15話 死闘の果てに

 ワイトに斬り掛かる俺を邪魔するデュラハンをウォーターボールで牽制しながら、身のこなしが上手くないワイトの両手の結界をすり抜けて、ファイアナイフで斬り付けていく。

 斬った所が炎で燃え上がりワイトが痛みに顔を歪ませる。


 これを見た俺はファイアアローを交え更に仕掛けた。


「クッ、デュラハン! 何をしている! こいつを斬り殺せ!」


 ついに自分じゃ対処できなくなったか駒であるデュラハンに命じ始めた。

 捨て駒と思っている奴がその駒に救いを求めるとは…俺はこういう奴が大嫌いだ。

 ますます怒りが沸いてきてそれを力に変え、何度も何度もファイアナイフで斬り付ける。


 だがワイトも魔法で懸命に応戦してくる。そこにデュラハンも加わると俺の手が足りなくなる。

 そこで一度捨てた折れた魔剣の剣先を握りしめ、二刀にして攻撃の手を増やす。

 途中で魔剣の剣先を握っていた指が千切れそうになるとファイアナイフと持ち替えながら、攻撃を続ける。


 折れた魔剣の刃が指に斬り込み血液が流れ出る。そしてそれに伴うように魔力がどんどんなくなっていく。


 (こりゃあ…少しばかり厳しい状況だな…)


 俺はなんとか善戦しているが、そこ止まりだ。倒しうるにはまだ一歩、手が足りない。

 そこでふと気づく。


 (……ん? ……地面にいくつか魔力反応があると思ったら……俺の血か?)


 先ほどから瞬間加速アクセル・モーメントを無理やり引き延ばして使い続けているせいか、また頭がガンガンと割れるように痛くなっているが、それを無理やり無視して思考を巡らせる。


 (俺の血液に俺の魔力が宿っているなら…もしかして)


「たかが腐屍体ゾンビがなぜこんなにも力を持っているんだ! 早く死ぬがいい!」


 執拗にワイトにくっつきデュラハンが攻撃しづらいように動きながら、俺は折れた剣から流れる血液を操作してみる事にした。

 

 すると、流れ出ていた血液が止まった。そこでその魔力の宿った血液を、折れて刃毀れの激しい魔剣に纏わせるようにしてコーティングしていった。

 そうして何度も斬り付けていると、鋭さが増した。


「このっ!? またもやイレギュラーなことをしよって!」


 俺の剣の切れ味が増し、それが血液によるものと判断したワイトは更に叫んでいた。

 イレギュラーだなんだと言われればその通りだろう。俺は喜んでそれを受け入れようじゃないか。


 お前の命を持ってな!


 俺はなけなしの魔力でデュラハンにウォーターボールを放ち動きを完全に封じる。

 そして魔法を放つワイトに最後の攻勢に出る。


 右手には折れた魔剣、左手にはファイアナイフ。

 それでもってワイトに秒間数十回もの勢いで斬り付けていく。


「たかが! 腐屍体ゾンビに! わ、我が…!?」


 ファイアナイフの恩恵が大きい為、どんどんとワイトの身体が炎に飲み込まれていく。

 それを折れた魔剣で更に攻撃を加え、ついに片腕を斬り飛ばす。

 そこからは結界で防ぐ手段を減らされたからか、時間と共に傷を与えていき、ついには両腕を斬り飛ばし、一瞬の間を突いて首も斬り飛ばす。


「なっ…わ…われが…こんな……やつ…に…」


 首が飛んでも生きているとはさすがだ。

 俺は油断なくすぐさま頭をかち割るために一気に距離を詰めた。


「見事だ……だが…」


 そんな思念が伝わり頭をかち割ろうとした瞬間、巨大な爆発が起きた。


 ワイトが死ぬ間際に有り余る魔力を使って自爆を図ったのだ。

 俺はスローな世界でそれに気付き飛び退くが当然間に合わなく、今までで一番吹き飛ばされる事になった。




 意識が戻り起き上がろうとするが、身体が上手く動かない。

 視線だけを下げれば身体の大半が吹き飛び、左腕は肘から先が無く、胴体は胸から下を失っていた。

 だが右手に持った折れた魔剣だけは離さずに持っていた。


 (ははっ……最後まで居てくれるんだな……相棒…)


 俺は治る気配のない身体を見つめながら、これで終わりかと死を直感した。

 だが俺はまだ生きたい。こんな所で終わりたくない。終われるわけがない!

 そう思いながらどうにか動こうとするが全く動かない。


 そんな時、音が聞こえた。


 ジャリッ…ジャリッ…


 何かの足音のようなものが聞こえてきて、思わず顔を音の方向へと向ける。

 そこには…


 (そういや…こいつが残ってたな……)



 土埃にまみれた巨大な大剣を揺らし、土埃と傷だらけの鎧を雄大に動かしながら向かってくる一体の魔物。



「……デュラハン」



 とんでもない強度を誇る鎧を持つこいつには、あの爆発でも大したダメージもなく生き残っていたのだ。


 (ちくしょう…おれもここまで…か…?)


 どうにか思考を巡らせるが、何も策は出てこない。

 しかしなぜこいつはワイトが死んだのに動いているんだ? そう思っていると思念が飛んできた。


「よもや主君を倒すとは思ってもみなかったぞ」


 しゃ…しゃべれるのかこいつ…?


