オーガニックな日焼け止めを手に入れた俺ですが、砂浜に戻ってすりすりさせていただきました。

 3つのパラソルが順繰りに俺を出迎えた。送り出すときと同じ。これって。


「御手洗清様。遅かったですね」

「本当、おっそーい!」

「清くんったら、どこで油を売ってたの?」


 たしかに思ったよりもかかった。七瀬のときと同じくらい凄かったから。


「清くんのこと、ずっと考えてたわ」

「お母さん、清くんが美少女に襲われてるんじゃないかって心配してたのーっ」

「そうそう。どこかでラッキースケベに襲われてんじゃないかなって」


 この3人は鋭い。


「けどこの島の人の価値観って、不思議よね」

「ブスが美少女、美少女がブスだなんて。清兄、混乱したんじゃない」

「ったく清坊はブスにも美少女にもモテるから油断できないぞ!」


 知ってたんだ。それで俺に頼んだのか。みんなブスって言われたくないだろうから。それにしても、よく考えたらみんなどうかしてるよ。日焼け止めというマストアイテムを東京から持ち込まないんだから。


「兎に角、日焼け止めは持ってきたからね」


 俺はそう言いながら3本の瓶をみんなに見せた。言われた通りの品を持ち帰ったこと以外に俺に自慢できることはない。最初に反応したのは、お母さんだった。


「清くん。この瓶の中って温泉よねーっ。神様には出会わなかったのーっ?」

「えっ?」


 お母さん、ブス神様のことも知ってるのか。これは計算外! 俺はついたじろいでしまい、不審な行動をした。そういうのを見逃さないのがいっぱいいる。


「あれ、お兄さん。ひょっとして、お会いしたんじゃ……。」

「この島の神様ってたしか女神よね……清兄、まさかっ!」

「間違いない。清坊、その女神に会ってるな!」


 まりえと麗と麻衣は切り込み隊長。そんな3人への対処法は充分に学んでいる。黙ってやり過ごせばいい。けどまさか葵と茶緒が連携してくるとは思わなかった。簡単な誘導尋問、俺がそれに気付いたのは言い終わったあと。


「その女神って、なんて名前だっけ……。」

「たしか、ブタ女神じゃなかったかしら!」

「ちげーよ。ブッブス神様だよ。女神だけど。って……。」


 あとの祭りである。俺が温泉で女性に会ったということは、俺によって白日のものとなった。間髪言わずに七瀬と飛鳥。連動しているのは間違いない。


「ふーん。ブス神様に会ったのねーっ!」

「で、どんな神様なの? ブス神様って」


 こうなったら、隠してもしかたがない。俺はなるべく嘘にならないように、言葉を選びながら対応した。葵と麗。


「それは……ブス……だったよ……超絶ドブス。ブス神様だからなっ!」

「へーっ。清くんって、いつからこの島の人になったの?」

「ヴワァーってなったお母さんと比べても、ブスなのかしらーっ!」


 まずい。まずい。まずい。完全にバレてる。ブス神様たちが超絶美少女だってこと。けど、3人との儀式のことはバレていない。隠さなきゃ。隠さなきゃ。これだけは隠さなきゃ! どうしよう、どうしよう、どうしよーっ!


 俺が思案していると、みんなが口々に言った。聞いてて悲しくなったよ。みんなからの俺への信用って、ゼロなんだってことが痛いほど分かった。俺は別にスケベじゃないのに。ちょっとばかりラッキーなだけなのに。


「お兄さん、もういいわ。ね、ゆめ」

「そうね。どうせ本当のことなんて言わないんだろうし」

「巫女や神様が私みたいにヴワァーってなったとか言わないでしょうね」


 聞こえてくるのは俺に対する失望。まりえやゆめや葵なら軽口を叩くこともある。けど、居候3人衆にまで見放されたのでは、俺も立つ背がない。


「二の腕がどうとか、太腿の内側がどうとか」

「そんなの聞いても清くんが困るだけよ」

「七瀬や飛鳥の言う通り。オレたちには関係ない」


 一応は家主のせがれだというのに、この扱いだ。


「清兄がブス神様との儀式の最中に」

「くちびるを奪ったことの感想とか」

「お母さん、そんなことはどーでもいいいのよーっ!」


 止めは昨日知り合ったばかりの茶緒を間に挟んでの実の家族。辛い。あまりにも辛い。9人からの集中砲火はまるで見ていたかのように正確で、反論の余地さえ与えられぬまま、ずるずると最後まできた。ようやく俺のターン。


「とっ、兎に角。折角の日焼け止めなんだから……。」


 そこまで言ってハッとした。今度は無言の圧力が俺を押し潰そうとする。6つずつ3ヶ所に分かれた黒々とした悪戯な瞳が俺を見ている。悪くはないなんて思えるほど、俺は強くない。俺は改めて3本の瓶を差し出す。


「……好きなだけすりすりしてください」


 俺が振り絞った言葉を9人がリズムをとって否定した。3人のうちの2人が見つめあい、残りの1人が俺を睨む。それを3拍子で入れ替わり行うと、最後には全員の目が俺を向いた。厳しい目。


「お母さん、清くんに全身くまなくすりすりしてほしいなーっ!」


 それが9人の総意であることは他の8人が首を縦に振るのを見なくても分かった。こうして俺は9人に日焼け止めを全身くまなくすりすりすることになった。

_____________

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