第十一話 「歯車ノ動キ始メ③」

 登校しながらツナギは今朝の朝食時のことを思い出していた。

テレビからは雑多なニュースやトレンドが流れており、それに対してシュウカはあれがどう、これはこうなど言っていて、ツナギもそれに答えるように会話はしていた。けれどそれは裏を返せばその話しかしてないようにもみえ、わざと話を逸らしているようにも思えた。

傘を差しながらの通学はお互いに少し距離が空くため、余計に込み入った話はしづらい。

(まぁ、今日帰ったあとでもいいか……)

とツナギは気ままに考えていた。



 教室に入るといつものざわめきが今日は少し違ったものにも思えた。

「ん?どうしたんだろ?」

教室内ではそれぞれのグループに分かれていつものように会話はされているが、その内容まで聞こえないがどれも似たような話題であるという雰囲気は察せた。

「ユーちゃん、いないね~?」

「そうだね、まだ来てないのかな」

自分達の仲間を探すように教室を見渡すツナギ達。

「とりあえず鞄、置こっか」

それぞれの席に着く。

少し時間が経った後、ユウが教室に入ってくるのをツナギは確認した。ユウのそばまで行くツナギ。

「今日は遅かったね。なにかあったの?」

「あ……津凪……」

「元気ない?」

「えっと、その、ね──」

キーンコーンカーンコーン……

ユウが口を開いたと同時に朝のHRが始まる鐘が響く。と入口付近にいたツナギ達の後ろから担任の先生が入ってくる。

「お前らー席に着けー」

教室全体に聞こえるように少し大きい声で担任は生徒を促す。

「あ、夕、ごめん、また後でね」

「うん…………」

ツナギが席に戻り、ユウもそのまま席に戻った。



「えー、今日は少し、大事な話がある」

 ザワザワと教室が揺れる。

(なんだろ?)

ツナギもいつもとの違いに少し胸がざわついた。

「知ってる人もいるかもしれないが、今日はクラスの席が三つ空いている。」

言われてみると確かに空席が三つあった。

「えーその席は、飯田、茂原、目黒の三人なんだが……」


(え?)

そこでツナギは昨日の夕方起こったことを思い返す。

(でも、ちゃんと逃げれてたし、ショック……だったのかな?それで休みとか──)

ツナギがそう考えている間に担任から衝撃的な事実が告げられる。

「三人とも、昨日からなんだそうだ」

「え……」

思わず声が漏れるツナギ。

「なんだ前倉なにか知ってるのか?」

クラス全体がツナギへ注目する。

「あっ、えっ、いや、昨日の帰り学校近くの駅で見かけたなーくらいで……あはは」

いきなりの注目に乾いた笑いがでてしまう。

「まぁ、そのくらいは他の人も見かけてはいるだろうな」

担任は話を戻す。

「それで、その後、昨夜から家に帰っておらず、警察にも連絡はしたが今朝に至るまでにまだ見つからないそうだ。」

「学校としても放課後教師も捜索に乗り出すのと、なにか事件に巻き込まれた可能性も考慮して、生徒は部活はなし。なるべく寄り道せず早く家に帰るようにとのことだ。」

部活をしている生徒からは「えー」や「大会あるんだぞー」などブーイングがかかる。

「しょうがないじゃないか。一刻も早く見つかるよう先生達も協力するんだから、文句言うな」

それぞれ近くのクラスメイトと三人の話や部活の話などで、雑音が酷くなる。

ツナギは昨日の出来事と現実の違いに驚いたまま、朝のHRは気づけば終わっていた。



(昨日、帰るところまではさすがに確認してないけど……助けたのに、なんで?どうして?)

 考えていても答えがでないことをずっと考察していて、午前の授業は全く身が入らなかった。

「ツーちゃん……」

「もしもし~?ツーちゃ~ん」

「ツーちゃん~大丈夫~?」

「あ…………」

気がつくとツナギの目の前にはシュウカがいた。

「お昼~食べよ!」

「え、もうそんな時間……」

教室にかけてある時計を覗くと昼休みに入って10分ほどは経過していた。

「寝ぼけてたの~?」

「いや……そんなんじゃなくて……」

シュウカのお気楽さに少し憤りを感じるツナギ。

「あれ、夕は?」

「ユーちゃん~?見かけないね~」

と教室内を見渡すシュウカ。

(なんか夕も元気なかったし……この事?いや、でも三人と夕は仲がいいよりむしろ逆に……)

「お腹減ったよ~」

「うん……食べようか」

仕方なくお弁当を広げるツナギ。

シュウカはもぐもぐと小さな口で一生懸命に食べていた。


「……ねぇシュウちゃんさ、」

「ふぁひ?」

「昨日の……件なんだけど」

元から気まずかった内容が一段と話すのが気まずくなってしまったとツナギは思いながら口にする。

「あー……」

シュウカも食べる手を止めている。

「シュウちゃんは、なにも知らないよね?」

「うん」

即答だった。

「だってシウ、あの後一人で帰ったもん」

「それは、ツーちゃんだって知ってるでしょ~?」

「……うん」

「だからツーちゃんが気にすることじゃないんじゃないかな」

「でも……私は三人を逃がして、一人で戦って、倒したし……」

「そうなんだ?」

「そうだよ!その場ではなにもなかったよ?」

シュウカはツナギが救えなかったのかもしれないということを思っていた。のかもしれないとツナギは少しむきになる。

「周りに聞こえちゃうよ?」

「あっ……」

「だったら、余計にツーちゃん関係ないんじゃない~?」

「え?」

「だって、もう一体いたかも知れない可能性はあるけど。先生言ってたじゃん~事件に巻き込まれた可能性もあるって~」

「そしたら、本当にツーちゃん関係ないじゃん……」

「それは……そう、かもしれないけど」

「そうだよ~」

(本当に時間帯が偶然なだけで、私は全く関係ないのかもしれない。けど、それでも助けようと思って戦った私は……)

「……だからシウは言ったのにな。」

「え?なに?シュウちゃん?」

「ううん、なんでも~!ほら~時間なくなっちゃうよ~」

お昼休みはあと5分ほどしか残されていなかった。

「そうだね、急がなきゃ」

ツナギは急いでお弁当を食べたが味がした気がしなかった。

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