16話 血銀十剣

 命が消える直前に進化を果たした俺は、ここからが真の戦いになるだろうと直感した。


 正直ワイトも強かったが、あれは研究者というようなイメージを持っていて、アンデッドの配下を作る事と進化に全力を傾けていたような感じがした。

 だから魔法もそこまで熟練度は高くないように思えた。なので近付きさえすればなんとかなると思っていたが、実際そうなった。

 リッチに近いとか言っていたが、正直ワイトの域を全く出ていないと思う。


 だが解放されたこのデュラハンだけは別格だと本能が告げている。


 あのワイトよりも遥か高みにいる。


 使役されていたにも関わらず自我を保ちある程度自分で動いたいたという。だがそこから解放されてからは、その圧力は今までの比ではない。


 俺も進化したとはいえ、進化したては爆発的に上がった力に振り回されるだろう。

 それを制御しながら目の前の化け物に勝たなければいけない。

 そう思い身体から溢れてくる力を感じ取りながら、ゆっくりと自身の身体を見回した。


 身体は屍喰鬼グールっぽく青白い色をしているが、両腕には大剣と同じような赤い流線状のタトゥーのような模様が刻まれていた。

 その模様から今までにはなかった力を感じられる。

 こいつを使いこなせれば、俺はさらなる高みに登れるだろうと感じ取れた。


「進化したては脆いと聞く。今のうちに倒させて貰うぞ」

「そうはいくか。存分に楽しもうじゃないか」

「おぬしも戦闘狂か…悪くない。ではゆくぞ!」


 そういうなり驚異的な速度で向かってくるデュラハン。

 俺は新たな相棒の血剣ブラッドソードと共に猛然と迫り来るデュラハンを迎え撃つ。


 今はまだ身体能力も分かっていない状態だ。ならば攻めるよりはカウンター主体で行こう。

 そしてそれは悪くない判断だった。


 猛然と襲い掛かるデュラハンとなんとか己の力に慣れる為、守り主体の俺とで凄まじい攻防を繰り広げていく。


「ぬぇい! 避けてばかりでは勝てんぞ! 向かってこい!」

「まだ様子見だ! お前もだろう?」


 速度こそ解放前の比ではないが、まだ手加減しているように思える。

 それは戦闘狂である事からして間違いではないだろう。


 こいつも全力の俺と戦いたいんだろうな。


 これだから戦闘狂は……最高じゃないか!!


 顔が自然と笑みを浮かべ、その笑みはなんと獰猛な事か。

 だが剣と剣とで斬り結ぶのがこんなにも楽しいなんてな!


「お互い化け物じゃなければずっとこうしてられるのにな!」

「人間の頃は毎日楽しかったぞい。剣聖と持もてはやされてからは更にな!来るもの来るもの猛者ばかりで飽きんかったわい!」

「剣聖ともなるとその称号を狙って毎日挑戦者が来るのか! いいなそれは!」


 人間であったならば強い奴らと何の気兼ねもなく戦えるのか。それは楽しいだろうなぁ。

 だがこの身体じゃ無理だ。ならば今を思う存分楽しもうじゃないか!


 段々と身体の状態を把握しきれてきた所でデュラハンがギアを一段上げてきた。

 それに応えるようにこちらも更に上げて応戦する。


 大剣の性能はまだ分からないがきっと俺の方が高いだろう。

 だがあちらの大剣も相当な強度を誇っている。


「その大剣はお前のか?」

「そうだ。儂がこの身体で目覚めてから生まれ出た物よ。おぬしと同じようにな!」


 そういうなり更にまた速度を上げてきた。

 それは確かに硬いだろうな。デュラハンの鎧自体がとんでもない強度を誇っているのだ。そりゃ共に生まれたともなれば、大剣も同じかそれ以上の強度があって然るべきだ。

 俺は剣の鋭さをどんどんと磨いていき、ようやく自身の身体に宿る力を出せそうだと感じた。


 そこで種族特性の剣技も以前よりも上位になっているだろうと思い、ステータスを確認すると「剣技の極意・中」というのが見て取れた。

 剣士屍体ソードゾンビよりも更にワンランク上の物になっているのが確認でき、更には特殊スキルが増えていた。


 (なんだこれは……? ……血銀十剣ミスリルブラッディソードだと?)


 それは新たに増えていたスキルで種族特有の物ではなく俺自身のスキルだと思われた。

 そしてそれに意識を向けると、どんなスキルかも把握する事が出来た。


 (これは良さそうだ。早速使ってやろう!)


