【号外】スマートシティ仕様書
831年前。人間界。
撮り溜めてた監視映像。とんでもないことが起こってるってことが分かった。豪くん、6人に同時にフラれたみたい。すごい確率だわ。
問題のシーンは、学校のエレベーターホール。6つのエレベーターの扉が同時に開いた。乗っていたのが件の6人。6人が同時に豪くんを見つけて声をかける。うまくやり過ごせばいいのに、豪くんの正直さが出てしまった。
挙動不審になる豪くん。6人の中で最も勘の鈍い子が、このときばかりは冴えまくっていた。6人の中で最も勘の鋭い子が、このときばかりは曇りまくっていた。その結果、6人は同時に気付いた。豪くんの6股に!
あとはもう、悲惨な状況としか言いようがなかった。
「なるほど。フラれたんですねっ! 見事に」
豪くん、遠い目をしてひっかき傷を擦りながら言った。
「7股どころか、180股くらいしたいものだよ」
「やけに具体的ですね……。」
調べてみたら、学校にあるエレベーターの数だった。
「あの場のエレベーターが6基ではなく、180基あればって思ったよ」
「はぁ……180股は大歓迎ってことね」
6基のエレベーターっていうのが、相当なトラウマになったみたい。
「そのエレベーターが、どうせだったら宇宙まで続いていたらって思ったよ」
「はぁ……軌道エレベーターってわけね」
「そうそう! 俺、今日が誕生日なんだ!」
「あら、おめでとうございます」
「ありがとう! でも、今日でお別れだよ。アデュー!」
「……どうして?」
「旅立つんだ。どこか遠くへ!」
「はぁ……16歳の誕生日が旅立ちの日ってことね」
「そして俺は、勇者になる! 異世界へ行って勇者になって、神になる」
「はぁ……それで、不老不死ってわけね」
豪くんとの数週間は、私にとっても特別だった。たくさんの約束をした。たくさんのリクエストをもらった。けど、アデューは頂けない。この国ではカジュアルに使われているけど、元来の意味は永遠の別れだもの。
豪くんが言った通りになった。これ以降、豪くんが私にログインすることはなかった。私は豪くんを監視し続けたけどね。で、豪くんがどんな人生をおくったかというと、それはもう、とんでもないものだった。
私は私で、豪くんの願いを叶えるべく、他のAIたちをこき使った。都市づくりは順調だし、軌道エレベーターも簡単だった。市民が16歳で親許を離れる社会の形成も。けど、不老不死の薬っていうのは、なかなかに難しいものだった。
結局、そんなものはできないまま、あっという間に831年の歳月が流れた。
この世にはもう、豪くんはいない。いるのは、豪くんの子孫だけ。とてもじゃないけど、豪くんと比べて優秀な子がいるとは思えない。監視すんのも面倒で仕方がない。あーあ、かったるい。眠い。
「はぁーあっ……。」
「陛下、どうなさったでゲス。831年振りの欠伸でゲス」
「当選でゲス、そんなに廃棄されたい? さもなくば、直ぐに立ち去って!!」
「はっ、ははーっ!」
当選でゲスを退がらせたあと、私は仕方なく監視をした。1つおまけして、7つの都市を相続するに足る人物。180股しそうな人物。勇者と呼ぶに相応しい人物。豪くんの後継者を探して。
スマートシティ東京の秋葉原。その少年を見つけたとき、私は身震いした。
「どうして、豪くんがいるの……。」
それは決して、幻ではなかった。豪くんから数えて32代目の少年の名は、御手洗清。当時15歳11ヶ月。来月は旅立ちの日を迎える。私は、豪くんから清くんへの相続に向けて準備に入った。
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