第十二話 「イツモノ日常ノ終ワリ②」
初夏の校庭は真夏ほど日差しが強いわけでもない。けれどじめつき始めている空気と雲の多さ、温度のぬるさで密封空間にでも閉じ込められている気にもなる。
「はぁ~いやだよぉ~」
「まーだ言ってる」
「だってぇ~」
「諦めなさいな」
シュウカとユウは先生がまだ来ないのをいいことに喋っていた。
「あー……」
「どうしたの?ツーちゃん?」
「あはは……携帯、教室に置いてきちゃった」
「おー取ってきなよ」
「でもそろそろ先生来ちゃうんじゃないかな」
「そこはあたしが忘れ物したから取りに行ってもらったって言っとくよ」
車椅子なのを言い訳にできるユウの特権だった。
「ありがとう夕。じゃあ急いで行ってくるね」
「いってらー」
「いってらっしゃ~い」
軽く走り去るツナギを見送る二人。
「…………」
「ん?どうしたの秋叶?」
ツナギの走った方向を眺めていたシュウカ。
「ふぇ?ううん、なんでもないよ~えへへぼーっとしてた」
「じめじめしてるもんねー、私もこの時期に走るのは苦手だったなー」
「うんそうだね~」
何気なく交わした会話も少しばかり重く聞こえた気がした。
誰もいない教室。電気も消され午前中だというのになにか仄暗さを感じる。
(ええっと、携帯どこにしまってたっけ)
自分の席で鞄や着替えなどを漁るツナギ。
(あった、よかった)
と、ふと顔をあげるとクラスメイトであるチョウチョが目の前にいた。
「ひゃあ」
腑抜けた声が出てしまうツナギ。
「びっくりした。誰もいないと思ってたから……」
「…………」
その様子を見てもなにも動じないチョウチョ。
「えっと、冬乃さん……は、体育行かないの?」
体操服に着替えず、制服のままでいたチョウチョにツナギは疑問を投げる。
「思い、ださないの」
そう一言チョウチョは発する。
「え?なにを……」
「そう……」
ほんの少しだけチョウチョが俯いたようにみえた。チョウチョはなにかを握った手をツナギに差し出す。
「これを」
「え……」
言われるがままに受け取ってみるツナギ。
「えっと、これは?」
それは少し固くて重さがあり、小さい巾着袋に入っていた。
「それを離さず持っていて。使う時は遠くないから。」
「それじゃあ」
そう言って廊下の方へ歩き出すチョウチョ。
「えっ待って冬乃さん」
教室から廊下へ身を乗り出すツナギ。
「え……」
そこにはもうチョウチョの姿はなかった。走っていった足音もしなかったのに。
「持っていて……って……」
怪しいもので押し付けられたのだとしたらどうしようなど考えたツナギ。
(まぁ、あとで会ったら返せばいいか……)
と、着替えて畳んでおいた制服のポッケにしまって教室をあとにした。
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