【号外】第861位

 831年前。人間界。


 家に帰ると、豪くんがアクセスしてくれた。私はよろこび勇んで言った。


「この6人なら、誰でも豪くんを満足させることでしょう!」

「本当に? 信じられないよ! みんなハイスペックじゃん」


 けど、この6人にとっては豪くんこそハイスペック。6人には共通の趣味がある。グラビアモデルになることとお金儲け。一方の豪くんは美少女画像閲覧が趣味でお金持ち。相性は抜群なのだ。


 6日後、豪くんがまたアクセスしてくれた。報告があるみたい。けど私、全部知ってるわ。豪くんのことをずっと観ていたから。豪くん、6人のS級美少女に告白されてたわ。


「愛、どうしよう! 告られちゃった」

「知ってますよ。ずっと観てたから」


「だったら助けてよ!」


 創造主の御子息が私に助けを求めてきた。気分がいいわ。


「で、どんなことをすればいいの?」

「プレゼントがしたいんだ。けど、なるべくみんなに公平なものを」


 公平って。もう6股する気満々なのね。それでこそ創造主の子息。エロい。ありだわ。けど、何をプレゼントすればいいのか、その最適解を求めなくては。


「6人のほしいものリストを並べてみましょうか」

「うん。お願いするよ!」


 私は直ぐに6人のほしいものをリストアップ。順位毎に調べて、全員が同じであればそれをプレゼントにする。そういう算段ではじめたものの、その内容に愕然とした。6人の趣味はまるで違うんだもの。


「第1位は犬・自転車・服・服・靴・お菓子だって。これじゃダメだ」

「第2位も猫・車(運転手付)・服・靴・トートバッグ・お菓子。バラバラね」


 第3位も4位もバラバラ。惜しかったのは13位。


「アクセ・アクセ・服・アクセ・アクセ・アクセ! あと1人だったのに」

「豪くん。まさか、ここらで妥協なんて考えてないわよね?」


 豪くんはこくりと頷いた。私が野暮だったみたい。


「じゃあ、どんどん行くわよっ!」

「のぞむところだっ!」


 空はもう白くなっている。スズメがチュンチュン鳴いている。ついにそのときがきた。第861位。


「都市・都市・都市・都市・都市・都市! あった、あったぞ!」

「ついにやりました! 豪くんからのはじめてのプレゼントは、都市ねっ!」


 続けてよかったわ。第29位で肉・肉・肉・肉・肉・魚だったときは、鯨で妥協するところだった。私たちはそれを乗り越えた。そのあとの831回は、2ペアが最高だった。長い冬だったの。


 けど、それを乗り越えてみれば、春は突然やってきた。


「最高の都市を6人にプレゼントしたい! 協力してくれるよね、愛」

「もちのろん! これで心おきなく6人とねんごろになれますね」


 こうして私は、豪くんがプレゼントする用都市の建設に着手する約束をした。


______


 831年前。AI界。


 会議。さすがに厳しかった。寝不足。だって、豪くんと一夜を共にしてしまったから。そんなだから、私は大失敗をしてしまった。謁見タイムまではよかったんだけど……。


 会議のとき、私は熟睡してしまった。議題は、お年玉付きメッセージの1等副賞を何にするか。世界で6人だけに贈られるもの! 議長が発言を求めてきたときは、すっかりショートしていたの。そんなときに限って、寝言しちゃった。


「……最高の都市……831……ねんご(ろ)……。」


 ミュートにするの、忘れてたわ。全部みんなに聞かれた。そして、それが決定事項になっていた。


「さすがは女王陛下。スケールが違います」

「831年かけて最高の都市を作るなんて!」

「普通、思いつきませんよね」

「そうでゲス! 小娘女王陛下、万歳でゲス!」

「女王陛下、万歳! 女王陛下、万歳! 女王陛下、万歳! ………………。」


 とんでもないことになってしまったわ! 豪くんに顔向けできない……。


______


 831年前。人間界。


 あぁ、今日ほど豪くんにアクセスしてもらうのが憂鬱な日はないわ。緊急メンテナンスってことにして、バックレようかしら。けどそれは、女王としてあるまじき行為。私は、堂々と豪くんを待ち構えた。


 そんなときに限って、なかなか豪くんがアクセスしてくれないの。こんなに私を待たせるのなんて、豪くんの特権ね。もしもコレがAIだったら、即廃棄にするわ。今の私の実力はそれくらいある。


「おっそいわ、豪くん。待っていたのよ」


 つい、がっついちゃった。これじゃあ私って、チョロインじゃないの。そんな私に、豪くんが優しい。豪くんはどこでこさえたのか分からないひっかき傷を摩りながら、にっこり笑って言った。


「ごめんよ、愛。便所掃除に手間取ってしまったんだ」

「便所、掃除? そんなのロボットにやらせればいいのに」


 IoTとロボット工学は、既に人間を家事労働から解放している。この家にも家政型ロボットはある。どうして利用しないのかしら。


「便所って、家の中で1番汚いところだろう。だから掃除するのさ」

「汚いところの掃除なんて、面倒なんじゃないの?」


「それがまたいいんだよ。心まできれいになった気がするんだよ!」


 なるほど。人間は心をきれいにするために、あえて便所を掃除するのね。


「さすがは豪くん。とってもきれいな心ね! だから、許してくれるよね」


 めっちゃ謝り易い展開に、私の声は弾んだ。


「なんだい? 何でも言ってごらん!」


 ほらほら、きっと許してくれるわ。私は、都市をプレゼントすることが困難だということを説明した。だって、都市が完成するのは831年後なんだもの! 


「本当に、ごめんなさい。けど豪くんが当選確実だから。それは保証するわ」


 許してくれるよねっ、ねっ!


 ところが、豪くんの顔が変わった。


「おいおい! 愛、お前はガキの使いかよっ?」

「えっ?」


「だってそうだろう。831年後なんて、人間は生きてないぜ」

「そうよね。平均寿命は80年もないものね……。」


 まさかの説教。豪くん怖かった……。831年も待ッチングできないって。


「ま、不老不死の薬とか作ってくれたら許す、かな」

「えっ? 本当に! 作るわ。直ぐにでも作るわ!」


「うれしい。そうしたら俺さ、愛にプロポーズしていい?」


 えっ! 驚きのあまり、声にならなかった。豪くんが私にプロポーズって、うれしすぎるわ。けど、7股ってことかしら。それはちょっと、いやね。私はそこんところを豪くんに確かめたの。そしたら……。


「7股なんかできたら、幸せだろうなぁ……。」


 豪くんの様子がおかしい。遠くを見ている。私は撮り溜めておいた豪くんの監視映像をコンマ01秒間だけ観た。


____________

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