それなりに楽しいこともありそうな俺ですが、中途半端なエロは拷問だと知りました。

 8人の協定。これがなかなかに厄介だった。俺は8人によって代わる代わるハニートラップを仕掛けられた。


 ハニートラップとラッキースケベは似ているようで全く性質が異なる。前者は意図的であり、後者は偶発的である。ハニートラップは色気の押し売りであり、ラッキースケベはエロそのものだ。それくらい違う。


 それが協定によって周期的に俺を襲ってくるのだから、俺にはなす術がない。


 火曜日の朝。最初に仕掛けてきたのは七瀬とお母さんだった。いつもは朝風呂なんかしない2人。けどなぜかこの日は、揃いも揃って、いつも俺が入浴する時間にシャワーを浴びていた。おかげで俺は乳浴してしまった。


 朝食のときは、麗と麻衣。2人して俺を挟み込むように座り、塩だの、ケチャップだの、マヨネーズだのを渡すのを口実に実力行使してきた。サンドウィッチごっこだとさ。全く、俺は具じゃないんだって!


 さらに登校のとき。最初はゆめと飛鳥だった。またしても俺を挟み込んでの宿題の見せ合いっこ。からの、宇宙人拿捕ごっこ。そしてそのまま宇宙人引き渡しごっこ。その相手は、まりえと葵。


「地球人ヨ。同胞ハタシカニ受ケ取ッタド!」


 ドって語尾、完全に地球人のあれじゃん! お笑い芸人さんの! 奪ったどーってやつ。まりえったらお茶目だな。そのまま宇宙人拿捕ごっこが続くのかと思ったらまりえと葵は違う遊びをはじめた。俺で。


 けどそれには、ハニーな要素が全くなかった。単なるトラップだった。人の脚を引っ掛けて転ばせてみたり、袋詰めされたオレンジをひっくり返してみたり。一体、2人して何がやりたいんだろう。俺には理解できないよ。


「あれ? おっかしーなぁ」

「いつまで経ってもラッキースケベが起こらないわ」


 そういえばそうだ。俺のまわりにはラッキースケベがない。そんなバカなっ!


 と思っていると、道端に見事なバナナの皮が捨てられていた。そんなバナナ! 俺は普通に踏んで滑った。完全に1人きりで滑った。一緒に滑って身体が重なるとかいう美味しい展開は皆無だった。そんなバカな!


「どうしたっていうんだろう。俺の身に一体何が起こっているんだろう」


 呪われた説、幸運の女神出張説、あるいは死亡説。様々な憶測を呼んだ。真相は闇の中だ。こういうことは考えても仕方がない。そこで俺は、あえて積極的に動くことで運気を高めることを試みた。


「まりえのスカートの裾、いつもより高くない?」

「そんなことないと思うけど、気になる?」


「いや、俺の気のせいかもしれない!」

「そう? だったったらいいんだけど」


 まりえは言いながら立ち止まると、スカートの裾を確認しはじめた。あとは風が吹けば、まりえのパンツが拝める! ピンク、来い!


 ところが、そんなときに限って無風だった。


 次は葵にアプローチしよう。


「そういえば昨日とれたボタン、ちょっと傾いてない?」

「そうかしら。うまくつけれたと思ったんだけど」


 葵は言いながらボタンをチェックしはじめた。あとはついうっかりボタンが外れれば、葵のご立派なおっぱいアンドブラジャーが拝める! ピンク、来い!


 ところが、葵は案外手先が器用だった。


 結局ラッキースケベは1度も起こらなかった。




 ハニートラップは続いた。


 お母さんは呼ばれてもいないのに自主授業参観と称して教室に入り込んできた。そのときにお母さんは、その美貌で有馬と安田を除く全ての男のハートを鷲掴みしていた。息子のクラスメイトにはくれぐれも手を出さないように!


 麗も教室に入り浸っていた。休み時間の度にすっ飛んできては、俺の膝の上に乗った。そのときに麗は、その愛くるしさで有馬と安田を筆頭に全ての男のハートを鷲掴みしていた。兄のクラスメイトをたぶらかさないように!


 隣のクラスの居候三人衆も呼ばれてもいないのに俺のクラスに入り浸った。そのときに俺の姉貴分の飛鳥は、3人がかりで凛々しさを武器に全ての男のハートを鷲掴みしていた。弟分のクラスメイトをそそのかすのはやめるように!


 隣のクラスといえば、ゆめも一緒だった。ゆめの場合はおまけ付き。拓哉くんだ。弟を引き連れたゆめは、気さくで素朴な印象を振り撒き全ての男のハートを鷲掴みしていた。幼馴染のクラスメイトをその気にさせるのはやめるように!


 因みに俺の席は1限・3限はまりえ、2限・4限は葵の膝の上だった。俺を膝に乗せていない方は全ての男のハートを鷲掴みしていた。特に葵は前日までが嘘のように大人気だった。クラスメイトのクラスメイトを煽るのはやめるように!


 結局、ハニートラップはありがたいものの、その上をいくラッキースケベは起こらず、クラスメイトからの反感を買うことばかりだった。中途半端なエロといい、ストレスが溜まりまくった。


 それが払拭できたのは、木曜日の放課後になってからだった。



_____________

ここまでお読みいただきありがとうございます。


この作品、登場人物、作者を応援してやんよ、少し気になるって方、

♡や☆、コメントやレビュー、フォローしていただくとうれしいです。


励みになります。よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る