お母さん島の秘密を知ってしまった俺ですが、この島にはブス神様がいることも知りました。

 茂みの奥にある間口の狭い洞穴。中に入ると意外に広い。数十メートル行くとトンネルを抜け、青空が広がっている。そこには、緑に囲まれた天然の温泉があった。乳白色のいかにもな天然の露天の温泉だ。脱衣所でさえない。


「うわぁーっ! すごーい!」

「この島の市民は全員女。だから旅行者以外に男は皆無なんです」

「真智の言う通り。ここに男湯はありません。女湯もありません。混浴です」


 こっ、混浴だって! 浴びたい! 今直ぐ入りたい! 温泉! 混浴!


「俺は、それでも構わないよっ! 一緒に入りませんか?」

「ですがブスアジト内のこの温泉、利用する市民はみんなブスです」

「清くん、ブスの茹で汁。どうか吐かないでくださいね!」


 その点は自信がある。いや、自信しかない。俺がこの島のブスを見て吐くはずがない。だって、みんな美少女ばかりなんだから! 麗たちのお使いのことなんか放ったらかして、温泉で楽しみたい! 混浴したい!


「いーじゃん。茹で汁、サイコーじゃん! 入ろっ!」

「ありがとうございます。こんな私たちと一緒だっていうのに!」

「清くん。貴方は英雄かもしれないわ! 是非、ブス神様に御目通りください」


 ブッブス神様だって! 一体どんなブスなんだ。気になる。会いたい。俺は生唾をゴックンと飲み込んだ。温泉の熱気に水分を奪われたからじゃない。どんなブスかと想像して頭がおかしくなりそうなだけ。さすがの俺も武者震いした。


「真智、公央。何方かいるのですか? 男の人の声が……。」


 その声は、今までに会ったことのある誰のよりも透き通っていた。ヴワァーってなった葵も、お母さんも目じゃない。何の汚れもない声だった。湯煙で姿は見えないけど、気配が水音と共に近付いてくる。これがブス神様の存在感!


「ブス神様、お下がりください」

「まだ御姿をお見せになられてはなりません」


 困らないよ。俺は一向に構わない。俺は思わず叫んでいた。


「見た目がどうとか、そんな細かいこと。俺は気にしない!」


 ピタリと水音が止んだ。湯煙で何も見えない。けど、気配はある。相当近い。透き通るような声だけでも、俺の脳みそを揺さぶる。


「本当に男の人がいるのですね。真智、公央。ご迷惑をおかけしているのでは」


 迷惑だなんて、そんなことないのに。俺は叫びたかった。けど、かわいらしいくちびるが、俺のくちびるを塞いだ。えっ! キス? この日2度目のキスだ。気持ちいいーっ! 真智に違いない。そう思ったのは、公央が喋ったから。


「ブス神様、まだ儀式が済んでおりません。先ずは私たちが試してみます」


 試すって、俺、何をされるんだろう。さすがに不安。真智が俺から離れる。そして2人はするすると着ているものを脱ぎはじめた。儀式に必要なことなの? このあと俺はどうなるの? 不安が半分。高揚感が半分。唾を飲む。


 不意にまた俺のくちびるが塞がる。今度は公央のくちびるで。


「清くんも脱いで。失礼ながら、言葉の真実を確かめなければなりません」


 言葉の真実って、俺は見た目を気にしないってこと! それ、嘘なのに。見た目が絶対とは言わないけど、大事な要素なのに。まずい。キスまでしてくれたっていうのに俺の本性がバレたら、何をされるか分からない!


 どうしよう、どうしよう、どうしよー! 嘘がバレる、嘘がバレる、嘘がバレちゃうーっ! 俺はどんどん公央に服を脱がされている。逃げるに逃げれない。もう、なるようにしかならない! 真智のくちびるが離れる。


「清くんは最初の儀式を通過しました!」

「おめでとうございます。ブス神様、次の儀式をお願いします!」


 水音がどんどん近付いてくる。ここまできて、ブス神様が本当にブスだったらどうしよう。俺の言葉に真実なんてないのに。言いたい。女なんて結局は見た目でしょって、言いたい。楽になりたい。


 湯煙の中、影がどんどん近付いてくる。水音もどんどん大きくなる。そして、俺はついに、ブス神様のお姿を見た。それは、神様と呼ばれるだけあって、みごとなものだった。

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