いよいよお母さんと闘うことになった俺ですが、仲間がどんどん散っていきます。
まりえを背負ってキッチンに行った俺。先に来ていたゆめと拓哉くんは、お菓子を作っていた。昔ながらのパンケーキ。部屋中を甘い香りが漂う。拓哉くんが俺に気付いた。拓哉くんがいうのに直ぐ様反論したのがまりえだった。
「あーっ。バカエロロリ魔神だ!」
「違うわよ、拓哉くん。この人はバカロリエロエロ大魔神よ!」
エロが1つ増えている気がする。
そのあとゆめが、拓哉くんから俺にはなしがあるって言い出したんだ。けど、ずっともじもじしてて喋らない。焦ったい。
ちょうどそのとき、俺は純粋に便所へ行きたくなった。小さい方。急激に襲って来た波は、既に我慢の限界に達しようとしている。だから俺は言った。
「ちょっと、便所に……。」
極まっているから、どうしても途切れ途切れになってしまった。それがゆめには、俺が気を使っているように感じたらしい。
「そうね! ここは男同士、いってらっしゃい!」
「えっ、まりえは女の子だよ」
「だから、まりえは私の背中に移んなさい」
まりえを背中から下ろした俺は、拓哉くんと一緒に便所へと向かった。
このときに気付いていれば、悲劇は防げたのかもしれない。巧妙に仕掛けられた罠。これほど短い間にまりえを除く全員が便所を目指した。それが、全てのはじまりだった。
拓哉くんがもじもじしながらも重い口を開いた。
「なぁ、エロエロエロ魔神。今朝は、悪かったよ」
今朝のことは許す。けど、エロ3連発は許せない!
「いいんだよ。ゆめとの約束をすっぽかした俺が悪いんだから」
ま、そこは歳上の余裕ってやつだ。
「それもこれも、俺が帰らないで粘ったのが原因だから、ごめっ……。」
拓哉くんは、そのまま便所へと駆け込もうとした。
「おっ、おい! 卑怯だぞっ。俺が先にっ!」
先を越された俺は叫んだ。そのときにちょうど便所から出て来たのが麗だった。麗と入れ替わるように便所に駆け込んだ拓哉くん。俺と麗が2人きりになった。すっごく便所に行きたいのに。そのとき、スッキリした顔で麗が言った。
「あっ、清兄。さっきはなしてた撮影の件なんだけど」
このタイミングで言われても……。それより俺は早く便所に行きたい。麗のスッキリ顔、眩しくって羨まし過ぎる。だから俺はろくに思考せずにはなした。
「あっ、あぁ。コッ、コンクール用の撮影な」
「次の金曜日の昼下がり、なんてどうかしら!」
「いっ、いいいっ、いいんじゃないか、な……。」
「うん。じゃあ決まりっ!」
麗はそう言うと、リビングへと戻ってしまった。俺は何か大事なことを忘れているような気がした。けどそれを思い出そうとすることよりも、漏らさないように堪えるのに必死だった。だから、安請け合いしてしまった。
拓哉くんと入れ替わって、やっとのことで用をたすことができた。スッキリして便所の外に出ると、有馬と安田が並んでいた。
俺は何も気にせず、そのままダイニングに行った。そこにはもう、ゆめもまりえもいなかった。出来立てのパンケーキとシロップが置いてあった。シロップは誰が作ったか分からないけど、色鮮やかだった。
俺は摘み食いしようとしたが、そのときに玄関からもの音が聞こえた。居候3人衆だ。俺は出迎えにと摘み食いをすることなく玄関へと行った。
「おかえりなさい。3人とも買い出しおつかれ!」
「清坊、今何て?」
えっ? 驚く俺。もっと驚く3人衆。
「清、今から出るから」
「これ、絶対に中を見ないでね」
言うなり俺に袋を預けた3人衆は、慌てて出て行った。残されたのは、俺と3つの袋だった。いつもの俺なら迷わず開封していた。けどこのときはスッキリしていた。頭が冴えていた。その頭に、お母さんの笑顔が浮かんだ。
これはきっと罠。そう思い、未開封のまま3人の部屋へと届けた。そして、リビングへと向かった。
リビングの手前で、まりえを背負ったゆめと鉢合わせした。まりえはゆめから俺の背中に飛び移った。そのままリビングに入ろうとしたとき、キッチンから葵の悲鳴が聞こえた。
「キャーッ!」
俺はまりえを背負ったままゆめと一緒にキッチンに駆けこんだ。みごとな女の子座りをした葵。視線の先には食べかけのパンケーキを手に持った有馬と安田。2人とも気を失っている。これは、事件だっ。
俺たちに遅れて、麗と拓哉くんがキッチンに到着した。お母さんはいなかった。拓哉くんは状況を見るなり叫んだ。
「バッ、バカなっ!」
そして、手作りシロップを右手の小指で掬ってひと舐めした。その瞬間に苦しむ間もなく気を失った。その顔は、先に倒れていた有馬や安田と同じだった。シロップが原因だってことは一目瞭然だった。これで俺は完全に孤立した。
このシロップ、何時、誰が、何の目的で作ったものなんだろう……。
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