第四話 「強サト弱サ①」
翌日、いつも通りに登校し、いつも通りに過ごす三人。授業が終わり移動教室の帰り道、教室へ戻ろうとする三人の耳にあまり好ましくない怒声が聞こえた。
「おい聞いてんのかよ!」
「耳付いてねえんじゃね?はっしょーがいしゃじゃん!」
「はぁーやだやだ、障害者だから許してください?とか関係ないんですけど?」
きゃははははと笑い声も聞こえたが、それは楽しい空間からででくる産物ではなさそうだった。
「あれって…………」
ツナギがユウの車椅子を押していたが、急に止まった。
「あー……またやってるんだ。あいつら」
「夕、知ってるの?」
「飯田と茂原と目黒でしょ?同じクラスの」
「それは、見たらわかるけど……」
同じクラスという認識はしているが、あまり関わったこともなく、その三人も特に目立つタイプではないためツナギは目にした状況に驚きが隠せなかった。
「一部では有名だよ。あいつらに目をつけられたらいじめられるって。」
「そう……なんだ……」
被害を受けている子はクラスでは見たことがなく、他のクラスなのだろう。抵抗せずに、殴り蹴られ続けているのを頭を抱えしゃがみこみ、ひたすらじっとしていた。
その姿を見たツナギはいたたまれなくなる。
「助け、なきゃ」
「え、ちょっと津凪?」
ユウの声かけにも答えず、ツナギは車椅子から手を離し向こうへと歩きだそうとした。
その時、シュウカがツナギの腕を強く掴んだ。
「……痛いよシュウちゃん。」
「………………」
シュウカは黙りこんで、その手はツナギの腕を掴んだまま離さない。
「秋叶……」
ユウはその様子を見ていることしかできなかった。
「ツーちゃんが、巻き込まれちゃうよ?」
ボソッとシュウカが口にした。
「それは……」
考え無しにただ助けたいという気持ちだけで動こうとしていたツナギ。割って入ったその後のことなんて考えてなかった。
「……ごめん。シュウちゃん、とりあえず行かないから離して?」
「うん……」
シュウカは掴んでいた手を離す。
「心配……してくれてありがとう。」
「ううん……」
「でも、見て見ぬふりはできないよ……」
「じゃあ別の方法を考えようよ」
ユウが提案する。
「ツナギが巻き込まれないで、あの子を助けられる方法。」
「そうだね」
ツナギは辺りを見渡す。
「あっ」
教師の一人が近くを歩いてるのを目撃した。
「せんせーい!あのー!聞きたいことがー!あるんですけどー!」
ツナギはありったけの大声でその教師を呼んだ。その声にビックリしながらも駆けつけてくる教師。
三人はいじめの現場の方を見る。
「ちっ誰だよ、先生来ちゃうじゃん」
「とりあえず逃げよう」
そそくさと現場から立ち去る三人組をみて、ホッと胸を撫で下ろす三人。どうやら向こうからはこちらの顔も見られていないようだった。
「なんだ、大声で呼び出して。」
走ってきた教師が少しばかり迷惑そうにツナギ達へ問い詰める。
「あっいや、そのー……」
「なんだ?」
いじめられていた子はまだその場にうずくまっていた。
「あ、あそこに具合悪そうにしてる子がいるので見てあげてほしいなーって……ほらあたし車椅子だから、次の授業遅れちゃうし……」
ユウがフォローする。
「そういうことなので~」
シュウカが急いでる風に先へ歩きだす。続いてユウの車椅子を押しながらツナギもその場を立ち去ろうとする。
「まぁ、そういうことなら。でも廊下は走るなよ」
「ありがとう先生!じゃあっ」
ユウは振り返りながら教師に手をふり、三人はそこから立ち去った。
「はぁー」
「あはは、よかった。私達ってバレなくて」
「もうほんとだよ~」
三人は教室に戻り、安堵していた。
「急に大声だすからシウもビックリしちゃった~」
「ごめんね?でもああするしか思いつかなくて……」
「でも結果的に良かったじゃん?」
ユウは教室内を見渡す。
「あいつらは……まだ帰ってきてないみたいだし」
「ふぅ、本当によかった」
ツナギは少し考える。
「少しでも……助けになったかな……?」
「なったよ~」
すかさずシュウカがまるで当事者かのように答える。
「でも……根本的には解決してないし……」
「見て見ぬふりしてないだけマシじゃないのかな?」
ユウもシュウカに続くようにツナギに言った。
「あたし、一人だったら、車椅子だしきっと、出来ることないなぁって。通りすぎていたかも」
「そんな、こと……」
「本当だよ。一人じゃなにも助けてあげれなかった。あたしは無力だよ。こうなってからは特に……」
ユウは車椅子をこれでもかというくらい握り絞めていた。それには今の事象だけじゃなく、これまでのことも振り返り悔やんでいるのだろう。二人にはかけられる言葉が無かった。
「ツーちゃんは、強いんだよ!それに救われる人は、大勢いると思う!」
シュウカは不安になっているツナギを励ます。
「いや、でも私だって一人じゃ……二人がいてくれたから!ありがとう」
「にへへ~」
「そうだね」
三人はお互いの存在を確認しながら微笑み合う。
「あっ次の授業の準備してなかった!じゃあまた次の休み時間で!」
「うん、じゃあシュウちゃん席に戻ろっか」
「うん~」
それぞれの席に戻る三人。
戻り際、誰にも聞こえない声で呟くシュウカ。
「一人でも、出来ちゃうのがツーちゃん、なんだよ……」
その声は少し寂しそうだった。
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