第十話 「偶然ナル繋ガリ④」

 ナルとキラの学園から歩いて数分、最寄り駅にたどり着く三人。

「あ、そうだ私チャージ切れそうだったから、チャージするね。二人は先にホームに降りて待っていてくれるかな」

ツナギが改札前で交通電子マネーカードを見て降り立ったときの残高を思い出す。

「じゃあ先に行ってるね~」

「急がなくていいよ」

「うんー」

と返事をしつつ軽く小走りで券売機もといチャージ機へと向かっていく。


「ありゃ少しかかりそうだね」

と機械の前に並んだ人達をみて、ユウは帰宅ラッシュの真っ只中ということを改めて認識する。

「電車も混んできちゃいそうだね~」

「まぁしょうがないよ。ありがとう付き合ってくれて」

「ううん、シウも楽しかったもん~」

「ふふ秋叶は変わらないなぁ」

「えー?なにが~?」

「可愛いってことだよ」

「またなにか企んでるでしょ~」

「企んでないない」

と二人は改札をくぐりホームに移動しながら何気ない会話をする。



(わー何分経ったかな。前の人なんかトラブってたし、待たせちゃったから急がないと……)

 携帯の時計を見ながら走りぎみでホームへ向かうツナギ。

「わっ」

軽い衝撃。

「ご、ごめんなさい」

視線を少し下に落とす。その衝撃の先には小学生くらいの女の子がいて、こちらを見ていた。

(大人が多いから小さくて下は見えてなかった……)

その女の子は、歳には似合わなそうなシックで清楚なワンピースを着ていて、その視線もどことなく大人びていた。

(あっ白杖……)

女の子が片手に白い杖を持っていてそれに気づいたのは少し遅く、もう片方の手は横に立っていた人のスーツを掴んでいた。そのスーツの人がツナギの方へ一歩進む。

「あ、あのごめんなさい。私見えてなくて、その申し訳ありません!」

その威圧差に怯みたどたどになりながらも必死になって謝るツナギ。

すると女の子の方がスーツの裾を引っ張った。まるでスーツの人物を従えているようにも見えた。

「ですがお嬢様」

スーツの人物は女の子になにか言っているようだったが、女の子は首を横に振った。

「……解りました。申し訳ありません。先に参りましょう」

女の子を囲うようにしてスーツの人物は何事もなかったようにツナギの横を遠ざかる。ほっと胸を撫で下ろすツナギ。


ふと、ツナギだけが聞こえるくらいの音量で声が聞こえた。


「まだ、思い出さないの?もうすぐ、始まってしまうわ」


(え?)

ツナギが振り向くと女の子はすでに逆を向いて歩き出していた。

(気のせい……?でもこの声どこかで……)

ツナギはシュウカ達の所へ歩きながらなにかを忘れているような気持ちに苛まれた。



「あっツーちゃんきた~」

 シュウカが少し先で手を振っている。

「ごめんね、ちょっと待たせちゃった」

「大丈夫。飲み物買ってたし。あ、津凪も飲む?」

「うん、ありがとう。」

そんな気持ちも二人と話してしまえば忘れてしまい、電車に乗り、今日あったことを振り返ってみる。

(今日は新しい出会いがあって良かったな。とても素敵な人達だったし。これからもこんな風な日々が続くといいな。)

なんてありきたりなことを思いながら、家の最寄り駅まで揺られていった。

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