EX4 飛竜部隊

 俺はシャレード王から呼び出しが掛かったと聞き、すぐにシャレード王の元に馳せ参じた。

 俺達、飛竜部隊はその強力無比な戦闘能力の為、殆どお呼びが掛からない。それでも時折起こる災厄のような危機の為に死ぬほどの訓練をしているからか、それに耐えきれずに辞める者が多い。

 それ故に残った者は猛者ばかりで、隊長の俺でもそれらを纏めるのに苦労している。

 だが滅多に呼ばれないそんな飛竜部隊に声が掛かったという事は何かが起きたという事だろう。

 それは喜ばしい事ではなく国の危機、命の危機に他ならないのだ。


「シャレード王、飛竜部隊隊長アレクセル、ここに参りました」

「おお、来てくれたか。早速だがユルブローへ行って参れ」

「はっ。……何か起こりましたか?」

「どうやらスタンピードが起きたようだ。数は数万、それらを率いるはドラゴンゾンビという」

「……ドラゴンゾンビですか。では飛竜部隊はどの程度向かわせますか?」

「国の防備を50残し100騎で向かってくれ」

「畏まりました。直ちに向かいます」

「頼む。ユルブローを救って参れ」

「はっ!」


 俺はシャレード王から言われた通りにすぐに飛竜部隊を招集し、ユルブローへ行く者と王国を守る者とを編成していく。

 だが余り出番のない我らは隊員同士で揉めるのだ。


「はぁ……またか」

「隊長、もう適当でいいですか?」

「モンデルよ。副隊長ともあろうお前がそう言ってどうする」

「そんな事言っても毎回クジで決めてるような物でしょう」

「そうなんだよなぁ……」


 正直実力が低い者でも経験を積ませないといけない。そうなると中々に決められない。

 ならばとほぼ毎回のようにクジ引きになってしまうのだ。


「はぁ……緊急を要する。ユルブローはここから休まずとも二日は掛かる。急いでくれ」

「ならいつも通りのやり方でいいですね?」

「ああ……任せた」

「了解です。おいお前らーー! さっさとクジを引けーー!!」


 モンデルの怒鳴り声に祭りを盛り上げるように盛大にはしゃぎ出す隊員達。

 俺はこめかみを抑えながら戦場へ赴く為に装備を身に着け始めた。


 それからしばらくして100騎の飛竜が揃い、それを操る100名の隊員が決まった。


「隊長! 今回は私も行けます! やっとですよ!」


 そう言ってくるのは前回出番のなかった少佐のレイビィだ。

 見た目は茶髪のショートカットに小柄な女だ。

 しかしこいつは女でありながら腕っぷしも強く、更に長けているのは魔法だ。

 こいつの魔法は宮廷魔導士並みに凄い物がある。

 なぜ飛竜部隊なんかにと聞いたら、「だって飛竜ってカッコ良いじゃないですか!」と言ってきて、こいつも真正のバカなのだと理解した。

 そもそも飛竜部隊はそんな真正しか残れない。それほど過酷な部隊なのだ。

 その隊長をしている俺も対外だななんて思っていると……


「何ニヤニヤしてるんですか? きもちわるい!」


 とてもストレートに暴言を放つレイビィ。こいつはほんとにお淑やかおしとやかという言葉が程遠いな。もう少し慎みを覚えて欲しい。


「暴言とは良い度胸だ。お前は今回も残るか?」

「きゃー素敵な笑顔です隊長! では準備してきます!!」


 そう言って駆け出して逃げるレイビィ。


「まったく……さて、行くか」


 俺は苦笑しながらも気を引き締めてユルブローへ行く為に隊員達に声を掛け飛竜に跨る。


 俺はこの空を駆け上がる瞬間が途轍もなく好きだ。

 何物にも邪魔されない自由な感じがしてとても心地が良い。


 他の隊員達もそうだがこれから戦場へ赴こうとするのに誰一人として臆する者などいない。

 むしろ獰猛な笑みすら浮かべる奴までいる。


 (ほんと酔狂な奴らが集まったもんだ)


