最近妹にかまってもらえない俺ですが、妹の幼馴染の反抗期が心配です。
【スマートシティ豆知識06】
未来都市、スマートシティ。医療費は保険で賄われていて、基本無料である。しかし一部の難病については保険が適用されない。高額な医療費を患者やその家族が負担しなくてはならない。そのPの捻出はSランカーでも簡単ではない。
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人間界。
16時ちょうど。第6部のスタート。6部と7部は、麗が囲みのモデルとして参加。囲みというのは、大勢のカメラマンに1人のモデルが順に視線を送る形式。御手洗写真館では、麗だけに用意されている特別仕様。
麗には持病がある。12年前の病気が原因。治療法はいくつかあるけど、どれも保健適用外で、とても高額。お父さんが一生働いても、届かない額らしい。もしかすると麗は、独りでいいねを貯めようとしてるのかも。
この1年、麗はずっと忙しい。原因を作ったのは1年前の俺。そのとき、俺は将来Sランクカメラマンになって麗の手術代を稼ぐって決めた。それで練習にと思って麗を撮影して、コンクールに出品した。権威あるコンクールだった。
ビギナーズラックで大賞を貰った。以来、人気となったのは俺ではなくモデルの麗だった。麗にはその翌週からモデルの依頼が殺到。商業誌の編集者の目にとまった。他の雑誌からもオファーが続出し、契約。
以来、麗がどこか遠くへ行ったみたいで、さみしさを覚えることが増えた。
この1年はものすごい人気。今日も集まったのは200人。ほとんどが30代・40代のおっさん。まるで娘のような麗の視線を得ようと猫なで声を出す。麗は上手にファンが不満を抱かないように視線を贈る。妹ながら尊敬するよ。
「れいりん! こっち見てーっ」
「次はこっちお願い!」
「横向いて、れいりん」
「ウキッ!」
れいりんというのは、麗のこと。ファッション雑誌のファンからもらったあだ名。麗は満更でもなさそうだけど、俺は嫌い。麗の方がよっぽど妹らしい。そんなこと口にしたら、みんなにいやねをされそうだから言わないけど。
圧巻の人集りを見て専属モデル3人衆も舌を巻き、冷ややかな目で麗を見る。麗の持病のことは家族だけの秘密。準家族の3人衆も知らない。3人の目に麗は、がめつくいいねを稼ぐ守銭奴のように映るのだろう。
「ったく、えげつないなー。麗の人気も!」
「そうね。2枠で私たち3人のいいね1年分だものね」
「やっぱり男子って、胸の大きい女性が嫌いなのかしら」
いやいや七瀬、俺は大好きだよ。貧乳で許されんのは、麗だけだって。
お母さんが麗の身体に負担にならないように仕事を調整している。内容を吟味してから契約している。その結果、麗のいいね単価がどんどん上がっている。特別仕様の囲みをはじめたのは、多くの昔ながらのファンに楽しんでもらうため。
このままだと、麗の手術代は麗自身がいいねだけで稼いでしまうかも知れない。Sランクカメラマンになって麗の手術代を稼ごうって決めた俺の面目は丸潰れ……。
6部と7部の間。おっさんに混じって少年がカメラをつたなく磨く。拓哉くんだ。料理は上手だけど、写真は滅法下手くそ。なのに麗がモデルをするときは、必ず現れる常連さんの1人。さっきあんなことがあったのに、タフなやつだ。
俺は、拓也くんに気を遣って声をかけた。カメラマンさんのサポートも俺の重要な任務だからね。ときどき、いいねをもらえるし。
「拓哉くん、今日も来てくれたの?」
「あぁっ。撮影中の麗ちゃんは、優しいからねっ」
それはファンサービス。俺は拓也くんが哀れでならない。俺はそっと手を差し伸べる。いいねがほしいってわけじゃない。
「そうか。じゃあ、いい写真の撮り方、教えよっか?」
「断る。AIに調べてもらったやり方で麗ちゃんの視線をゲットする」
なんだ。拓哉くんも昔はすごく素直だったのに。最近は反抗期なのかな。
「けど、上手に写した方が、麗のウケもいいよ」
「一理あるな。だが、バカ兄貴に教えを乞うくらいなら、死んだ方がマシ」
なんて辛辣な。俺としては歳下のガキの言うことだし腹を立てたりはしない。いやねをしようとも思わない。けど、味方になってあげようとも思えなくなる。
「じゃあ、がんばってね!」
「ウッキーッ!」
拓也くんはもともと職人気質で愛想がない。反応の面白さが唯一の救いだろう。反抗期が長引かなきゃいいけど心配だよ。
7部もあっという間に終わった。なかなか帰ろうとしない迷惑なちびっこカメラマンを追い出して、やっと小休憩。そのあとは掃除が待っている。麗が使ったリビングは入念に掃除しないと。
そんなだから、俺はすっかりゆめとの約束を忘れていた。いやねをもらっても文句は言えないな。
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AI界。
清くんったらお茶目ね。幼馴染との約束を忘れるだなんて。このシーンはカットしておこうっと。家臣AIに見せちゃったら、物議を醸しそうだもの! 面白いのは、これからなんだけどねっ!
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