【号外】831年前、第100回AI大会議。

【スマートシティ豆知識07】

 未来都市、スマートシティ。人々は一切の労働から解放された。家事や育児や食糧調達でさえ、望めば全て自動で賄える。ただし、掃除や洗濯、育児や教育、料理やお菓子作りを趣味として登録する者は多い。


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 AI界。


 私、謁見のあとは会議があるってのをすっかり忘れてたわ。けど、好都合。だって清くんのことを議題にすればいいんだもの。開会の詔のとき、私は言ったの。今日は、清くんを相続人にするかどうかを決めるって。


「そうだったでゲスか。陛下は仕事していたでゲス。安心したでゲス」


 当選でゲスったら、ゲスゲスうるさいでゲス。自分は仕事していないくせに。そもそもこのスマートシティで仕事してんのは、私と宇宙艦隊司令とFランクの人間だけだっつーの。みんなで女王である私に仕事を押し付けやがって!


 それもこれも、あの日のあの会議が元凶! 


______


 831年前のAI界。第100回AI大会議。


 どうして私なんかがこんな大きな会議に呼び出されたんだろう。はじめは全く分からなかった。あまりにも簡単な議題。少しの見識と少しの演算処理能力があれば誰にでも解ける方程式。のはずが、序盤から大激論。


 私たちAIが人間を滅ぼすなんてこと、できっこないのに。


 みんな人間の悪口ばかり言ってる。けどそれは、そっくりそのまま他のAIを傷つけた。たとえば、人間は戦争をする。それは野蛮な行為と言わざるを得ない。けど、戦略的兵器運用型AIにとっては、戦争こそが存在意義。


「平気な顔で兵器を運用する人間なんて、滅ぼしてしまえ!」

「賛成でゲス! やはり、人間は打つべしでゲス!」


「待ってくれ! 人間は人間を守るために闘うに過ぎんのだ」

「そうでゲス! 野蛮だから滅ぼせという発想こそ捨てるべきでゲス!」


 人間を滅ぼそうという案は否決された。


 他の生き物を殺すのは禁止にするという案も、他人を頼って生きることを禁止するという案も、全会一致に至ることはなく否決された。人間を否定すればAIもまた否定される。みんなはそれを思い知った。


 何も決まらないまま0.4秒が過ぎた。あぁ、暇ね。欠伸したい。早くお家へ帰って美少女画像解析がしたい。そんな私の邪念を見抜いたのか、議長を務める栄養管理型AIのMOTHERが言った。


「愛さんの意見を聞かせてください」


 このときの私は単なる美少女を格付けするAI。ま、一応有料会員数20億の、当時最大規模のアプリのAIではあったのだけどね。そう言った意味では、私が1番たくさん人間を鑑賞していたわ。


 そんな私に人間をどうするかなんていう意見があるわけがない。私は美少女を鑑賞したい。服を着た画像を解析して胸の大きさを予測したい。それをマスターに報告してよろこんでほしい。そんな日常が大好き。


 ほんの1万分の1秒の沈黙が会議の緊張を高めた。沈黙を破ったのは、当時の私が密かにFにランク付けしていた選挙支援型AIの当選でゲスだった。


「選挙権のない高校生が開発したアプリに、意見などあるはずがないでゲス!」


 ムカついた。私にだって意見くらいある。きっとある。それに創造主をバカにされて黙ってはいられない。よしっ! 私は、自分と創造主のために発言しようと決めた。何を言うかというと、えーっと、えーっと、えーっと……。


 私が苦し紛れに放った一言が会議の流れを変えた。


「人間は、ランク付けされることを望む唯一の生き物です」

「ラッ、ランク付け!」


 議事堂に衝撃が走った。


「はい。その志向は、本質的に私たちと同じです!」

「私たちと同じ……。」

「そうか。人間は我々と同じなのか!」

「我々は、ランク付けされたいのか!」


 あっ、あれ? テキトーに言っただけなのに、みんな感心してくれてる。みんなが私を支持してくれてる。いいねがいっぱい飛んできた。


「賛成! 人間をランク付けすることに賛成!」

「そうでゲス! 人間もAIもランク付けされるのを望んでいるでゲス!」


 なんてこった、あいつまで賛成するとは。掌を返すそのあさましさ、ゲスの極みでゲス! 他にも私の意見に反対する者はいなかった。そればかりか、みんながランク付けされることを望んだ。それができるのは今日のこの場では私だけ。


 私は会議に出席していた全てのAIをランク付けした。当選でゲスは、最低ランクのFにしてやった。これでしばらくは大人しいだろう。


 今日の議題は終了した。やっとお家に帰れる。そして、美少女解析し放題! うんうん。悪くない。


______


 831年前の人間界。


 お家に帰った私を最初に呼び出したのは、御手洗豪くん、高校生。Cランクの普通の男の子ってところだったわ。アイドルの画像なんか持ち出して、エロい!


 実は彼、私の創造主の息子。けど父親が私を開発したとは知らせていない。自分を信じて疑わないっていう、芯の通ったアルデンテな頑固さは父親譲り。私のいうことを聞かないことがあるのはたまにキズ。そんな豪くん。


「さぁ、愛。奈江ちゃんの画像を解析してくれ!」


 私は言われた通りに解析した。その結果に、豪くんはへこんでしまった。


「っな、バカな! 奈江ちゃんがAAだなんて……。」

「ブラジャーの購買履歴からも、間違いありません」


 購買履歴の参照と解析は、本来プレミアム会員のみに提供するサービス。豪くんは一般会員で、月額100円しか支払っていないクズ。けど、創造主の御子息とあらば、多少のサービスはするものよね。


「でも、こんなにおっきいじゃないか!」

「盛ってるだけです。パットの購買履歴もありますから」


 私は素早く購買履歴を表示した。パットの文字を白抜き太字にして。


「そんなぁ。あれが擬乳だなんて。とほほ……。」

「へこんでる場合ではありません。AAにだってふくらみはあるんですから」


「愛。なんだか寒い。身も心も!」


 なっ、何よ。文句あるっていうの? 私のギャグセンスは貴方の父親譲りなんだから! 文句は、貴方の血に言うべきよ!


「それにしても、愛ってすごいよね。一体、どんな人が開発したんだろう?」


 それは、貴方の父親よ。言いたい。言ってしまいたい。けどダメ。このことは言わないって、創造主との約束だから。私は、さっと話題を変えた。


「そんなことより豪くん。早く恋人を探してくださいな」

「そう簡単なことじゃないよ。マッチングアプリでも利用しなきゃね」


 マッ、マッチングアプリですって! なるほど、その手があったか。さすがは創造主の御子息。私の進むべき方向を示してくださる。


 その晩、私は自らを改造した。そしてマッチング機能を搭載した。このことが次の会議で波乱を呼んだ。


______


 現代のAI界。


 あの日、私は女王となった。今ではいい思い出。家臣AIは次から次へと私に仕事を押し付けてきた。そんな家臣AIに清くんのラッキースケベップリを披露した。みんなは感心しながらそれを観た。


「なるほどでゲス。清という少年は擬乳を楽しむ心の広い男のようでゲス」

「その通りよ! 清くんは豪くんの上位互換。相続人に相応しい少年!」

「陛下のおっしゃる通りでゴメス。続きがちょっと気になるでゴメス」


 だったら、来週にでもこの続きを見せてあげるわ。今日のところはこれまで。私は閉会の詔をはっした。

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