 俺はデュラハンを大きく弾き距離を取る。


「どうした!? 恐れをなしたか?」

「いや、これからだ! お前に進化した俺の力を見せてやる。耐えきって見せろよ?」


 俺はそういうなり血銀十剣ミスリルブラッディソードを発動する。

 両腕に刻まれた流線状の赤い模様から赤い魔力が噴き出し、それが俺の周囲に渦を巻きながら漂い始める。 そしてそれが徐々に大剣の姿を形作っていき、俺の持っている大剣ととても良く似ていた。そこから少し太さが細くなった血剣ブラッドソードが計10本生み出され、ゆっくりと俺の周りを回っている。


 それら全てに意識を向けてデュラハンに向かうように命じた。


「今度は10倍だ。防げるかな?」

「面白い! 来るがよい!」


 その言葉と同時に10本の血剣ブラッドソードを一斉にデュラハン目掛け突撃させる。

 

 まさに手数が10倍。その数にさすがのデュラハンも鎧の至る所に傷が増えていき、そのまま圧倒するかに思えた。

 だがそうはいかないのがデュラハンだ。次第に10本の血剣ブラッドソードに見事に対応し、それはまるで血剣ブラッドソードと踊っているかのように見えた。


「ぬはははは! 人間の時でもこのように面白い事はなかったわ!」

「これで面白いとかいうのかよ…さすが化け物だわ」


 俺は笑顔でその言葉を迎え入れ、そこに今度は俺自身が乱入していった。


 そこからは1本の大剣vs11本の大剣の戦いになった。


 互角かのようこちらの全部の剣に対応するデュラハンも化け物だが、これは俺がまだ血銀十剣ミスリルブラッディソードを扱いきれてない事にもある。


 瞬間加速アクセル・モーメントでもって10本の血剣ブラッドソードを操っているが、無理やり効果を引き延ばしているからか、脳みそが焼き切れそうだ。

 自分に当たらないようにするだけで精いっぱいだ。

 それを感じているデュラハンが一気にギアを上げてきた。


「使ったことのない能力なぞ怖くもないわ! さぁ全力で行くぞ!」


 それはまるで一気に闘気が膨れ上がったかのように感じられた。


「ぬはははは! おぬしを倒せば儂は最終進化のタナトスに至れそうだ! さあ、その命を貰おうぞ!」


 俺が進化したばかりだってのに、こいつはタナトスに進化しようとしてるのかよ。

 そりゃ強いわけだ。もう最終進化が出来そうな所にまで手が届いているというのだ。

 元々の持っていた物がそれだけ凄まじかったのだろう。

 それはもうデュラハンの枠からはみ出た存在だ。


 だが俺も負けてはいられない。

 瞬間加速アクセル・モーメントによって脳みそがすでに焼き切れているんじゃないかと思える程の頭痛に目を回しそうになるが、それでも止めずに使い続け、乱れそうになる血銀十剣ミスリルブラッディソードをなんとか操っていく。


 だがますます勢いの増すデュラハンの攻勢に徐々に圧されていき、ついには大きく弾き飛ばされてしまった。


「く…ぅ…っマジかよこいつ!」

「ぬはははは! おぬしは見た所、屍喰鬼グールの域を超えているだろう。だがタナトスに至ろうとする儂には届かんな。しかし、たかが屍喰鬼グールの身でその境地にまで至るとは恐ろしい奴だ。あとは儂に任せい。地上に出て猛者共と楽しんできてやる」


「ふ…ざけろ!」


 俺は焼かれる脳みそにふらつきながら、なんとか答えるが立っているのが精いっぱいだ。

 だが俺はまだやれることがある。この身に宿る有り余る魔力をあまり使えていない。

 このままではどうせ殺されると思い、ならばと脳がイカれようが構わないとばかりに、溢れる程の魔力を脳に思い切り注いでいく。

 すると今までの痛みが嘘のように引いていった。


 そこでふと気になりスキルを確認すると、瞬間加速アクセル・モーメントから永続加速パーデュアブル・アクセルにスキルが変化していた。

 これは……瞬間加速アクセル・モーメントを使い続けたことでこのスキルも進化したのだろう。

 これならばと、ふらついていた四肢に力を入れ、大地に向かって真っすぐと立つ。


 そしてそこから更に魔力を使い、血剣ブラッドソードに属性を付属させていった。

 俺が使えるのは火と水だ。ならば5本づつ属性を血剣ブラッドソードに付与していこう。

 進化した事によりこの身に宿る有り余る魔力を更に増大させ、血剣ブラッドソードに注いでいく。


「なんだその膨大な魔力は!? なぜ屍喰鬼グール如きがそのような魔力を持ち合わせている!?」


 俺から溢れ出る魔力にたじろぐデュラハンを横目に、全ての血剣ブラッドソードに属性を付与し終わった。


「さあ化け物。第2……いや第3ラウンドの始まりだ!」


 そう言うなり俺は猛然とデュラハン目掛け襲い掛かっていった。

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