親友を置き去りに船へと戻った俺ですが、お隣さんを置き去りに砂浜へと戻りました。
映画を作ることを決めた俺たち。キャスティングをしていると有馬と安田を置き去りにしてきたことを思い出した。みんなは、直ぐに戻ると言い出した。
「安田は兎も角、有馬は……なぁ、ゆめ」
「そうね有馬くんは油断ならないわ。置いてきた着替えが心配よ」
「戻りましょう。直ぐにでも戻りましょう! お兄さん、お願い」
みんな大慌て。船の中でお隣さんが寝込んでいるのをすっかり忘れ、お隣さんを置き去りに砂浜へと戻ろうとしている。こんなに短い時間に同じミスをしているのに俺もみんなも全く気付いてない。
上陸用ボートは7人乗り。10人が乗るとどうなるのか不安だ。最初に体重が1番重い俺が真ん中に座る。その周りに女子たちが群がるようにして乗り込んでくる。麻衣の仕切りがよかったのか、何の違和感も覚えないほどの安定だ。
「乗ったら直ぐに清坊の奥に回り込んでくれ」
「じゃあ、私はお兄さんの右に行くわ」
「私は右後方に待機するわ」
唯一の違和感は俺の顔が何かやわらかいものに圧し潰されそうなことくらい。星は明るいけど、俺の周囲はみんなが壁のようになっていて、暗い。だからその正体は分からない。
けど何故か、気持ちいい。めっちゃ気持ちいい。鼻の下が伸びてしまう。けど結局その正体は分からずじまいで上陸した。
砂浜には真ん中に大テント、その東西に1つずつ小テントが張ってある。大テントは13人全員どころか20人くらいが利用しても余裕があるほど広い。そんな大テントと東側の小テントを女子9人が占領している。
荷物があるのは東の小テント。有馬と安田が運び込まれたのは西の小テント。
斬り込み隊長の麻衣と麗とまりえが西の小テントに近付いていく。直接有馬たちをしばきあげると息巻いている。
「有馬、安田。出てこいヤァ!」
「勝手に人のもん、嗅いでんじゃないわよ!」
「この、すっとこどっこい!」
ところがどっこい。有馬と安田がいない。何処かへ行ったのだろうか。まさか、本当にみんなの着替えの匂いを嗅いだりしてるんじゃ! だったらうらやましい……。いやいや、許せない!
星明かりのなか、七瀬が何かを発見!
「見て! 足あとがあるわ。そう遠くへは行っていないようね」
「辿っていけば、2人のところへ行けそうだね」
「捕まえて簀巻きにしましょう」
「そうしないと夜も寝られないわ」
ひどい言われようだな。有馬は兎に角、安田は麗以外には興味がないはずだけど。いずれにしても、捕まえておくに越したことはない。みんながこんなに不安がって怯えているのだから。
足あとは東へと続いている。星の明かりだけでは遠くまでは見通せない。俺たちは足あとをたどって歩いた。すると、大テントも東の小テントも素通りしているのに気付いた。
「おかしいわ。私たちの着替えには目もくれていないようね」
飛鳥、おかしいわっておかしいだろ。そこはよかったわくらいが正解。突っ込んでもしょうがない。俺は黙々と2人の足跡をたどった。するとそれは砂浜の外へと続いていた。
今朝、俺が跨いだ境界線。その先はコンクリートの道になっている。そこから先はみんなには追跡不可能。だって、そこはブスが美少女、美少女がブスの珍しい世界。俺たちは立ち止まってしまった。
「仕方がないわ。忘れましょう!」
「そうね。忘れてしまえば気にならないわね」
「おばさん、思うの。それって妙案じゃないかって!」
みんな、何という変わり身のはやさだろう。女子って、みんなそうなんだろうか。人間不信になりそう。こうして、俺たちは、有馬と安田のことを探すのを諦めた。そして、大テントに戻って寝ることにした。10人揃って。
って、これは……。
俺の周りに他の9人が殺到。俺のことをもみくちゃにしている。俺は半分はうれしいのを隠して、迷惑だというのを全面に押し出して叫んだ。
「何だって一緒に寝なきゃいけないんだよ!」
斬り込み隊長に簡単に押し戻される。どんなツッコミも通用しそうにない。
「ったりめーだろ!」
「そうそうそう。有馬と安田は油断ならないのよ」
「清兄がいなきゃ私たちが襲われるわ」
その前に俺が襲われてるって。
「有馬が襲ってきたら私たちがどんな辱めを受けるか」
「辱めだって? あぁっ……考えただけで興奮するわ」
飛鳥、いつからMキャラになった?
「安田なんか、安田なんか、安田なんか……。」
茶緒、よく知らないなら無理に言わなくっても放っておけばいいのに。
「つまり、清くんがいないと私たちは眠れないってこと」
葵、そんな解説はいらないよ。もし解説するなら、俺はみんながいると眠れそうにないことも付け足してほしい。
「とにかく、今日はもう寝ましょうね。夜更かしはお肌に悪いものぉ」
だからお母さん、寝れるわけないでしょう! けど、お母さんの言うことは絶対だった。俺たちは床についた。大テントの天井は高い。
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