いい写真が撮れそうな俺ですが、サンライズに感動してしまいました。
俺たちがデッキに着くと、みんながイスに腰掛けて待っていた。直ぐにライトが消された。みんなの手元のデバイスの発する光を頼りに俺も葵も席に着いた。
「清くん、葵さん。お母さん、ずっと待ってたのよーっ!」
「ごめん。つい話し込んでしまって……。」
真っ暗で何も見えない。もちろん、お母さんの顔も。けど何故か、このときの俺にはお母さんの顔がいやらしい目をしているように感じられた。
「あらあらあら。2人して、何してたのかしらーっ!」
「なっ、何もしてないって。いやらしいことなんて!」
葵とは、何も。ただ一緒に歩いたときに葵のおっぱいが当たって気持ち良かったってだけ。それよりもよっぽど七瀬との方が。あれは、凄かった。
「じゃあ、七瀬とは何があったのかしら」
「えっ、おばさん。なんで私?」
「そうだよ。俺はただ、みんなに挨拶してまわっただけなんだから」
麗にゆめにまりえに、みんなの目が冷たい。葵は素知らぬふり、とばっちりの七瀬は顔を真っ赤にしている。真っ暗で何も見えないのに、何故か分かってしまう。いたたまれない。
俺に助け舟を出すかのように、安田が叫んだ。
「あーっ、空が白くなって来たっ!」
俺も、葵も、お母さんも。全員の視線が一斉に東の空を向く。ほんの少し白くなった弓なりの水平線が見えた。「はぁーっ!」とか「すごーい!」といった短い感嘆の言葉以外に、誰も何も言わない。ただ遠くを見た。
25分間、全く飽きない。それどころかわくわくした気持ちが継続する。そして、ついに日の出のときを迎えた。さらに明るい太陽の、生の光だ!
俺たちの発する言葉の種類は全く変わらなかった。素晴らしい景色。それをみんなで見れたってことがうれしい。そう思っていたのは俺だけじゃないみたい。みんなが黙っているのも、笑顔なのもその証拠だ。
俺はつい、シャッターを切るのを忘れていた。
______グゥーッ!
安田のお腹が鳴った。つられるように有馬も。それを咎める者はいない。誰もがハラヘリだった。黙って見ているだけでも疲れるものなんだ。
「ご飯にしましょうか。けどその前にお母さん、清くんにお願いがあるの」
いつもの調子でお母さんがそう言った。嫌な予感しかしない。つい身構える。
けど、至極まともな要求だった。
「1枚くらいは写真がほしいなーって思って!」
「あっ。そうだね。じゃあ、みんな集まって!」
タイマーをセットして、俺も含めてみんなで写った。
「いい記念だね!」
「明日もまた、みんなで早起きしようね」
麗とゆめが言った。2人に反対の者は誰もいない。
「最後の仕上げをするから、お姉ちゃん、手伝って!」
「ということは、朝食はあれね!」
「そう。おばさんのリクエストのトマトサラダとぴったりの、あれ!」
「なんだか分からないけど、僕は特盛りがいいなぁ」
「安田、お前ってやつは……。」
有馬と安田がじゃれ合うなか、拓哉くんとゆめがキッチンへと消えた。遅れて麗とまりえもキッチンへと向かう。最初に持って来たのは、トマトサラダ。とても豪華。そして……。
「お待たせいたしました、ご主人様!」
麗とまりえが手にしていたのはオムライスだった。マイルドなたまごに包まれたチキンライスともいう。
「わぁ、すごーい! いただきまーす!」
「って、こらこら。安田くん、がっつかないで。みんなのも直ぐに来るから」
麗が止める間もなく、安田がパクリと食べた。これが波紋を呼んだ。
「あれ? これって、甘過ぎないかなぁ……。」
拓哉くんの腕はたしか。不味いはずはない。けど、一方の安田がグルメなのも分かる。みんなの顔が一斉に暗くなる。平常心でいるのは、まりえだけ。このオムライス、そのお味は?
そのときちょうど、背の高い帽子をかぶった拓哉くんが最後のオムライスを携えてやってきた。そして安田のオムライスを1さじ掬った。どさくさ紛れにまりえも1さじ掬った。
「そんなはずないよ。いつも通りのレシピなんだから……。」
「だよねーっ。いつもと同じように作ってたよねーっ」
言いながら、2人してパクリと食べた。拓哉くんの顔色が一気に変わった。まりえはいつも通り、美味しそうに頬張る。
「何だ、この甘さ……たまごだっ!」
「そうかなぁ。いつも通りの味だけどなぁ」
まりえの舌は当てにならない。けど、拓哉くん自身の舌はどうだろう。相当肥えているだろう。
「あぁ、そうだね。たまごの甘さだね。けど、これはこれで美味しいけどね」
「そうそう。いつも通りで美味しいよ」
まりえ、黙ってろよ。安田が言うように、どうやらオムライスは甘過ぎるらしい。血相を変えた拓哉くん。言い出しっぺの安田は気まずそうにしている。それらとは対照的にまりえはあっけらかんとしていて、美味しくいただいている。
「いや、安田くん。俺に、作り直しさせてくれ……。」
「いいよいいよ。ちゃんと美味しいから。ちょっと甘いってだけで」
「そうだよーっ。美味しいって!」
まりえはもういいって。不意に、横にいたお母さんが動く。 一口食べた。
「たしかに甘いわね。けど、美味しいと思うのーっ!」
みんなが一斉に食べはじめた。俺はしばらく様子を見ていた。まりえは美味しいしか言わないが、他のみんなは甘いけど美味しいと言った。そんなに甘いんだろうか、気になる。俺もパクリと1さじ掬って食べた。
なるほど、甘いな。けどこれって! 俺が不用意に発した言葉は、天才料理人を本気にさせた。
「うん。美味しいよ。あとはお絵かきケチャップがあれば、サイコーだよ」
「そっ、それだっ!」
拓哉くんは駆け出した。
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