第二章 「キッカケ」

第一話 「イツモノ日常ノ変化①」

 ツナギ達が謎の出来事に遭遇した、その日の夜。ツナギは一人、部屋のベッドに寝転がり天井を眺める。天井の模様ともいえない細かな線を視線でなぞりながら今日あったことを思い返していた。

(まだ、夢みたいな感じだな。)

手に握った石を天井に向ける。その石は袋から出したときのような石色と違い、今は宝石の様に半透明で金色に輝いていた。

(こんな石で……そもそもあれは一体……)

漫画やアニメは普通程度には触れていたため、そのような事象に憧れることはあった。でもそれはファンタジーで、現実にそんなことはない。そう解っているからの憧れ。

(実際に謎の生物?に襲われるなんて誰も望んでないよなぁ)

ソレは思い出すだけで気持ち悪くなるような見た目、そして恐怖そのもの。そんなものを見た日には眠るのにも苦労する。


(……そういえば、冬乃さん、なんか言ってたな)

──「只今より儀式の手筈は調いました。これより貴女方を《錬金少女》とし、儀式を始めます。」

(儀式ってなんの?そもそも魔法少女じゃなくて錬金少女?錬金って錬金術……?)

自分が頭がおかしくなったのかというほど、それぞれの単語が現実離れしている。

──「また、その石は好きな形に変えてくださって問題はないので普段持ち歩きの際は手放さないような物にしておいてください。」

(好きな形……持ち歩き……)

ふと手に持っているこの綺麗な石がアクセサリーならいいな。とツナギは思った。

(アクセサリーにするなら……学校でばれにくいネックレス、かな)

すると手に持っていた感触が変わった気がした。

「え?」

見てみると、ただの塊だった石が、その石を元にした綺麗なネックレスに変わっていた。石の大きさも少し小さくなり、装飾デザインもお店にでも売っているかのようになった。

「本当に変わるんだ……」

呆然とするツナギだが、今日あった他の出来事に比べると大したことでもなく、驚きは最小限で済んだ。

(はぁ、なんか疲れちゃったな。)

色々考えている内に睡魔が襲い、ツナギは目を閉じた。




「───ってしまった──」

「──けれど───なら──まだ────」

「ゲンジツを────して──」

「───に───前に──」

「───が─少しでも─────のなら──」



「はっ」

ピピピピッピピピピッ

 目が覚める。寝汗が部屋着を肌にくっつかせた。

「うーーん」

目覚まし時計を止める。今日はまだ平日、これから学校へ行く支度をしなくてはいけない。

「さすがにダルいなぁ」

(シュウちゃんは大丈夫なんだろうか……?)

昨日の夕飯時を思い出す。

あまりにもショックだったのか、いつもならテレビを見ながらあれやこれやと会話する二人だったが、無言でテレビの音だけが部屋に流れていた。

(朝ごはん、食べないと)

時計をみる。なにが起きても、なにがあっても無慈悲に針は時計回りに進む。時間は待ってはくれない。

ツナギは気だるいながらも着替えて下に降りた。するといつも通りの景色がそこにはあった。

「あ、おはよ~ツーちゃん!」

シュウカは制服にエプロンをつけ、朝ごはんの準備をしていた。

「あ、おはよう……」

「今、起こしに行こうと思ってたんだ~今日は早いね~?」

「えっと、シュウカ……?」

「なぁに?ツーちゃん?」

心底不思議そうな顔をしてツナギを見るシュウカ。

「あの、昨日の……」

「あー……と、冷めちゃうから食べながらでもいいかなぁ?」

「あ、うん」

二人は席に着く。

ツナギはシュウカのあまりにも態度に、少しだけ不安になった。

「シュ、シュウちゃんは──」

「ツーちゃんはさ、どうしたい?」

「え?」

自分の言葉を遮られ、シュウカの口から出てきたのはツナギの予想してない言葉だった。

「ほら、その、錬金少女?よくわかんないけど……別にシウ達じゃなくてもさ。やらなくてもいいじゃん?」

目から鱗だった。やらなくてもいいという選択肢があるのか、とツナギは少し考え込んだ。

「だって、ほら、冬乃さんは勝手に話進めてたけど、全然意味わかんないし~」

シュウカはちまちま食べながら、へらりと話す。

「そもそもなんでシウ達がこんなゲンジツに襲われなきゃなんないんだろうね~」

軽く話しているように聞こえるのはシュウカのいつもの喋り方なだけで、声色は少し違うようにもとれた。

「でも、またもしあんなのが出てきたら……」

ツナギが口を開く。

「それは、そうだけど~……」

「対抗できる手段があるなら、儀式?とか錬金少女?とかよくわかんないけど、自分の身を守らないと……」

「うん……そう、だよね」

シュウカは納得したように頷く。

「…………」

「…………」

少しばかりの沈黙が部屋に訪れる。



「そうだ、冬乃さんが好きな形に変えられるって言ってたの覚えてる?」

ツナギが沈黙を破る。

「え?」

「これみて」

「わぁ~きれ~」

ツナギはネックレスに成った石を見せる。

「色も、金色だぁ……」

「シュウちゃんは違うの?」

「シウのは、そんなに綺麗じゃないかな……」

シュウカはポケットにしまっていた石を取り出す。それはツナギより不透明で土色をしていた。

「おー、地味……だね」

「でしょ~?でもほんとツーちゃんの綺麗だよね~」

「シュウちゃんは形、変えないの?」

「うーん、持ち歩きやすい……なら髪飾りとか……ピン止め、とかかなぁ?」

すると石の形が変化する。石部分は薔薇の形をした渦巻いた状態になり、ピン止めで留まるようになっていた。

「ほぉ~~」

シュウカは興味深くそれを見ていた。子供が目を見開いて玩具を見ているかのようで、それは違和感もなくまさしくいつものシュウカだった。

「ふふ、よかった」

「ほぇ?」

「シュウちゃんなんか無理してたかなって心配になっちゃって」

「そうだったんだ……ごめんね~えへへ」

「ううん」

「ゲンジツ、はどうしようもないのかもしれないけど、ともかく普通にいつも通りにしてよっか」

「うん、そうだね~」

「特に夕を巻き込んだら大変だし、学校で冬乃さんに詳細を聞きに行こう」

「うん」

「じゃあ早く食べないと!時間あんまりないよ!」

「ふぇ~まだ食べ終わってない~」

ほんの少し、いつもとなにも変わらなさに安堵する二人。

これからも、何事もなくずっとこうしていれればいいのにな。と祈るしかなかった。

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