17話 決着の時

「さあ化け物。第2……いや第3ラウンドの始まりだ!」


 そう言うなり俺は猛然とデュラハン目掛け襲い掛かっていった。


 クリアになった思考で、ゆっくりとした時が流れる中で一つ一つの血剣ブラッドソードを丁寧に操っていった。

 今ならば少し前の俺が如何に血剣ブラッドソードを操れていなかったのかが良く分かる。

 だが今では手足のように操る事が出来た。それを巧みにデュラハンが受けきれないように11本全てを対応不可能なように上下左右、全ての方向で操る。


「ぬぅぅうう! 小癪な…! もう制御しきったというのか!?」


 デュラハンが言う通りに俺は驚異的な速度で新スキルである、血銀十剣ミスリルブラッディソードを見事に使いこなしていた。

 その剣捌けんさばきに容赦なく鎧のあちこちに傷を増やしていくデュラハン。

 それでも俺は手を休めることなく攻撃し続けていく。


「どうした!! お前の力はそんなものか! もっといけるだろ!!」


 俺に気圧されているデュラハン目掛け呼び掛ける。お前はそんなものじゃない。タナトスになろうとする者がこの程度で気圧されるわけがない。

 俺はまだ眠っている力を呼び覚まさせ、その上でこいつを超えていきたい。

 俺の全力を出させようとしたお前デュラハンのようにな。


「儂が気圧されるだと!? こんな屍喰鬼グール如きに!! あ、ありえんぞーー!」


 怒りによって眠っていた力が溢れ出たのか、漆黒だったデュラハンの鎧が淡く光りだした。

 今まであまり使われていなかった魔力が動き出したのを感じる。


「ほんと魔力って不思議だよな…」


 そんな事を思いながら、破壊力が更に増したデュラハンを見やる。

 今さっきまで圧されていたはずなのに、それが嘘かのように俺の血剣ブラッドソードを弾き返している。それはとてもじゃないが目で追う事は出来ない。 元々、頭部のないデュラハンは気配と魔力でそれを感知しているのだろう。

 その反応速度は驚異の一言だ。

 限界を上回ったデュラハン相手では、もう血剣ブラッドソードだけでは対応出来そうにない。

 ならばと己の身をまた血剣ブラッドソードと共にデュラハンに向ける。


「これが正真正銘、俺の全力だ!受けてみろ!」

「望むところよ! 来い屍喰鬼グールめが!」


 俺は全力を持って11本の大剣と共にデュラハンを攻めていく。

 それに負けじとデュラハンも懸命に応戦する。

 1秒に数十、いや数百に上ろうかと思える程、斬り結びながら俺はただただ大剣を振るうことに集中し、デュラハンは弾き返す事に集中する。それにより力関係が一時的に拮抗するが、徐々に俺の剣技がそれを上回る。


「ぬおおおお! 儂が!! 屍喰鬼グール如きに! 負けるわけが!!」

「グールグールうるせぇえ! 俺は俺だーー!!」


 膨大な魔力を身体の限界を超える程に注ぎ込み、一気に決着を付けるべくデュラハンに斬り付けていく。

 それは楽しいを超え、脳に麻薬をぶっ掛けているかのような絶頂感とも言えるような高揚感。

 だがそれに飲まれないように意識をデュラハンだけに集中する。

 今この時だけは音も匂いも何も感じない。

 ただただ剣を振ることのみに集中している。


 (ああ……たのしい……なぁ…おまえもだろ?)


 俺のその気持ちに応えるように、首のないデュラハンが笑った気がした。


 属性の付与させた血剣ブラッドソードがデュラハンの大剣をすり抜け、強固な鎧に斬り掛かり傷付けた所が炎を纏い、更には凍てつきヒビが広がっていった。

 所々がもうボロボロになってきている。


 俺は終わりを告げ、なけなしの魔力を更に血剣ブラッドソードに注ぎ込み、11本全てを一斉に振り下ろした。



「これで!! 終わりだーー!!」

「ぬぉぉおおおお!!」


 防ぎきれなくなったデュラハンに11本の大剣全てがぶつかり、盛大に爆発した。


 周りが見えないほどの砂煙が舞う中、俺は悠然と佇みながら煙で見えなくなった地面を見つめる。


 徐々に煙が消えていき、見つめていた地面には大剣が中ほどから折れ、鎧も半分以上が粉々になっているデュラハンの姿があった。


「…ぐぬ…ぅ……これまで…か…」

「ああ……楽しかっただろ?」

「ぬかせ! …楽しいわけが……勝ってこそよ…」

「ああそうだ。だけどほんとはどうだ?」

「……これほど…震えたのは初めてだ」


 負けた悔しさを飲み込み、デュラハンが笑った声でそう答える。

 