 年に数度しか出番の無い中、こうやってここまで残るのだから、本来は戦闘狂であろうにな。

 現にこの飛竜部隊を辞めた奴らは大半が冒険者や騎士や兵士になり、戦場へ駆けだしている。

 戦場へ行かないのは死んだ奴か引退した奴か怪我して戦えない奴らだ。

 体が動く限りは戦おうとするのが飛竜部隊の特徴だ。


 そんな事を考えながら、休みは1日1回だけにして、それ以外はずっと空を飛びユルブローを目指す。

 飛竜はとても丈夫でスタミナに長けており、強さもAランク冒険者が10人~20人は必要なほど強い。

 そもそも空を飛べるというだけでもの凄いアドバンテージを持っているからな。


 そんな奴らを従えるには、それを超える程の力を示さないと跨らせてはくれない。

 例外は卵の時から育てて、最初に顔を見せる事だけ。所謂、刷り込みという奴だな。

 それをすれば親だと認識するようで、弱くても跨らせてくれる。

 だがそんな者では戦えないので、実力の強い奴が卵が生まれそうになると一日中卵を抱えて生活するというのが、飛竜部隊の通例になっている。

 要は強い順から飛竜の卵を貰えるという感じだ。


 だから我先にと卵を貰う為にさらに強くなろうとするので、結果強い者しか飛竜部隊には居られないし残れないという仕組みが出来上がった。


 それから空を飛びながら何事もなく二日掛け、ユルブローという街へ着いてみると、上から見ても分かるように、ガムルの大森林という途轍もなく広大な森があり、その森の至る所から魔物共が溢れ返っていて、今にもユルブローの街を飲み込もうとしている。

 いや、若干だがすでに冒険者達が街の中や前で戦っている。


 それを見た瞬間に周りの隊員達が沸き立った。


「おい見ろ! すげー数だぜ!」

「いっぱいいるぞ! どんだけ暴れりゃいいんだ!」

「やったーー!! あたし1万匹倒す!!」


 普通は臆するであろう光景なのに、いつも通りに興奮して殺る気になっている隊員達に苦笑しながら声を掛けた。


「お前たち! 俺達でユルブローを守り通すぞ!! 続けーーー!!!!」


 俺も他の連中の事は言えないなと思いながらギラついた眼を魔物に向けながら飛竜を操作する。


 それからは飛竜部隊の独壇場だった。


 飛竜の火炎に加え隊員達の魔法や剣技などで瞬く間にユルブローの街を攻撃していた魔物共が命を散らしていき、配下を従えるオークロードやゴブリンキング、ハーピークイーンやキラービーの群れなどを屠っていく。


