第十二話 「歯車ノ動キ始メ④」

 キーンコーンカーンコーン……

 慌ただしかった昼休みも終わり、午後の授業開始の鐘の音は響く。

午後の授業が始まってもなお、ツナギはまだ割りきれてはいなかった。思考は朝の担任の言葉に引きずられたままでいる。

(そう、いえば)

朝を思い返していると、もう一人の友人の様子もいつもと違っていたのを思い出す。

(話、途中だったなぁ……)

元気がなさそうにしているユウに対して話を聞こうとした直後に担任が来たんだっけ。と授業を聞いていると思われるユウの席方向をみる。昼休みは結局時間もなかったため、話す余裕ができなかったと反省し、放課後は聞かなくちゃとツナギは少しだけ違うことにも思考を傾けた。



 午後の授業も終わり、帰りのHRで担任に、早く帰るよう生徒は釘を刺される。

シュウカが荷物を持ちツナギの席へ寄ってくる。

「一緒に帰ろ~?」

「そうだね……早く帰んなきゃだし今日は──」

「二人とも、ちょっと、いいかな?」

ツナギがシュウカに答え終わる前に、ユウが横から口を挟んだ。

ツナギとシュウカは珍しいユウの真面目なトーンにお互いに顔を合わせる。

「えっと、いいけど……」

「早く帰んないと怒られちゃうよ~?」

「そんなに、かからないよ」

深刻そうなユウに連れられ、二人は人気の少ない渡り廊下付近まで移動する。


「その、ね」

とても言いづらそうにユウが話し始めようとしていた。

その仕草から錬金少女がバレたりしたのかなと内心少しドキドキするツナギ達。

「昨日、なんだけど」

「やっぱりみられちゃった?」

シュウカは耐えきれなくなって声に出してしまう。

「え?」

「え?」

ユウが疑問符を付けて聞き返したことにより、ツナギとシュウカの想定違いらしいことがわかり、焦る二人。

「いやいやいやなんでもないのっ、ごめん続けて?」

シュウカが余計なことを言う前に口を塞ぐツナギ。

「私もね、昨日先輩から聞いたんだけど。」


「鳳来先輩が、怪我、したんだって」


「え?」

別の事とはいえ、驚きを隠せないツナギ。

「そう、なんだ……」

シュウカも雰囲気を察してか自ら黙り始める。

「しかも、それが利き腕……らしくって」

「それじゃあっ……」

「うん……大会も……。詳しくは状態聞いてないんだけど、もしかするとこれから先も……」

ユウの声は震えており、自分の車椅子をぎゅうっと握りしめていた。他人事とは思えないように悔しがっているのが目にみえた。

「なんで、怪我したとかは……?」

「それも、詳しくはないんだけど。先輩が聞いた話だと、暗くなった帰り道の歩道橋で階段から落ちた、らしくて……」

「そう、なんだ……」

「うん…………」

雨で湿っているのか、わからないほどこの場の空気も重く沈みこむ。

ツナギからみてもユウは結構参っているようだった。

(それも、そうだよね……。自分が、だから余計に……)

なにかに真剣に打ち込んだことがないツナギは、何て声をかけたらいいのか見失った。シュウカも同じだろう。


 しばらく無言は続き、それを解いたのはユウだった。

「……ごめんね、呼び止めちゃって」

空元気のような無理矢理明るくしている声。

「いや、全然。ありがとう、教えてくれて……」

「……まぁ、周りがどうするとか、できる問題じゃないし。しばらくは会えないの、かな」

「ユーちゃん……」

「でも、鳳来先輩なら乗り越えてくれると思う!あたしはそう信じてるよ!」

「そうだね。私も」

「シウも~」

「じゃあ今日はお開きってことで!また明日!」

「うん、また明日。」

「ばいばーい」

振り返りながら手を振り、車椅子を転がしてその場から去るユウ。それを二人は見送った。

「……心配だね」

「でもユーちゃんも言ってたけど、シウ達にできることなんてなーんにもないしね~……」

「うん……そうだよね」

「帰ろ~ツーちゃん」

「……うん」

二人も学校を出るためにその場を後にした。

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