第五話 「強サト弱サ②」

 その日の授業も終わり、空を見てまた夕暮れが訪れるのかと思うと少し憂鬱になるツナギ。

(今日もまた居眠りしちゃったな、まぁ最近色々あったんだけど……)

シュウカの方を見ると、授業中からずっと寝てるのか突っ伏したままでいる。

「はぁ」

「お、ため息?幸せ逃げちゃうよー」

ツナギが色々考えていると、そこへユウが話しかけに来た。

「あはは、そうだねー」

「お疲れ?」

「うん、そうかも」

「また授業中寝てたしね、最近多くない?大丈夫?」

ユウのそういう何気ないところが友達想いで優しいなと思うツナギ。

「うーん、なんか最近夢見?が悪くて……」

「えー?どんな?あ、この前見てたスプラッタ映画みたいな?」

「そういえばそんな話してたね」

その場しのぎの冗談だったが、ユウは会話の内容を覚えるのが得意らしい。今までもよく覚えているなぁと思ったことは何度もあった。

「あの後、冬乃さんには会えた?」

「あー、うん。会えたよ」

「そっか」

「夕、なにか用事だった?」

「ううん、お疲れならいいんだ」

「大丈夫だよ。なんだったの?」

「いやー、今日も向こうの学園に先輩と一緒に呼ばれちゃってさ。津凪達もどうかなーって思ったんだけど……」

話ながらシュウカの方を向くユウ。

「秋叶も疲れてそうだし、今日はあたしと先輩で行くよ」

「そうだね。それに、夕だけならまだしも先輩がいるのは申し訳ないよ」

「そっか」

「うん、鳳来さんと、居たら音無さんに挨拶よろしくね」

「おっけー」


「あ、降ってきたね」

 教室の窓越しに雨粒を確認するユウとツナギ。

「しばらく天気不安定なんだっけ……」

「うん、真夏になるまでは降ったり止んだりみたい」

「それで?」

「そうそう、なんかグラウンドで練習できなくなるから、室内でもできるトレーニングとかの参考に~って感じみたい」

「夕はすごいね」

「すごくはないよ」

他人ひとの役にたってるだけで偉いよ。私なんか自分のことで精一杯だもん」

「そう?あたしはツナギは結構色々面倒見がいいと思うんだけどなー秋叶とか」

「シュウちゃんは、一緒に暮らしてるんだし、お互い様だよ」

「そう?秋叶はさ、結構自由なところあるじゃん?ずっと一緒にいて疲れることないのかなぁってたまに思うよ」

「うーん、私じゃ気がつかないことも気づいたりするし、本当、持ちつ持たれつだよ」

「そっかぁそう思ってもらえて秋叶は幸せもんだなぁ」

「夕のこともそう思ってるよ」

「ははは、ありがと!じゃああたしそろそろ行くね」

「うん、また明日。雨だから気をつけて」

「うん、ばいばい!」

手を振って教室を出るユウ。


「……雨かぁ、傘あったっけ……」

 雨音が響く教室はほとんどの生徒が部活や帰宅に向かい、数人が残されていただけだった。ツナギはシュウカの席へ向かう。

「シュウちゃーん、起きてー帰ろうー」

シュウカをゆするツナギ。

「ふにゃ~あと五分~」

「もー朝じゃないんだから、そんなこと言わないのー」

「うーん……」

唸りながらもシュウカは顔をあげる。

「シュウちゃんおでこに跡付いちゃってるよー」

「うえ~ほんと~?サイアク~」

「髪の毛で隠れてるから大丈夫!雨が強くなる前に帰ろう?」

「ふにゃ……」

寝ぼけ眼のまま帰宅の準備をするシュウカ。

「シュウちゃん、傘持ってたりする?」

「ふぇ?たぶん、あるよ~」

「そっか、良かった」

帰り道に濡れる心配がなくなったツナギはシュウカを撫でる。

「ほえ?」

「ふふ、シュウちゃん可愛いからたまにこうしたくなるの」

「そっか~」

満更でもないシュウカは満足した猫みたいな顔をする。


「今日は、でないといいね」

「うん、そうだね~」

学校の玄関までたどり着き、靴を履き替えながらそんな話をする二人。


期待とは裏腹に、帰り道にさも当然のごとくソレは居たのだった。

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