してるのよ。それに対して関係ない?じゃああんたは自分が努力したことが実らなかったらどう思うのよ。」

「別に、アイドルじゃないのはわかってるし、なにもあの子達もあんたに何かを求めてはないでしょうね。」

「けど、アタシはあんたの、その関係ないって態度が気に食わなかった。それだけよ」

「…………」

「呼び止めて悪かったわね。アタシも忙しいし、それじゃあ」

彼女は嵐のように言いたいことを言って去っていった。


そんなことがあった日の夜は珍しく部活ではなく、違うことを考えていた。

(同じ、か……)

確かに私はあの子達の応援や努力を無視してきたのかもしれない。それは良くないことだと彼女は私に教えてくれた、気がする。

(にしても……)

明日は彼女に私の言いたいことも言おうとその日は眠りについた。


 翌日、彼女を見かけて声をかける。

「なに?」

「君のお陰で、少し目が覚めたよ」

「あらそう」

「あぁ、これからはあの子達の想いも大切にしてみることにするよ」

「そう。それだけ?」

「私も、君に言いたいことがあってね」

「なによ」

「君さ、」

「アイドルなのにテレビと違って口悪いね?」

「なっ」

「アイドルってそういうものなの?」

「違ってかそんな口悪いわけ」

「悪いよ」

必死になって否定する彼女が面白くて笑みが溢れる。

「あんたなんなの……」

「ふふふ、いやでもまぁ目の前でみると可愛いねほんと」

「なっ……」

今度は顔が赤くなる。

「あーまじ、あんたなんなのほんとさぁ~」

「南瑠」

「え?」

「南瑠でいいよ。よろしく綺楽」

「勝手に呼び捨て……」

「いいじゃないか」

「……いいわ、アイドルに悪口言ったこと後悔させてやる」

「はははは」

「なに笑ってんのよ、もう……ふふふ」

なんて、そうやって部活にしか打ち込んでこなかった私に、部活もなにも関係ない友達が出来たんだっけな。

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