他のみんなからも前向きさを感じる俺ですが、誰かを忘れているような気がします。
2日目の未明。俺は寝具の全てを1度に失った。有馬と安田と拓哉くんがお母さんに呼び出された。暇だったのもあって俺は3人について行くことにした。俺はお母さんに朝の挨拶。有馬たちが見たら引くだろうなぁ……。
「お母さん、おはよう。朝からかわいらしいですね!」
「おはよう、清くん! うんうん、それから?」
「……。」
「……。」
「ZZZZ……。」
「えっと……髪の毛さらさらですね!」
「うれしいわーっ。お母さん、よく言われるの。けど、それだけかしら?」「……。」
「……。」
「ZZZZ……。」
「いやいや。お目々ぱっちりで吸い込まれそうだよ!」
「ありがとー! それからーっ?」
「……。」
「……。」
「ZZZZ……。」
………………。
毎朝のことではあるけど。まさか、旅先でここまで要求されるとは思っていなかった。お母さんは容姿については絶対の自信がある。褒めるところが無くなるまで繰り返させられるんだけど、今日は5分も続いた。
有馬も安田も、予想通り唖然としていた。予想に反したのは拓哉くんだけで、ずっと居眠りしていた。しかも立ったままで。
気が済んだのか、お母さんは俺たちに本題をぶつけてきた。
「清くんも手伝ってくれるの。お母さん、うれしい。早速、お願いね!」
「暇だから。それに、布団と枕がなきゃ眠れないから」
「で、おばさん。何をすればいいの?」
「そうですよ。僕たちだって寝たいんですよ」
「ZZZZ……。」
お母さんは東の空を指差した。まだ真っ暗。俺たちのいるところだけがライトに照らされていて辛うじて明るい。
「もう直ぐ日の出が拝めるのよ。みんなで観る席を設営しようと思って」
「日の出! だったらカメラを持ってこないと」
「イスを運び込むなら力仕事だな。安田、やるぞっ!」
「う、うん。分かったよ」
「ZZZZ……。」
有馬と安田は朝から働き者、直ぐに駆け出した。残ったのは俺と拓哉くん。拓哉くんって、大者なのかもしれない。ずっと立ったままで居眠りしているんだもの。そんな拓哉くんもお母さんにかかれば働き者に早変わり。
「拓哉くんには麗たちのための朝食を作ってもらいたかったのに……。」
「朝食! 作る作る! 俺、頑張るよ」
拓哉くんは一目散にキッチンに! そのうしろ姿に向かいお母さんが言った。
「おばさん、トマトサラダがいいなーっ!」
拓哉くんは俺たちに背を向けたまま走りながら、大きく手を振った。働き者のいい腕っぷりだった。俺とは大違い。
それからお母さんは俺にもちゃっかりと仕事を押し付けた。それは、みんなを起こして回ること。暇だし、部屋に戻りがてらみんなを起こしてカメラを持ってくることにした。時刻は4時より少し前のことだった。
俺の部屋はデッキから1番遠い。といっても船の中。ゆっくり歩いても2分くらいでたどり着ける。けどこのときはその10倍はかかった。俺がこの旅行で日課に費やす時間はどれくらいになるんだろう。
「ったく。有馬のやつ、朝から騒々しいなっ!」
そう言いながら部屋から廊下に出てきたのは麻衣。俺が起こすまでもない。ネグリジェってやつの上からカーディガンを羽織っただけの恰好。めっちゃセクシー。ぎゃーぎゃー騒ぐ有馬に気をとられていて、俺には気付いていない。
「おはよう! 麻衣。今日はめっちゃセクシーだね」
「清坊っ、おぉおおぉおはよう! 観たのか、オレのネグリジェ」
すごいテンパリ様。俺はいつもの様に答えた。
「うん。ガン見してるよ!」
「ばっ、ばかもの。朝っぱらからいやらしいやつだな」
「麻衣がいけないんだよ。そんな恰好、誰だってガン見するって」
「なっ、ななな何故だっ?」
俺はズズズッと麻衣との距離を詰めた。ちょっと揶揄ってやろうってのもあった。それ以上に今朝の麻衣は本当に魅力的だった。
「麻衣がいつになくセクシーだからだよ」
「もっ、もういいぞ、清坊。それくらいにしてくれ……。」
麻衣は顔を真っ赤にしてその場でペタリと座り込んだ。この角度! 麻衣の無いようで有る胸がよく見える。眼福、眼福。俺は冷静なふりをしていった。
「だっ、大丈夫? 体調優れないの?」
「そうではないぞ、清坊。オレはただ動悸がしてきただけだ」
「充分、体調悪いじゃん。背中、貸そうか」
「いっ、いいよ。これくらいでへばってたら務まらんからなっ」
「何を? 何を務めるの、麻衣」
俺がそう言った直後、麻衣はさらに顔を赤くした。本当に体調悪いのかな。
「(清坊の彼女だなんて、言えない)……いいから、行ってくれ!」
麻衣がそう言うから、俺は放っておくことにして、先へ進んだ。
この時間の廊下は美少女ホイホイかよってくらい。出てくる出てくる。飛鳥もゆめも、みんなが順番に顔を出した。ビシッとフォーマルなパジャマを着たまりえ。寝巻きを淫らに纏った茶緒。短パンにタンクトップのいつもの麗。
俺はみんなに自分から声をかけて歩いた。そしてその度にプチラッキースケベを体験した。特に七瀬、あれは凄かった。ふと時計を見ると時刻はもう4時18分。この日の薄明時刻は4時22分。あと4分しかない。急がないと。
けど俺、誰かを忘れているような気がする……。
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