第三話 「イツモノ日常ノ変化③」
放課後、二人はユウに用事があると伝え、足早に学校を出た。
「先生すら冬乃さんの住所とかなーんも知らないとはね~」
「というより、先生のあの感じ、冬乃さん自体の認知もされてなかった気がしたけど……」
「不思議だね~」
「そんな呑気に言ってる場合じゃないんだけどね……ははは」
早くに学校を出たとはいえ、夕方には変わりなく、日が暮れ始めていた。
「どうする~?今日はもう帰る~?」
「うーん、そうだねー、別になにかするわけでもないし、そもそも手がかりもないんじゃ……」
「お呼びかしら」
どこからともなく声が聞こえた。
「冬乃さん!」
二人の目の前にはいつの間にかチョウチョが立っていた。
「昨日は時間がなかったために、説明が急ぎ足になってしまったわね。主様に説明が足りていないと怒られてしまったわ」
「主様?」
「それで、聞きたいことはなに?」
「あ、えっと、その、儀式って……?それに私達なんでこんなことに……」
ツナギは一生懸命に訴える。
「《儀式》については答えられない。そういうものだから。そして貴女達が選ばれたのには理由がある。他の人達もね。けれどそれも答えられない。そういうものだから。」
(他の人達……?)
「そ、そういうものって言われても……」
「説明が足りていなかったのはその力の使い方のほう」
チョウチョは戸惑うツナギを無視するかのように話題を変える。
「基本的には四大元素、すなわち〈火〉〈土〉〈水〉〈風〉を元に儀式を行うつもりだったけれど、貴女だけ違ったみたい」
「え?私?」
ツナギの方を向いてチョウチョは続けた。
「まぁイレギュラーなのはいいとして、その力は〈光〉であって本来は無いものなの」
「それにより、また新たなイレギュラーが発生した。儀式を邪魔するソレらは珍しい貴女を狙ってくるわ」
「全然言ってることわからないのだけれど……《ソレら》は昨日のあの変な気持ち悪いやつ?」
「そう」
「じゃあまたあれが……」
「それは仕方のないことだから、自分達で対処して」
ツナギはチョウチョの素っ気ない態度に困惑していた。チョウチョは構い無しに続ける。
「力の使い方だけれども、昨日のを見る限りじゃ解ってないみたいね」
淡々と、一方的に。
「最初に祈り願ったように、それぞれの武器に込めるの。そうすれば物理攻撃ではなくても当たるわ。今の貴女達なら少しくらいの魔法を使えるようにしてあるから」
「……時間みたいね」
「えっ?」
チョウチョはそう言うと背後を向いた。
その先には昨日見たような黒い塊がボコボコと地面の方から沸いているように見える。
「私は見てはいるけど関われない。そして貴女達とは違う世界の者。だから詮索しても無駄よ諦めなさい」
そう言い残して立ち去ろうとするチョウチョ。
「待って冬乃さんっ!」
「……────────とね」
「え?」
強い風がいきなり吹き荒れた。するとその場にはシュウカとツナギの二人しか残されなかった。
「ツーちゃん!」
「あっ……」
黒い塊は今にも破裂しそうなくらいの大きさと丸みを帯びていた。
(今は、やるしかない!)
[我ハ光ナルモノ ソノ役目カラ全テヲ終息サセル]
[我ハ土ナルモノ ソノ役目カラ全テヲ始マラセル]
二人は変身し、それぞれの武器を持つ。
(えっと、さっき冬乃さんが言ってた……祈り願い……)
「力を込める!」
ツナギは剣を握る両手に力を入れた。すると剣が一回り大きくなったように見えた。実際には大きくなったのではなく、剣の周りに光が集まっていた。
(これを……飛ばす?)
「えい!」
ツナギは空中をその剣で凪いだ。その剣筋が光線のようにソレへと向かっていく。そして当たった。
「やった!?」
パンッッ
安堵したのもつかの間、大きく膨れ上がっていた塊がツナギの攻撃の衝撃で破裂した。
「!?」
塊は液体が溶けるように道路一面に広がっていく。そしてその広がった地面から人間の腕のようなものがウヨウヨと出没した。
「うわ……」
「ふぇ~……」
横で見ていたシュウカも気持ち悪がる。
腕のようなものは2.3本がくっつき、塊になったかと思うと、大きくなりツナギ達へ襲いかかった。
条件反射でツナギは剣を振るい、シュウカは鎌を振るう。
ペシャッペシャッ
切れた腕は液体となりまた塊の一部へと戻ってしまう。
「これじゃ……キリがない!」
「ツーちゃん!」
焦っているツナギにシュウカは声をかける。
「シウがこのウヨウヨしてるのを纏めてどうにかするから、ツーちゃんはそれを、一撃で倒して!」
「あ、うん!それなら……!」
ツナギは少し後ろに跳び、距離をとる。
[土ノ力ニ基ヅキ ソノ姿ヲ変化サセル]
シュウカがそう呟くと、シュウカの持っていた鎌は大きくなり、それを全ての腕に当たるようにシュウカは横に振る。すると鎌だった刃先はまるで大きな縄のようになっており、その縄が絡まり幾本もある腕を1つの束に纏めあげていた。
「今だよ!」
「よし!」
ツナギは両腕をあげ剣を天に突き上げる。
[光ノ力ヨ集結シ我ノ道筋トナレ──!]
剣に光の束が集まり、それをソレに向かい放った。
ドゴォォォ
地面が抉れた音がした。
「あ゛あ゛ぁ゛」
短い悲鳴と共にソレは消滅した。
「……ふぅ」
「わーい!ツーちゃんかっこいい~」
シュウカは跳び跳ね喜んでいた。
「シュウちゃんもありがとう」
「ふへへ~~」
二人は元の制服へと戻っていた。
「あ、でもこれどうするんだろ……」
ツナギは地面が抉れている箇所を見て事件にならないか心配になる。
「心配は要りません」
「え?冬乃さん?」
辺りを見回してもそれらしき人影はいない。
「《儀式》の最中ですから、それに伴う損傷及び事象は全て関わりのない一般の人々からは無かったことにできます。それはこちらでやりますのでご安心を」
「ならいいんじゃない~?」
シュウカはツナギに向けて笑顔を見せる。
「そっか、ならよかったの、かな」
ツナギは自分達が魔法少女かのように変身した姿を誰かに見られていたら……と想像していたため、安堵した。
「……ソレらは薄暮の時間帯に出現することが多くなりますので、ご注意を。では」
「聞こえなくなっちゃった~」
「本当、不思議だね……」
ツナギはチョウチョに対して聞きたいことが聞けなかったもどかしさはあるが、ソレを倒せたことにより少しの達成感はあった。
「今日は帰ろっか」
「うん!お夕飯はなにかな~?」
「なにが食べたい?」
なんて日常的な会話を、非日常な出来事のあとにするのはおかしいのだろうか。そんなこともよぎりながら二人は帰路へと向かうのだった。
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