「だろ? 俺も最高だった」


 俺はそれに応え、最後に聞こうと思っていたことを聞いた。


「なぁ、あんたの名前はなんていうんだ?」

「今更か! …儂は…ガラハドだ」

「ガラハドね……楽しかったよガラハド……ありがとな」

「殺した相手に…感謝とは……変わったやつよ」


 素直な気持ちなのに酷い奴だと思ったが、もう消えかけているガラハドを見てそれを飲み込んだ。


「あぁ…楽しか…た……いま…ゆきます…ぞ……」


 そう言い残しデュラハンの鎧から完全に魔力が消えるのを感じた。

 そしてそれが合図かのように、半分だけ形を保っていた鎧が粉々に砕け散った。


「最後まであんな奴ワイトに忠誠を捧げるとか…あんたも変わりもんだな」


 身体は魔物になってしまったが、心は武人のままだったと感じた。俺はそれが酷く印象に残った。

 俺自身は強いデュラハンにしか興味なかったが、ガラハドこいつがここまで忠誠を誓ってたんだ。ワイトには何か引き付ける物があったのかもしれない。

 そう思い俺は外に出られたならワイトの事も少し調べてみようかと、頭の片隅に置いておくことにした。


 ここに来てとても短い時間だったが、濃密な時間を過ごしたと思う。

 それほど充実していた。


 一度は死にかけたが運よく進化出来て生き残る事が出来た。

 だが俺はまだまだ強くなりたい。

 ワイトだろうがデュラハンだろうがタナトスだろうが、それらを軽く一蹴出来る程に…


 



 俺は戦友とも言えるデュラハンの剣と鎧の一部を形見として貰っておく事にして、残りを丁寧に埋葬してワイトが根城にしていた墓地に戻っていく。

 ワイトが何か良いアイテムを持っていないか調べに来たのだ。


「ワイトワイトって言ってるけど、あいつの名前も知らないなぁ」


 調べようと思ったけど名前も分からないんじゃと思ったが、あいつは王族とか言ってたからそこから調べればいいかと思った。

 そうして墓地を調べるが、アイテムなど欠片も無かった。


 まぁそりゃそうか。この場所で生まれたとしたら何にもないよな。

 そう思いながらも丹念に調べていると墓地の中に小屋があった。

 そこにはワイトが書いていたであろう紙がいくつか散らばっていたが、文字すら読めない俺には何の事かさっぱりだった。 念のためそれを仕舞っていると奥の方に扉があるのが見えて中に入ってみる。

 すると中には台座に乗った水晶のようなものが置かれており、ゆっくりと近づいていく。


 なんだこれは? 不思議な淡い輝きを放っている。

 俺は何気なく手を触れると……




「な、なんだ!? ……景色が…ここはどこだ?」


 周りの景色が一変して、目の前には洞窟の穴が見えていた。

 そして周りには樹木が生い茂っており、もしやと思い空を見上げた。


 そこには枝葉の間から薄っすらと空が確認出来て光が漏れており、おお~と感動していると、突如として猛烈に焼けるような痛みが襲ってきた。


「なんっ…うぐあぁぁあああ!!」


 急な出来事に俺は痛みに耐えきれず地面に倒れ伏し転げまわる。

 だが樹木の陰に入ると痛みが収まり、そこから外れると痛みに襲われるのが分かった。

 そこで俺は洞窟の中に急いで入る事にした。


 なんとか地面を這いつくばりながら懸命に手足を動かし泥にまみれながら、ようやく洞窟の中の日の当たらない場所にたどり着く事が出来た。


「ぐぅっ……はぁ……はぁ…はぁ……なんだよ…これ…は…」


 急なことに思考が定まらないが、少し前の事を思い出す。

 それは洞窟から出ようとした時の事。

 その時は光が見えてなかったからか洞窟の外に思わず出てしまい焼け死ぬかと思ったが、その時と同じだと思った。

 そして洞窟を調べてみると、記憶にある場所だと感じた。


「もしかして…?」


 俺は洞窟の中に入っていき、昔使っていたであろう安全な狭い穴を見つけた。


「やっぱり……ここは俺が生まれた洞窟の中じゃないか」


 そう、ここは俺の生まれ故郷である洞窟だ。

 ならばあの水晶は…


「もしかして出口への転移石って事か?」


 そう結論が出た。そうとしか思えない内容だからだ。


 まさかあれが出口への転移石とは思わなかった。

 ならば入り口にも同じものがないか?と探したが、洞窟の中にはないのは確認済みだ。

 あるならば気付いている。

 それならばと外を調べれば分かるのではないかと思った。


 だがおかしい。 ワイトの話だと亜種になれば光の耐性を得ると言っていた。

 しかし今の俺は見事にその例から外れていた。


「おかしいな? 確かに亜種なのに…」


 そう思いステータスを確認するが、確かに血剣屍ブラッディソード喰鬼・グール・亜種・アナザーとなっていて、ワイトの言うように亜種となっている。

 進化した時は生きるのに必死すぎて光の耐性がどうとかは考えてなかったが、もし分かっていた所で、亜種になったことで勝手に耐性を会得したと思って喜びいさんで外に出ていただろう。

 そして今みたいに日に焼かれて転げ回っていただろう事は想像に難くない。


 しかし確かに亜種だ。……ん…?…ちょっと待てよ…もう一度ワイトの言葉を思い出せ。

 あいつはなんて言っていたんだったか…?

 たしか……




「それは進化の先が日の光に強いやつになる事だ。何かの種族の亜種になれば日の光も克服できる奴も出よう」




 ……そうだ。亜種になれば日の光も克服できる奴も出ようだった。


 (あれ? 亜種は日の光に克服したんじゃなくて、克服できる種族も出てくるという事か…? ははっ……はぁ…) 


 そこで俺の勘違いに気付く。俺のこの種族では光には強くないようで、それを文字通り実感した所だ。


 だが俺は外に出たい。その欲求が抑えられない。


 ならばと俺は外に出る事を決意する。


 今までは生きるという事を優先していたが、ガラハドと戦ってからは外の世界に出たいという欲求が強くなった。

 ならば今がその時だと臆病風が吹く前に、灼熱に燃やされるような光のある場所へとその足を向けていた。

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