みんなを温泉へと連れて行った俺ですが、囲まれてます。

 気合い充分の有馬。悶絶級の美少女達の密着を意に介さない。有馬って、こんなに男気に溢れていたっけ? 疑問はあるけど事実は事実。温泉ではみんなを独占できると思っていたのに、少し残念。

 それ以上に、有馬が一緒でよかったとも思う。一緒で。

 俺と有馬は広い温泉の両端に配置された。その中間にはゆめたち7人が壁のように連なる。有馬は1人ぽつんと佇んでいる感じ。俺がそうならないのは、ブス神様たちに囲まれているから。


「私たちのような ブスと一緒でも倒れない男の人が2人もいるなんて!」

「本当に、世界は広いのね!」

「世界だなんて。公央ったら、島の外に興味津々なのね」


 2人いるのに感動しているなら、もっと有馬を大事にしてあげるべきでは。


「違うの真智。私が興味を持っているのは、清くんだけ」

「あら奇遇ね。私もよ」

「こらこら! 2人とも、お連れのブスさん達の接待も忘れないこと!」


 ブス神様はもうすっかり有馬のことをお忘れのようだ。


「そんなこと言って、清くんを独占つもりでしょう」

「そうよ。私たちにもブス神様が相手でも譲れないことがあるのよ」

「うぐぐっ……。」


 3人の茶番に似たやりとりは、放っておけばまだまだ続きそうだ。

 俺はもう慣れたけど、他のみんなには衝撃だったみたい。葵とお母さん以外は。まりえやゆめは目をぱちくりしているし、七瀬と麗は耳を塞いでいる。極め付けは麻衣と飛鳥と茶緒で、口から泡を吹いていた。


 これ以上放置はできない。3人をとめないと。ここは、葵に任せてみよう。いつも地味な葵なら、自称ブスの美少女とも互角に渡り合えるかもしれない。


「3人ともいい加減にしてください!」


 葵、威勢がいい。期待大だ。


「あら、葵さん……お連れ様の中で最も美少女に近い方……。」

「えっ? それって、どういう意味かしら……。」


 おやおや? 公央に美少女と言われた葵がダメージをくらっている。追い討ちをかけたのは真智。


「本当。清くんって好みの幅が広いのね。油断ならないわっ!」

「だから、どういう意味なのよっ」


 葵、目をまわしている。とどめはブス神様の御神力!


「2人とも侮ってはダメ。地に足がついているからこその地味なのよ」

「……。」


 3人の見事なプロペラストリームアタックだった。葵は完全に沈黙した。

 こうなったら、お母さんになんとかしてもらうしかない。お母さんに借りを作るのは下中の下。だが、背に腹はかえられない!


「あらあら、3人とも。勝手なこと言わないでね」

「おっ、お母さん……。」


「ブス神様、貴女にお母さんなんて言ってもらう義理は、まだないのよーっ!」

「すみません。おばさま……。」


「それでねー、おばさん思うのーっ。清くん、私みたいな美少女が好みだって」

「おばさま、自分でじぶんのことを美少女だなんて!」

「いろいろと違いますよ、それ」

「美と少はバツ、女だけがマルですね」


「しばくわよーっ。おばさん、審美眼には自信あるんだから。ねぇ、清くん!」


 自分たちをブスだと思っている3人。この島の歴史の負の遺産だ。それを前提にして俺のことを好いてくれている。俺がブス専だと思って。けどそれは違う。しばくかどうかは別だけど、お母さんの言う通りだ。


「お母さんの言う通り。俺は美少女が大好き! 3人ともかわいいから大好き」

「えっ!」

「なっ!」

「やっ!」


「まあまあまあ。清くんったら、正直ねぇ」

「はい。お母さん、正直者に育ててくれてありがとうございます」

「ちょっと待ってください!」

「そうです。私たちがかわいいだなんて!」

「そんなの、ありえないわっ!」


 3人は、まだ気付いていない。それは、人類にとっての大きな損失。何とか真実を知ってもらい、自信を持ってもらいたい。けど、どうすれば良いのかが、俺には分からない。


「やはり、3人には知ってもらう必要があるようね」

「一体、私たちが……。」

「何を知れば……。」

「おばさまは納得するのでしょう……。」


 それは、俺も知りたい……。


「事情聴取するしかないわねぇ、有馬くんを」


 鍵を握っているのは、俺ではなく有馬だっていうのか。

 お母さんは、有馬に近付いていった。有馬がそれに気付く。お母さんがにっこりと笑う。悪魔のような笑顔だ。いつもの有馬なら怯んで俺に助けを求めるのだが、このときは全く違う反応を示した。


————無表情。表情を、全く崩さない————


「ねぇ、有馬くん。昨夜はどこで遊んでいたのかしらーっ!」

「楽園、とでもいえるところです」


「きゃっ! けどそれって、ここ以上の楽園なのかしらーっ!」

「ここ? ここのどこが楽園だというんです! 美少女ばかりじゃないですか」


 有馬ははっきりと言った。ここには美少女ばかりだと。

 このあと、有馬が昨夜のことを克明に語りはじめた。

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