デンジャラス卵焼きはお断りの俺ですが、仲間を募りお母さんと闘う準備をしています。

 そしてまりえは、元気を取り戻し、ヤブからスティックな物言いをした。俺はびっくりした。そんなことがあるはずはない……。


「やったぁっ! お兄さま、今日はお風呂一緒だよっ!」


 まりえの「今日はお風呂一緒だよっ」は、めっちゃパワーワードだよ。もう直ぐ16歳だってのに、ちょっと恥ずかしい。けど、それ以上の大きな収穫があるのは明白。それだけを取り出せばめっちゃうれしいし、楽しみでもある。


 周囲の男子たちの目は一斉に俺に向けて恨みにも近い感情を発する。あるいは、ものほしそうにしている。お前らだって、俺のピンチに見殺ししたじゃないか! って言いたい。気分サイコー。ザマァってやつであってる? 


 けど、それはまだ。俺は慎重にならざるを得ない。だって、交渉相手が俺のお母さんに違いないのだから。俺は、探るために聞いた。


「でもそれは、お母さんが協力してくれるって言ってたじゃん」

「おばさんに変更してもらったのよ。便所に行くときの方が大変でしょう」


 おかしい、おかし過ぎる。釣り合いが取れない。お母さんがそんな条件でオッケーするはずがない。ということは、何か、がある。便所行くときに協力するプラス何かイコールお風呂のときに協力するのを止める、だ。


 となると、この何かが問題だ。交渉の相手がお母さんだとはっきり分かった以上、軽はずみに安心することはできない。けど、まりえのよろこびようからは想像ができない。俺はまた探りの一手を繰り出した。


「お母さんに! それで、他には何か言ってなかった?」

「うんん。よく考えたら、お風呂より便所の方が大変だねってなっただけよ」


 信じ難い。まりえはそう言うけど、絶対に何か裏がある。だから、俺は気持ちを切り替えたくって、まりえに言った。


「ねぇ、まりえ。言い難いんだけど、早速、その……。」

「うんうん。もう直ぐ麗ちゃんが来てくれるから、交代で行きましょう!」


 学校では麗がフォローしてくれるのか。妹に迷惑をかけるのは忍びないけど、仕方がない。ここは素直にお母さんがしいたであろうレールに乗っかろう。


 そう思っていると、麗が飛んできた! 


 勢いよく扉を開けた瞬間、クラスの男子からは大歓声が巻き起こった。


 麗は、そんなことにはお構いなしに、俺に向かって笑顔で言った。


「清兄、行ってちょうだい!」

「あぁっ、ありがとう! 助かるよ。有馬、安田。行くぞっ!」

「おいおい。俺は断じて動かんぞ! 2ショが拝めんだからな」

「そうだよ、清くん。ゆりは専門外だけど、尊いというのは分かるもの」


 たしかに、麗がまりえを抱っこか負んぶする姿って珍しいかも。それを2人に拝ませてあげたいという慈悲心が俺にないってわけじゃない。けど、今は緊急事態。2人を抱き込まないと俺に明日はない! だから言った。SOSサイン。


「お前ら、今日は俺ん家に泊まるんだろ。そのときのこと、はなそうぜ!」

「えっ、有馬さんと安田さんも来るの?」

「そっ、そうだったよ! 忘れてたよ。けど今、思い出した!」


 有馬、ナイス! これで戦力が増強したぞ。そして、安田はっ!


「そうだね。でもどうせぼくは言われた通りにするだけだから、ここにいるよ」


 たしかに、安田はそういうポジション。いつも俺と有馬が振りまわしている。それでも不満を言わず、絡んでくれる貴重な親友だ。だから俺も有馬も、何の不満も抱かずに、安田を置いて便所に行くことにした。


「じゃあ、行ってくるよ!」

「お兄さま。ゆっくりしてってねーっ!」


 こうして、俺は有馬と便所に行った。その間、安田は終始無言だったと聞く。それでお腹いっぱいだったと、あとで教えてくれた。これで、俺と安田の間に、ウインウインの関係が成り立った! あとは、有馬をうまく動かすだけだ!


 便所に行く途中から、有馬ははやっていた。


「おい、清。分かってんだろうな。高くつくぞっ!」

「分かってんよ!」


 気心の知れた、親友、男友達だ。俺は気兼ねなくはなした。


「だがしかし、俺たちだって相当なリスクを背負うんだぜ!」

「なるほど。さすがは有馬だ」


 はやる有馬を、おだてつつ抑える。有馬は既にお母さんが相手だってことを理解している。お母さんの策はいつも途中まではちゃんと俺たちにいい思いをさせてくれる。最後のしっぺ返しさえ予測できれば、いいとこ取りができる。


「それに、安田と俺がイーブンってのもなしだぞ」

「大丈夫! そうガッツクなよ!」


 今は、情報の共有といい作戦の立案が望まれている。仲違いは許されない。俺は続けて言った。


「敵は強大だ。ここは慎重にことを運ばなければならない!」


 有馬が、ゴクリと唾を飲み込んだ。そして、ドヤ顔を俺に向けて言った。


「既に作戦はある」


 今度は俺が渇いた喉にゴクリと唾を送りこんだ。そして、有馬の作戦を聞いて、勝利を確信した。

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