誰かを忘れているような気がする俺ですが、いい写真が撮れそうです。
俺が忘れていたのは葵。不覚にも見逃していた。葵から俺に声をかけてくれた。普通にパジャマを着ただけのとても地味で言っちゃ悪いが目立たない恰好。
「清くん。おはよう! 今日も人気者のようね」
葵は俺と同じでちゃんとお母さんの教えを守ってる。この前のヴワァーって変わる愛川愛モードは完全に封印している。あのおっぱいを楽しめないのはちょっと残念。
「あっ、葵。おはよう。今朝も……笑顔が素敵だねっ! 地味だけど」
「何よそれ。もう少し褒めてくれてもいいんじゃない? 他のみんなみたいに」
ヴワァーってなれば褒めるところしかない。普段の葵はあまりにも地味で、褒めるのは難しい。おっぱいくらい。けどさすがに朝っぱらからそれはない。
みんなとの挨拶のこと知ってるんだ。たしかに俺は会う人あうひとに挨拶して褒めちぎった。それもこれもお母さんの教えを守ってのこと。
葵はいつから俺のことを見ていたんだろう。気になってしかたがない。
「知ってたの。いつから観てたのさ?」
「おばさんのとき、かな」
それって!
「最初っから! ずっといたってこと?」
「もちのろん。私は清くんの朝の一部始終を観ていたのだよ」
そんな自慢気に言われても……。
「言ってよ。葵がいるのに気付いてたら、葵にだって挨拶するって」
「はじめは声をかけようって思ってた。でもつい言いそびれていて」
葵は喋り易い。地味ということは素朴にも通じる。だから俺はついつい素直に聞いてしまう。それは他のみんなにはできないこと。
「どうしてさ」
「七瀬のとき……あれは凄かったよ」
「あああっ……。」
俺は声にならない声を出してしまった。そしておそらくは俺の顔は真っ赤になっていたことだろう。色々と聞かなきゃよかったって心の底から後悔した。
兎に角、七瀬とは凄かった。あんなの目の当たりにしたら、声も掛け辛いだろう。俺は納得するしかなかった。
「口止め料というわけではないが、最初の1枚は、私にしてくれないか?」
「……! もちのろん!」
俺は一目散に駆け出し、カメラを携えて戻ってきた。葵も素早く行動したのか、俺が戻ったときには身支度を終えていた。着ていたのは裾の長い水色のワンピース。リボン多目だ。
「葵。かわいいよ、そのお召し物!」
「本体を褒める気はないのかい?」
褒めたい。心の底から褒めたい。けど、地味過ぎる。褒めるところが見つからない。俺もまだまだだな。
「本体もかわいいよ」
「正気か? 審美眼を疑うぞ」
「ん。まぁ、もう少し笑った方が、きっと素敵だと思うな」
「正気か? だが君がそうおっしゃるのなら、笑って見せようかな」
葵は言い終わるとすかさず笑った。それはもう変な顔。目と口の笑う角度が違う。いや、右目と左目でも違う。パーツはそこそこだけどバランスが悪過ぎる。
「う、うん。とても個性的だね」
「私は、感想が聞きたいんではない。褒めてほしいのだよ」
褒めろと言われても、少なくとも容姿について他のみんなと比べて優れているところは皆無。ヴワァーってなったときのことを知っているだけに、余計。
「俺、思うんだ。葵の魅力は素朴さにあるんじゃないかなって」
「……いつになったら褒める気だ……。」
「うん。俺は素朴で喋り易い、いつもの葵が好きだよ!」
「……そっ、そうですか。ありがとうございます……。」
顔を赤らめる俺と葵。そんな中でも、カメラを構える俺。あまり一般受けするようなアングルではなかった。念のため確認すると、なかなかの出来栄え。俺は思わずくすりと笑ってしまう。葵が覗き込んでくる。
「なるほど。清くん、腕はたしかね! とても素敵!」
「気に入ってくれたんならうれしい」
「送っといてください。それは兎に角、デッキへ急ぎましょう」
葵は言いながらおっぱいを俺の右腕に押し付ける。俺は幸せだっ!
廊下の先にデッキが見えてきた。ライトアップされていて明るい。その光の下には、既にみんなが集まっていた。
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