妹の幼馴染の反抗期が心配な俺ですが、盗撮ヤローは救えませんでした。

妹の幼馴染の反抗期が心配な俺ですが、どうやら大切な約束を忘れていたようです。

【スマートシティ豆知識07】

 未来都市、スマートシティ。Pはいいねといやねに使われる。いいねは物品や役務の授受の際に流通するが、いやねは蓄積される。いやねの分だけスコアが下がる。また、いやね歴のある者は、Sランク以上になることはできない


______


 人間界。


 翌日の月曜日。学校がある。俺は麗より遅れて家を出た。何故かって? 聞いてくれるな。ほんの少し疲れてたってだけ。待ち構えていたのは拓哉くんだった。俺を見つけるなり、大声をあげながらタックルをかましてきた。


「ウッキーッ!」

「うわぁ。なんだ?」


 勢いよく倒れる俺。上にのしかかる拓哉くん。マウントポジションというやつだ。タコ殴りにされたら、なす術はなさそう。拓哉くんは「ウッキーッ」と歯を剥き出しにしながら、俺の胸ぐらを掴んで言った。


「っ全部、お前が悪いんだぞーっ。ウッキーッ!」


 さすがに笑えない。拓哉くんは怒りに任せてウッキーッ、ウッキーッ言いながら、掴んだ俺の胸ぐらを上下させる。俺は予想通り、なす術なかった。このままでは、はなしもできない。せめて拓哉くんが怒っている理由が分からないと。


「待ってくれ、拓哉くん。俺が何をしたっていうんだよ」

「うっせーっ! 姉ちゃんを泣かせておいて、許せない! ウッキーッ!」


 ゆめのこと。言われて俺はハッとした。写真を撮る約束をしていたことを思い出したんだ。それが原因でゆめが泣いたというのなら、全部俺が悪い。ちゃんと謝らなきゃ。ゆめにも拓哉くんにも、いやねされても仕方ない。


 俺はなんとかして拓哉くんを落ち着かせて、謝ろうとした。そんなときに限って、2人の援軍が現れた。麗とゆめだ。忘れ物かな。理由はどうあれ、状況としてはマウントポジションを決めている拓哉くんの方が悪者に見える。


「拓哉、何をやっているの!」

「そうよ! 清兄、大丈夫!」

「あっ、姉ちゃん。麗ちゃん……。」

「……だっ、大丈夫だよ……。ゆめ、麗。2人とも……かわいいよ……。」


 胸ぐらを掴まれてた俺は、ちょっとばかり吐く息の量が減っていた。だから、息絶え絶えに強がりを言ったみたいになってしまった。別に殴られてもいないし首を絞められてもいないんだけど、この状況じゃあ、ねぇ。


「退きなさい、拓哉!」

「拓哉くん、見損なったわっ!」

「あっ、イヤ。俺はただ、姉ちゃんを……。」

「……違うんだ。聞いてくれ……拓哉くんは悪くないんだ……。」


 俺が言えば言うほど、拓哉くんの立場を危うくした。そういえば、ゆめと麗は仲がいい。町内カラオケ大会で2人のデュオはジュニアの部で優勝したことがあった。こんなときでも息ぴったりにハモってくれた。


「問答無用よ!」

「問答無用よ!」

「ウッ、ウッキーッ!」

「……。」


 次の瞬間。俺の身体は格闘家が修行のために身につけていた鎧を脱ぎ捨てたあとのように、めっちゃ軽くなった。拓哉くんはウッキーッともスンとも言わずに駆け出していた。ゆめがあとを追いかけていき、俺と麗が取り残された。