「主君に呼び出されてからというもの、意識が定まらず思うように動けなかったが、今なら本来の力が出せそうだ」


 そんな恐ろしいことを言ってくる。

 じゃあ何か?こいつはワイトのせいで縛り付けられてただけで、それから解放されたと?


「お…まえ……あれで、全力じゃ…なかったのか…よ…」

「あの程度寝ながらでも出来るわ。儂は元王国騎士団長にまで上り詰めた事もあるゆえな」


 ま…まじかよ……


 この動かない身体では本来の力を解放したであろうデュラハンに勝てる術はない。


 く…くそったれ……ほんとにここで終わるのかよ!


 俺は考えを巡らせるが、もう手がない事を悟りゆっくりと頭を地面に横たわらせ目を閉じた。

 生を諦めたわけじゃない。ただ理不尽に抗う力がなかっただけだ。

 それはいい。俺が未熟だっただけの事。

 とても納得は出来ないが、常に死と隣り合わせに生きてきた。こんな事もあるのだろう。

 だから悔いはない。


 だが…


 ただ一つの思い残しがあるとすれば…


「本気のデュラハンお前と全力で死合いたかったなぁ…」


 俺はそれが最後の呟きかのように言葉を紡いだ。






 デュラハンは今にも死にそうなそれを黙って見つめていた。そこでふと光る何かを見つけた。

 それは損傷してほとんど身体のない腐屍体ゾンビの右手に持たれた、折れてボロボロになった魔剣の剣先だ。

 それが淡い光を放ち、明滅しているのが見て取れた。


 デュラハンは即座にそれが危険な物と判断し破壊しに掛かる。

 本来の動きを取り戻したデュラハンは驚異的な速度で巨大な大剣を振り上げる。


 ……だが一瞬間に合わなかった。






 俺は意識が遠のくのを感じ、デュラハンと斬り合えない無念さを胸に死に絶えようとしていた。

 だがそこで真っ暗な目の前に見覚えのあるものが出ていた。



【進化条件をクリアしました。進化先を選べます。どちらを選びますか?】



剣士屍喰鬼ソードグール ←

デュラハン

血剣屍ブラッディソード喰鬼・グール・亜種・アナザー  (※未条件)




 しばらくぶりの進化の選択肢だ。


 きっと格上のワイトを葬ったことにより進化条件を満たしたのだろう。


 ああ…これでまたデュラハンこいつと戦えそうだと、消えかけていた灯火が再び燃え上がるのを感じた。


 本来の力を取り戻したデュラハンに勝つには、剣士屍喰鬼ソードグールじゃ足りそうにない。

 かといって俺がこいつと同じデュラハンになっても剣技で劣る俺では勝ち目が薄い。

 ならもう一つしかないが、この血剣屍ブラッディソード喰鬼・グール・亜種・アナザーというのは、先ほど俺が自分の血を操っていたから現れたのだろうか? 

 しかし未条件なら選べないが……


 そう思いながら※の部分を見つめていると、新たなメッセージが出現した。



【取得条件を満たしていません。補助具を使いますか?】


「 折れた魔剣 (濃密な魔力が宿っている) が使用可能 」


はい ←

いいえ



 これは……俺は思わずつむっていた眼を見開き、右手に握ってたままの相棒を見る。

 それは今まで見たことのなかった淡い光を放っていた。


 そうか……お前もまだ戦いたがってるんだな…


 そう感じた俺は、まるで脈動しているかの如く明滅を繰り返す魔剣を己の中に取り込むことにした。




 行くぜ相棒  本気のデュラハンをぶちのめそうぜ




 俺は迷わず血剣屍ブラッディソード喰鬼・グール・亜種・アナザーを選んだ。


 すると次の瞬間、視界が真っ白に染まった。


 一瞬の浮遊感の後、身体が瞬く間に作り替えられていくのが分かる。


 手に持った相棒が光の粒子となり俺の身体の中に入ってきて、ゆっくりと混ざり合うような…


 それから意識が覚醒した時には大地に立っていた。


 手に持っていた魔剣は無くなり、代わりに身体の中から膨大な力を感じる。


 この身体の中に確かに相棒が居るのを感じ取れた。それを外に出るように念じると…


 右手の指の先から血が溢れ出て来て、それが浮遊しながら徐々に大剣の姿を形作っていく。

 ゆっくりと形成しているように見えてその速度は一瞬の内に作られていた。

 それは赤黒く染まった剣全体からミスリルの純正のような淡い青い輝きを放っており、真ん中の部分には柄元から剣先に向かって赤い流線状の模様が刻まれていた。


 その大剣でもって襲い掛かって来ていたデュラハンの巨大な大剣を弾き飛ばす。


「ぐぬぅ! よもやこのタイミングで進化とは! おぬしは何者だ!?」


 大きく弾かれたデュラハンが態勢を立て直しながらそう問いかける。


「そういえばお前には名乗ってなかったか」


 俺は進化した身体の感触をじっくりと確かめながら、目の前の強敵に向かって答える。


「俺はスターク。強さを求めるものだ」


 そう己の名を伝えながら、血のように赤黒く染まっている大剣を、デュラハンに向かって真っすぐ突き付ける。



「お前を踏み台にして上に行かせてもらうぞ」

「たわけが! 斬り伏せてやろう!」


 こうしてデュラハンとの決戦の第2ラウンドが開始された。

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