第二話 「楽シイイツモノ日常②」

 携帯左上に表示されている時刻は、午前8時20分頃。

 シュウカの家を出て、2駅電車に乗り、学校の最寄り駅からちょっとした坂を下る。学校まで20分ちょっとで着くのは楽なほうだ。歩くのがのんびり寄りなシュウカでも、ツナギと毎朝話ながら登校できる。この上ない幸せな空間だった。


「あっ!ねえツーちゃん?近くに新しいパンケーキのお店できたって書いてある!今日の帰りに寄ろうよ~!」

「んー?なになにー?『季節限定!杏の甘さと梅の酸っぱさが混ざった濃厚シロップ付き!』おー美味しそうだねー」

「ねえねえいこいこー?」

 シュウカの携帯を覗き込んでいたツナギ、その横、少し斜め下からの角度で目をクリクリさせねだるシュウカ。

「もーほんとそういうのずるいんだからー」

「んー?なにがー?」

 まるでわからないと顔を傾けて不思議そうな顔をしている。本当にわかってないんだろうなぁとツナギは天然の恐ろしさを目の当たりにしていた。

「あ、そういえばシュウちゃん、いつもそのストラップ付けてるよね?カエルみたいな……ネコみたいな……?」

「カエルネコさんだよー!」

と自慢ばかりにストラップをつまんでドヤるシュウカ。

「カエルネコさんはねー、ほんとかわいいの!色はカエルみたいにいろんな色のカエルネコさんがいて、でもネコみたいにもふもふなの!!あとねあとね……」

「へぇー……」

これは長くなりそう……とツナギは友人の見たことのない早口さに若干驚いていた。

「ふふ、その『キモカワイイ』?って感じだっけ?シュウちゃんもほんわか可愛いだけじゃないんだねえ」


 ツナギがそう発した刹那、一瞬だがシュウカの顔が雲って見えた。

「…………うん。そうだね!こういうのもたまにはいいかなーって!」

次の瞬間にはシュウカはいつものホワっとした笑顔でえへへとばかりに笑っていた。

(……?気のせい、かな)

太陽が雲に隠れて一瞬周りが暗くなったからそう見えただけだろうか。

(でも、シュウカの見たことない一面は見れたし、一緒に住んでてもまだ知らないことがあるんだなー)

とツナギは自分の知らない友人のこと、そして自分のことがあるのかなとぼんやり考えていた。


「むぅー?ツーちゃん?」

「わっ」

 気づいたらシュウカがツナギを不思議そうな顔をして覗き込んでいた。

「どうしたの?考え事?珍しい~」

「えっいや、なんでもないよ。どうでもいいこと!」

「そうなの?」

眉間に少しシワを寄せたシュウカが首をかしげている。

「うん、あ、ていうかちょっと走らないと間に合わなくなっちゃいそうだよ」

 ツナギは携帯の時刻をみて、のんびり歩きすぎた自分達の呑気さを知る。

「はわわ、ほんとだ、走るのやだよ~」

「小走りでいいから、いこっ」

「あっ」

 ツナギはシュウカの手を取り、二人は初夏の風に制服をたなびかせ軽く駆けていく。

シュウカは手を繋いでもらった嬉しさで満足そうな顔をしながら思った。


(ツーちゃんの手、やっぱりんだなぁ。)


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