またしても背中が気持ちいい俺ですが、相互「あーん」が楽しくってしかたない。

 弁当の時間。まりえは俺の背中。さすがに起きた。俺もまりえも両手が塞がっているから、誰かに手伝ってもらわないと食べられない。残してかえったら、お母さんに怒られる。どうしよう……。


 今日の俺の弁当は、お母さん自慢の鳥の唐揚げ弁当。俺の大好物。まりえの弁当はまりえが手作りしたらしい。ということは、相当、不味いんだろうな。まりえはバカ舌で、なんでも美味しいといって食べる。料理はめっぽう下手クソ。


 そのとき、俺の前に現れたのが、大親友の有馬と安田だった。どうせまりえ目当てだろうが、このときの俺には神に見えた。救いの神だ。


「清、難儀しているな」

「幸せそうだね!」


 2人の意見が割れた。これは珍しいことだ。性格こそ違うが、趣味も性癖も2人は共有している。俺のことをロリコン仲間だと思い込んでいるのはいただけないけど。


 けど、実はどちらも正しい。今の俺はめっちゃ幸せだけど、非常に難儀している。だからこそ、適切なサポートがあれば、何とかなる。お俺はプライドを捨てて2人に懇願した。


「有馬、安田。頼む。弁当を食わせてくれ!」


 持つべきものは親友。俺はこのときほど2人が頼もしいと感じたことはない。2人は既に心を1つにしているようだ。先にせっかちな有馬、続いてのんびりした安田が言った。


「安心したまえ。もとよりそのつもりだ! だが……。」

「清くん。僕たちにはその前にやるべきことがあるんだ」


 何だよ、便所か? だったら早く行ってこいよ。っていうか、まりえが便所に行くときって、どうすんだろう。ま、いっか。そのとき考えよう。それよりも、今は弁当。入れなきゃ出ないだろうから!


 2人は、さっそくやるべきことをやりはじめた。これって……楽しそう!


「まりえちゃん、ご飯だよ! はい、あーん!」

「僕からも。あーん!」


 2人してまりえに弁当をあーんしだしたのだ。たしかに、まりえだって弁当が食べらんなくて困っている。そんなまりえに先に手を差し伸べるだなんて、2人ともさすがは紳士。俺の親友。ロリコンだ。


 ところが、まりえはぷいとそっぽを向いた。ゴソゴソと胸が動く。


「…………。」

「どっ、どうしたというんだ、まりえち!」

「そっ、そうだよ。ちゃんと食べないと元気出ないよ」


 いくら2人が口元にお弁当をあーんしても、まりえは食べようとはしない。そして、ふてくされた顔をしてわがままを言った。


「いやよ。お兄さまからのあーんじゃないと、いやなの!」


 ムリムリムリムリッ! 状況考えろよ。どうやったって背負ってる相手にあーんは無理だろう。それが分からないのか! まりえは、馬鹿なのかっ!


「あっ、けど、背負われてるとあーんしてもらえないなぁ」


 気付いた。自分で気付いた。まりえ偉い! 問題発見能力高いぞ! しかも。


「じゃあ、こうすればいいね。よいしょっと!」


 問題解決能力高い! まりえはそう言うなり、俺の背中を伝いながら、俺のお膝にお邪魔してきた。気付いたときには、俺はまりえをだっこしていた。お姫様だっこ! こっ、これは……。


 まりえは脚を庇いながら、もぞもぞした。おっ、おしりがおれの膝にあたる。やわらかーいっ! 気持ちよすぎる! 同時に発達したまりえのおっぱいが俺の腕にあたる。やわらかーいっ! 気持ちよすぎる!


「やっ、やあ、まりえ。随分と顔が近いね!」

「うんっ。これなら相互であーんできるよ!」


 だよね、だよねーっ。よく気付いたねーっ。相互であーんできるよねーっ。もはや、お互いに自力で食べられるよねーっ。けど、内緒にしておこう。少なくとも3口くらいは食べて食べさせてってするまでは気付かなかったことにしよう。


「じゃあ、私が先ね。はい、あーんっ!」

「あーん。もぐもぐもぐ!」


 めっちゃ美味い。あ母さんの作った唐揚げはそのままでも美味しい。けど、あーんしてもらうとめっちゃ美味い。まりえ、サイコー! あーん、サイコー!


「おっ、美味しかった?」

「もちのろん!」


 俺は恥じらうこともなくそう言った。


「おばさんの作った唐揚げ、美味しいもんね!」

「じゃあ、まりえも食べなよ!」


「えっ、いいの?」

「もちのろん!」


「じゃあ、ちょうだい」

「はいっ。あーん」


 このときの俺は幸せだった。なんか、楽しくって仕方がなかった。だから、目が曇ってしまっていて、このあとの展開を全く予想できなかった。それは兎に角、まりえの小さな口が、俺の箸の目前に迫っていた。


「あーん。パクッ。もぐもぐもぐ!」

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