 中でも街に入り込んでいたデーモンスパイダーを見た時は肝を冷やした。

 こいつらはデーモンの如き強さを誇り、糸を介して闇魔法まで使うから、飛竜なしでは会いたくない相手だ。


 だが今は飛竜がいるので、もうすでに住民は避難していると聞いているから遠慮なく火炎を吐き出して剣技の千剣斬でもって瞬殺する。

 デーモンスパイダーの糸は火炎耐性が若干だがあるが、飛竜の火炎に耐えらえる程ではないので、糸に触れる前に燃やし尽くし真空刃を無数に放つ千剣斬ですぐに殺した。


 だがこいつの厄介な所は成体が一匹いたら幼体が100体はいる所。

 俺は仕方なく隊員達に声を掛け、50の隊員達でもって街中を隈なく探して出してデーモンスパイダー共を処理していった。


 その間に他の50の飛竜部隊員たちはユルブローの外の魔物を倒すべく向かっていき、順調に殺戮していった。


 ある程度、街も街の外も駆除出来た所でモンデルが話し掛けてきた。


「隊長、そろそろ元凶に向かいますか?」

「ああ、そうだな。ドラゴンゾンビという話だからな。それにしてもなぜドラゴンゾンビが来てないんだろうな?」

「もっとガムルの大森林の奥にいるんでしょうかね?」

「だろうな。では話し合った通りに主力の30騎でもってドラゴンゾンビの元へ向かうぞ!」

「了解! 主力は続けーー!!」


 70騎を魔物の殲滅に残しドラゴンゾンビが居ない事を不思議に思いながら、俺は主力を率いてスタンピードの原因の元へ向かう事にした。


 そこで俺の遠くを見通せる魔眼が反応を捉えた。

 なぜ俺が飛竜部隊の隊長をしているかというと、この遠くまで見る事が出来る魔眼の影響が大きいだろう。

 遠くまで見る。ただこれだけだが、これが飛竜に乗っている者からしたら何物にも代えがたい能力なのだ。

 空からの景色がおもの飛竜に置いて、地上の景色は豆粒のような物だ。

 当然目が良くないと何も見えない。


 だが俺は誰よりも先に遠くの物まで見る事が出来る。それが隊長になった理由でもあると思っている。

 まぁ代々、飛竜部隊の隊長はシャレード王が任じるから真意は分からないがな。


 そんな俺の目が信じられない物を捉えた。


 それは遠くからでも分かる程の巨体のドラゴン、そしてそれに纏わりつく様に動いている1人の人間の姿が見えた。


「……なんだ? 一人の人間がドラゴンを抑えているだと……?」


 他の隊員達はまだ見えていないのか何も反応を示さない。

 だが俺の目はしっかりとこの異常な光景を捉えていた。


 そしてその人間はこの距離からこちらを認識したのか、ドラゴンの上に乗りここからでも分かる程の巨大な大剣をドラゴンに突き刺して、その場から離脱した。


「なんなんだあいつは……それにあの剣はなんだ?」


 俺は半ば呆然としながらそれを見つめていたが、近づけば近づくほどあの人間がやっていた事の異常性が理解できた。


「おいモンデル……信じられない事が起きてたぞ」

「なんです隊長?」

「あのドラゴンゾンビが街に来なかった理由だ」

「……なんですそれは?」

「一人の人間が戦っていて巨大な剣を突き刺して足止めしていた」

「…………嘘でしょ?」

「いや本当だ」

「…………終わったら詳しく聞かせて下さい」

「ああ、信じないと思うがな」


 自分ですら自分が見た光景が信じられないと思うのに、他人が信じられる訳がないだろうなと思いながら、誰かに言わないと戦いに集中できないと思いモンデルに犠牲になって貰った。


 (悪いなモンデル。終わったら酒でも奢ろう)


 そんな事を心で思いながら、ドラゴンの姿が他の隊員達にも見える所まで来て、一気に殲滅する為の指示を出した。


「相手は正真正銘のドラゴンだ! 遠くてもブレスだけは警戒しろ!!!」

「隊長来ます!!!」


 俺がそういうや否や、ドラゴンから一直線に俺達目掛けてブレスが飛んできた。

 それは避けるとかそういうのが出来ないほどの速度で、数人の隊員達が一瞬で犠牲になってしまった。


「チッ! おまえら! 散開しながら攻撃だ!!」


 俺はやられた隊員達の事を思うと胸が痛くなるが、今ばかりはそれを忘れるようにしてドラゴンを相手取る。


 それからは空を駆けながら、飛竜の火炎や隊員達の剣技や魔法でドラゴンを攻撃するが、瞬く間に再生していくのを見て、ここまで厄介な敵とは思っていなかった。


 そしてまたブレスの前兆が見てとれドラゴンの口の角度に集中する事を隊員達に伝え、何とか2度目のブレスを回避し、次のブレスが来る前に早期に決着を着けるべく、魔法が得意なレイビィに魔力全開のフレアストームを撃つ事を命じた。


「今だレイビィ!!」

「はい! いけぇええ! メガフレアストーーム!!!」


 ファイアストームの最上位魔法であるメガフレアストームをレイビィの魔力全てで放つそれは、小さな1つの街を飲み込めるのではと思う程の火力を放っている。

 その炎の渦の中でドラゴンゾンビは全身が悲鳴を上げているように、腐っている皮膚どんどんと焼け落ちているのが見えた。


 そこで他の隊員達が畳みかけるように飛竜達に火炎吐き出させて炎を増大させ、更に風魔法で火炎の威力を増そうとする者、その火炎の渦に剣技で真空刃を混ぜる者、フレアストームを放ち炎を絶やさない様にする者達がいた。


 その途轍もない破壊力に、ついにドラゴンゾンビの再生が追い付かなくなり、皮膚が焼け落ち鱗も全て剥がれ落ちて、ついには骨だけになり朽ち果てていった。


 皆が動かなくなったドラゴンゾンビの骨を眺めながら、炎が消えるのをゆっくり待っていた。


 皆の全力の炎が消えかけようとしたその時、一つの巨大な火炎弾がドラゴンゾンビの焼き果てた骨にぶつかり、骨を粉々に消し飛ばす。


 何事かと見ると、そこには翼や尻尾を大きく損傷しながらもなんとか飛行を保っている飛竜の姿があった。

 だがその背には隊員が乗っていない。


 俺はその飛竜に覚えがあった。


「……デッゾの飛竜か……あいつは最初のブレスで……」


 そう、最初のドラゴンゾンビのブレスによって骨も残らずに消し飛ばされてしまった隊員の飛竜だった。


 その飛竜が涙を流しながら火炎弾を放ち、敵であるドラゴンゾンビの骨を粉々に砕いたのだ。


 その涙に他の飛竜達が鳴き声を上げる。


 それはとても悲しい鳴き声で、仲間を悼むように聞こえた。


 飛竜はとても賢い。それにデッゾの飛竜は卵が割れる時からいたはずだから、きっと親と同じに思っていただろう。


 あの飛竜はもう人を乗せる事はないだろう。それほど最初に見た人間というのは大事だし、責任が重大なのだ。

 これからはあの飛竜をどうにか手懐けるか自然に返すかするしかない。


 一度人間に懐いた飛竜は親か主人と決めた者以外は乗せないが、人間を襲う事はないからな。


 (どうにか次の隊員達があの飛竜の主人と認められればいいが……)


 そればかりはやってみなければ分からないので、今はドラゴンゾンビを倒せたことを良しとしよう。

 そしてこの飛竜の鎮魂歌レクイエムが終わるまでは、自由にさせてやろうと思った。




 俺は久々の戦死者が出たという事もあり、ドラゴンゾンビを足止めしていた人間の事などすっかり忘れてしまっていたのだった。

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