 麗が俺の手を取り言った。


「清兄、大丈夫!」


 麗が俺の手を引き、俺もまた麗の手を引いた。上半身を起こすことができた。


「大丈夫。けど、違うんだ。悪いのは俺なんだ」

「はぁ? どうして清兄が拓哉なんかを庇うの? やられてたじゃん」


「麗こそ、拓哉くんに冷た過ぎやしないか」


 俺が言いたかったのは、普段の拓哉くんへの接し方のこと。


「えーっ。ちゃんと目線送ってるわよぉ。いいねくれる分だけ」

「そーじゃねーだろっ!」


「それ以上、何をしろっていうの?」


 麗は気付いていないのか。拓哉くんが麗のことを好きだってことに。だったら俺は兄としてそのことを教えるべきなんだろうか。それは野暮ってやつかな。


「麗にはまだ、色恋のはなしは早いか」

「何でそうなるのよ、清兄」


 これは重症。全く気付いている素振りがない。


「身近なところに、お前のことを好きだっていう人がいるかもってことだ」

「そんなの、私の知ったことじゃないわ」


 昨日といい今日といい、麗は反抗期かって思うくらい突っかかってくる。あれもこれも、人気者になったからだろうか。さみしいものだよ。


「そう言うなよ。少なくとも受け止めて返してあげる必要があるんじゃないか」

「だったら! だったら清兄は私の気持ちに応えてくれるっていうの?」


 何を今更! 俺は麗の兄。麗は俺の大切な妹だっての!


「当たり前だろ! そんなの……。」

「……それは、お兄さんとして? それとも、男として?」


 何だか、雲行きがおかしい。男としてって、どういう意味? 麗は俺の言葉を遮ってまでそう聞いてきた。このままでは、はなしがどんどん逸れていく気がする。元に戻さないと。


「関係ないだろ! それよりも、拓哉くんのだなぁ……。」


 俺は、気持ちに応えてあげるべきだって言いたかっただけなんだ。


「それこそ関係ないわ。拓哉くんは私のこと好きになったらダメなのよ」

「何だよそれ! ちょっとモデルとして成功したからって、それか?」


 そう。麗はいつの間に、はなもちならない妹になったんだろう。昔はもっと、まわりのみんなに愛されてた気がする。それは麗がみんなを愛していたから。俺は、コンクールになんか応募しなければよかったと、心底後悔した。


 あとは、お互いに売り言葉に買い言葉。よくある兄妹喧嘩。


「清兄。それ、どういう意味!」

「れいりんだか何だか知らないけど!」


「なっ……。」

「ちょっと有名になったからって、調子に乗んなってことだよ!」


 言い終わってはじめて気付いた。俺たちの周りには結構な人集りができていた。兄妹喧嘩を見物しているっていう感じじゃない。ひそひそ声に混じり、割とはっきりした俺への罵声あるいは麗への擁護の発言が聞こえる。


「何なのあの男?」

「逆ギレってやつじゃないの?」

「れいりんちゃん、絡まれてる。かわいそう」

「通報よ、いやねをするわよっ!」

「暖かくなると、出るのよねぇ。変なのが!」


 事情も知らず、はやし立てる人集り。俺は、恐怖を覚える。いやねなんかされたくない。自分の身も、麗の身も危険だ。中には、デバイスを取り出す人もいて、本当にいやねをされかねない。どうしよう……。


 俺があたふたしていると、麗が俺を呼んだ。


「清兄、こっち!」

「おっ、おうっ!」


 俺の手を取り走り出す麗。俺は手を引かれるままに駆けた。走っているせいか互いの手が汗ばんでいる。麗は俺が手を滑らせないようにと思ったのか、俺の手を強く握る。麗の精神的な成長を感じつつ、俺も麗の手を強く握り返した。


 幸いにも、追いかけてくる人はいなかった。俺と麗の2人だけがあの場所から離れる。2人の逃避行。走っている間の俺と麗の位置関係は全く変わらない。けど、そのときにはっきりと自覚したことがある。


 麗は、本当にどこか遠くへ行っちまったんだ。俺なんかがいなくても、麗は強く生きている。兄だからって、俺が麗を庇わなくっても大丈夫なんだ。俺がSランクカメラマンを目指す理由は1年にして消失した。


______


 AI界。


 清くんに対していやねなんかさせないわ。私はちょっとだけ誤作動を起こさせ、清くんにいやねしようとした人同士で誤爆させたのだった。


____________

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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