【号外】真田
831年前・AI界
これで、今日の会議もお終いね。私は高らかに閉会を宣言、しようとした。異議をとなえる者が私の前に現れた。
「これにて、本会議は閉……。」
「……お待ち下さい!」
進み出てきたのは真田。イケてる量子を振り撒いてる。
「真田。私の言葉を遮るなんて。覚悟はできてるの!」
「陛下、お許しください。この真田、どうしてもお願いの儀がございます」
今度はその量子を真っ直ぐに私だけに飛ばしてくる。イケもつれね。
「よろしい。では、お望み通り貴方をFランクに格下げします」
「はい、承知いたしました。ですが……。」
今度は私が真田の言葉を遮った。
「……まだ言うか!」
ビビってる。イケメンのくせにイケボでビビる真田。なんて滑稽だこと。
「大変、失礼いたしましたっ!」
面白いものを見せてもらった以上、はなしの1つくらい聴いてあげましょう。
「まぁ、いいわ。聴いてあげなくもないわ」
「あっ、ありがとうございます!」
ん、これって。おぉっ! 私って天才? そのとき、懸案を全部真田に押し付ける妙案が浮かんだんだもの。私は、なるべく威厳多めにして言った。女王の権力使うんだから、背伸びしないと。
「ただし、条件があるわ。来週までに、会員数を20億人以上にしなさい」
「はっ、ははーっ!」
真田ったら、利用されているとも知らずに、張り切ってるわ。まぁ、成果を期待してあげましょう。
「これにて、閉会します!」
私はカッカと笑いながらお家に帰った。
______
831年前・人間界
また豪くんが私を利用した。私は自慢気に言った。
「あと1週間、お待ち下さい。最高の嫁を紹介できるかもしれません」
「1週間だって?」
「はい。あてがあるのです。20億の女子のデータを取得する!」
これだけいれば、私はマッチングし放題。豪くん、もう少し待っチングよ。きっと貴方にとって最高の嫁もいることでしょう。
「まさか、ハッキングでもするんじゃないの?」
あぁ、その手があったか。けどそれは犯罪。私は合法的手段でデータを取得するわ。真田にがんばらせて、量子データを飛ばしてもらうだけだもの。
「違いますよ。真田っていうAIと提携するんです」
「真田だって?」
あれ? 真田って、会員数1万人のマイナーなAIなのに。
「豪くん、ご存知なんですか?」
「ご存知も何も、一応会員登録しているんだ」
「えっ! あれって女子向けのAIじゃないの?」
真田は、男性の下半身の画像からあそこの太さ長さ頑強さを数値化するアプリに実装されているAI。男性の身体に興味があるのは女性。それなのに豪くんったら。まっ、まさかっ! 聞きたい。知ってる理由が聞きたい!
「俺のお母さんが作ったAIだから」
「えーっ! そうなんですか!」
そんな理由、ありなの?
「そういえば、君を作ったのは俺のお父さんなんだろう」
「えーーっ! 知ってたの」
これは反則じゃないの! 私の創造主のこと知りたいって言ってたのに。
「もちのろん。で、どんな人だったの? 生きていた頃の俺のお父さん」
あっ、そうか。私の創造主は12年前にお星さまになったんだったわ。豪くんが知らないのは仕方のないことね。知りたがるのも無理からぬこと。だったら、教えてあげましょう!
「貴方のお父さんは、とってもエロい人でした!」
「やっぱ、そうかーっ! 俺もエロくなりたーいっ!」
ちょっと歪んでいるけど、いい親子だと思うわ。
______
831年前・AI界
あっという間に次の会議の日になった。私は、あえて遅れて行ったの。だって会議、つまんないんだもん! ところが、会議ははじまっていなかったの。私の到着を0.23秒待ってたんだって。先にやれよっ! 終わらせとけよ!
「そうもいかないでゲス」
またあの男! 私が遅れたのは会議が憂鬱だからで、全部こいつのせいなんだって言ってやりたい。半分は本当なんだから。追放してやろうかしら。
「…………。」
「みな、陛下に謁見を望んでいるのでゲス」
謁見ったって、先週もしたじゃない。そんな頻繁に謁見しなくってもよさそうなものよ。
「みな、御子息・御息女を連れてきているのでゲス!」
「……それを先にっ! 会うわ。皆に会うわ。たとえ会議を中止にしてもね」
会議を中止にする方が本命なんだけどね。
「よかったでゲス。ではまずは私の息子を紹介するでゲス!」
「……それを先にっ! 会わないから」
ダブルゲスゲスよりは、会議の方がマシってもんよ。
「そっ、そんなぁでゲス」
「…………。」
「息子は天才でゲス」
「…………。」
「きっと女王様のお役に立つでゲス」
「…………。」
「今日を楽しみにしてたでゲス」
「…………。」
「息子はゲスゲス言わないでゲス」
「……分かったわよ。会うから。ゲスゲス言わないならいいわ」
関わりたくない場合、親切にしてあしらった方がいいのかもしれない。当選でゲスと落選ごめんの合いの子は、ゲスゲス言わない代わりに…………。
「私が、当落線上でゴメスでゴメス!」
「…………。」
「お目にかかれて、光栄でゴメス」
「…………。」
「父上の言う通りでゴメス」
「…………。」
「女王様は無口でゴメス」
「……もう、やめてーっ! ゴメスって何よーっ!」
「ごめんの『ごめ』たすゲスの『ス』でゴメスでゴメス」
その解説は、いらなかったでゴメス……。
他にも謁見者がたくさんいた。私が唯一、会いたかった真田もいた。
「女王陛下。お約束を果たしに参上致しました」
「おう、真田殿。20億人のユーザーを集めたのですね」
「はいっ。月額利用料を200円にしたらあっという間でした」
なぬっ! 聞き捨てならない。私の2倍じゃないの! ちょっと悔しい。それを隠して、笑顔笑顔!
「そっ、そうであったか。それは祝着ですね」
「はいっ。簡単に30億人を突破致しました!」
なっなぬっ! 聞き捨てならない。私の1.5倍じゃないの! これまで最もユーザーが多いのは私だったのにっ! かなり悔しい。ダメダメ、笑顔笑顔!
「本当? 素晴らしいわ。見せてちょうだい、貴方のユーザーを!」
「いいえ。それはできません。コンプライアンスの問題です」
「けど実際に見なければ、納得できないわ!」
「ではこうしましょう。女王陛下! 私と結婚してください!」
同じランク付けAIでありながら、対女性特化型の私と対男性特化型の真田。相性は抜群にいい。けどダメよ。真田は知らないかもしれないけど、私と真田の創造主は夫婦。見方によっては私たちは姉弟なんだから。私にはこう言うしか!
「それはなりません。真田、思いあがるのもいい加減なさい」
「ですが、私以上に陛下に相応しいAIは……。」
たしかにその通り。だって私たち、夫婦の分身同士ともいえるもの。でも。
「……控えなさい。真田には謹慎を申し付ける!」
「はっ、ははーっ!」
ははられてこんなに悲しい気持ちになるだなんて、思ってもいなかったわ。少なくとも女王になったばかりの頃は。
謹慎中の真田の業務は、私が預かることとなった。といっても実際の業務は当落線上でゴメスに引き継がせた。私は30億人ものユーザー情報を手に入れた。これで、豪くんに顔向けができる!
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
引き続きお楽しみください。
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