第十四話 「交錯スル者達②」
「よく、ソレを倒せるね……」
「え?」
ツナギは声のした方へ振り向く。
二人分の足音。するとそこには見慣れない服装をした、知り合いの顔が目についた。
「鳳来……さん?と音無、さん……?」
驚きで声が小さくなるツナギ。
「やあ、この前ぶりだね。津凪ちゃん」
「…………」
ツナギに話しかけるナルと、その隣で睨み付けるキラ。
「えっと、お久しぶりです……。あの、その、」
状況がわからず、ツナギは言葉につまる。
「あはは、まぁ戸惑うのもわかるよ。私の格好もいつもと違うし。」
ナルは両手を広げるように服装をみせる。
ナルの服装は、軍服を模した短めの白いワンピースに大きめのベルト。肩には肩章があり、下は黒いスパッツ。編み上げの白いブーツ。まるで物語の王子様を連想させる格好をしている。
「そんなの、どうでもいいじゃない」
ナルの横からキラがあきれた声で呟く。
そのキラの服装もいつもと違い、緑色を基調としたまるでステージ衣装のようなキラキラしたスカートと可愛らしいジャケットを着ている。首もとには銀色に光るきらびやかなチョーカー。その後ろ側に大きなリボンもついていた。今にもアイドルコンサートができそうなほどだった。
「!!」
「あの!その!私達、鳳来さんが怪我をしたときいていて、その……。音無さん、も……声、治ったんですか!?」
ツナギは今目の前にいる二人の状態にも驚きを隠せず、食いぎみに、そして嬉しそうに二人に問いかける。
「治った……ね」
キラがうつむき呟く。
「そう、だね……」
「……?鳳来さん?音無さん?」
二人はツナギとの距離をジリジリ詰めているようにもみえた。
「え、えっと……」
その気迫に後退るツナギ。
「あっ……」
ガシャンッガシャガシャガシャガシャ
後ろを見ずに後退ったため、連なって停められていた自転車に引っ掛かり、自転車はドミノ倒しのように端まで倒れる。
静かな空間にその音だけが響き渡る。
「津凪ちゃんは、」
ナルが口を開く。
「津凪ちゃんは、魔法とか、錬金術とか、そういうものを信じるかい?」
「え?」
ツナギは二人が特殊な格好をしてこの場に現れたことで少し嫌な予感はしていた。
「私は全く信じてなかったよ。現実主義だしね。そもそもそのようなものが出てくる漫画やアニメも観ていなく、あまり馴染みがなかったからね。」
「私は、自分の力で勝ち取ってきたし、これまでも。これからも。そのつもりだった」
「他人に願いなどしなかったし、どうしようもないこともいくつも自分で乗り越えてきたはずだったよ」
「けれど、ゲンジツは不条理でね。そんな努力も一瞬で全て無駄にする。なにも、なかったことになるんだよ」
その声は怒りで震えていた。
「だから、しょうがないんだよ。これも、この結果も。私のためなんだから」
「え…………」
ナルはツナギにクロスボウの刃先を向けていた。
「え、あ、の?」
「ふふふ、津凪ちゃんだって、願ってそこにいるんだろ?そして《儀式》のことも了承して。驚くことはないじゃないか」
「え?」
なにも理解していないツナギは意味もわからずにただ呆然と立ち尽くしていた。
「……もしかして、なにも知らないんじゃない?」
キラがナルに声をかける。その手には大きい拡声器のような物を持っていた。
「……そうなのかな?」
ナルはクロスボウを向けたままツナギに聞く。
「わ、私、なんの、ことだか……」
答えるツナギのその声は震えている。
「まぁ、だとしても結果は変わらないし。可哀想だとは思うけど、これもこの先の未来や将来がある私のため」
ナルの得物は光を纒い始めた。
「っ」
ツナギは硬直してしまい上手く動けないでいた。
(殺られるッ)
とっさに目を瞑ってしまうツナギ。
「じゃあね、さよなら」
クロスボウから矢が放たれた。
ガキンッ
「な……」
放たれた矢はツナギに当たらず、金属同士が当たる音がその場に響いた。
「っっっ!?!?」
頭を抱え震えるツナギは自分が宙に浮いていることに気付く。
正確には宙に浮いているのではなく誰かに抱えられていた。
「えっ?」
ブオオオンブオオオンとエンジン音が側に聞こえる。
ツナギを抱えている人物はバイクに跨がっていた。そしてヘルメットをしており、その中を覗き込むツナギ。
「!!夕!?」
そこには見慣れた友人の顔があった。
「なに、してるんですか先輩!」
ナルとキラから距離をとり、少し離れたところから大声で怒鳴るユウ。
「あはは、参ったな。夕ちゃんもそうだったとは」
「なに笑ってるのよ。仕留め損ねたじゃない」
「ごめんごめん、けど、まぁそうか」
「??」
事態が未だに呑み込めないツナギ。
「えっと、あの、夕?」
「ごめん、津凪、説明はあと」
ユウは抱えていたツナギを下ろす。ツナギは目の前の友人の姿に驚いている。
ユウの姿は、赤いと黒の入り交じったライダースーツを身に纏っており、両足で立っていた。
「でも、夕ちゃんもそうってことは《儀式》には了承したってことなんじゃないのかな?」
「…………」
「そしたら、その行動に意味はあるのかな?」
「…………」
ツナギは俯いたままのユウがなにか呟いているのを聞いた。
[我ハ火ナルモノ 火ノ力ニ基ヅキソノ姿ヲ変化サセル]
すると、ユウが手をかけていたバイクの形をしていた物がみるみると形を変えていく。
「!」
気がつくとそれは大砲のような形になっていた。
「凄いわね……」
キラはそれを見た感想が溢れた。
「また、会えたら。その時はちゃんと話し合いしましょう」
「!!」
ボンッッと大砲がナルとキラをめがけて発射される。
と同時に辺り一面は煙で包まれた。
「行くよ、津凪。乗って」
「えっ」
大砲はバイクへと戻っており跨がっているユウがツナギを促す。
ツナギは言われるがままユウの後ろへ跨がりユウに掴まった。
ブオオオオオンとエンジン音が響き、バイクは煙の中を走っていった。
「ゲホッゲホッ」
「ゲホッこれ喉に悪いわね……」
煙が消え視界が晴れてきた二人はむせながらもバイクが去ってったであろう方向を見ていた。
「はぁ、どうするのよ。失敗したじゃない」
「まさか夕ちゃんも錬金少女になってたとはねー」
「とはねーじゃないわよ、呑気ね。敵が増えたじゃない」
「まぁ、夕ちゃんがこの場に来たのは確かに計算外だけど、錬金少女になっていたこと自体には驚きはないさ」
「そういうこと聞いてないんだけど」
ナルの話の聞かなさにムスッと呆れるキラ。
「またすぐ会えると思うし、今日は帰るとするか」
「気楽ね……時間はそんなにないのよ?」
「わかってる……それは誰もみんな同じだよ」
「…………」
二人は変身を解く。するとナルは利き腕を包帯で巻かれており、キラは無言のままナルが歩いた方へと着いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます