14話 満身創痍
さて、デュラハンがどのくらい強いのか確かめよう。そう思い邪魔なアンデッド共をある程度葬り去り、俺は持っていた魔剣を力強く握り猛然とデュラハン目掛け駆け出した。
デュラハンは頭部を持っていないタイプで、大きめの漆黒の上下の鎧と、その鎧と同じ漆黒の巨大な大剣を構え、迎え撃つようだ。
俺は身体強化をしてスピードでもってデュラハンをかく乱する事にした。
…と、その前に更に沸いて出てくる邪魔なアンデッド共を倒すべく一つ思いついた事を試すことにした。
水中で渦を起こすヴォルテックスをアンデッドの群れに向かって放つ。
すると思った通りにつむじ風が発生し段々と強くなってくる。これは水中だけの魔法じゃないんだなと確認し、どんどん渦が強くなってきた頃にファイアアローを10発放ち、簡易的なファイアストームを再現した。
その炎の大渦に徐々に吸い込まれて炎に巻き上げられていくアンデッド達。
成功した事により、俺は更に同じものを3個の炎の渦を作りだした。
よし、これでワイトを警戒しながらデュラハンに集中できるな。
舞台が整ったと走りながら放っていたヴォルテックスを放置し、降りぬかれたデュラハンの持つ巨大な大剣をすり抜け、鎧の胴体に魔剣での一撃を叩き込む。
ガギッと火花が散り、僅かに傷が付いたのを確認した。だがそれだけだ。
チッ…硬いな。これでもかなりの力を入れて斬り込んだんだけどな。
予想を超える硬さで、まともに戦ってると魔剣が持たない可能性が出てきた。
そこで俺は関節の隙間に狙いを変えた。出来れば肘か手首を落とせればいいんだが、まずは可能性のある所を順に斬っていくか。
そこからは俺とデュラハンの世界だった。
剣と剣を結び、俺は避ける事に集中しカウンター主体で。デュラハンは一撃で葬ろうと重い斬撃を。
それはまるで正反対の剣舞のように感じた。
これは楽しい。命のやり取りをしている筈なの、自然と笑みが出てしまう。
きっとデュラハンもそうだろう。顔がない筈なのに笑っているのが見える。
これが長く続けばと思ってしまった。
だがいつも楽しい時を邪魔して来る奴はいる。
「我も忘れないでくれ。よくも長年アンデッド作り続けたにも拘らず、その大半を蹴散らしたものだ」
そう、こいつの親玉であろうワイトだ。
近距離で楽しんでる所を遠距離でコソコソやる事しか出来ない奴がでしゃばるな!!
俺はデュラハンを一時放置することにしてワイトを倒すことにした。
まずはデュラハンの足止めに俺の魔力がたっぷりと詰まったウォーターボールを身体に纏わせるようにしていくつか放つ。それはまるで魔力が粘着するかのようにデュラハンの足を地面に吸い付けていた。
水の中でウォーターボールを習得した時はかなり気落ちしたが、使い方次第で役に立つものだと考えを改める事にした。
これで一時的にデュラハンを足止めできそうだ。
そうしてワイトに向き合い駆け出す。
相変わらず遠距離から炎系の魔法を放ってくる。
俺は残っているアンデッドに当たるように進路を取り、それらを避けながら自分で作ったアンデッド共を始末させていく。
それになんら思う様子のないワイト。どうせこいつは駒などどうでもいいと思ってるんだろう?
その上から目線が気に食わない。常に下にいた俺だからこそ使い捨ての気持ちがよく分かる。
こんな理不尽に負けないように今世は生きたいんだろ?
「ならこいつもぶっ倒して理不尽に抗って生きようじゃないか!」
まずは遠距離にいたら駄目だ。こいつの餌食になる。なら近接戦で一気に片を付ける。
そう判断し一気に加速して魔剣で斬り付ける。
だが結界のような物に阻まれた。
チッ…お決まりのパターンかよ! なら捻じ伏せる!
何度も何度も斬り付けていると、感触がデュラハンよりも硬くないと感じ、魔剣が負けることはないと判断して、そのまま結界が壊れるまで攻撃を休めず続ける事にした。
「
そう叫びながら魔法を乱発してきた。それは炎だけじゃなく風の刃や氷の塊のような槍を放ってきた。
ワイトだけあって魔力は豊富だろう。なら魔力切れを期待するよりは短期決戦が賢い判断だろう。
そこで拘束から逃れたデュラハンが参戦して来る。
だがもうワイトに近づいた。一番厄介なパターンはデュラハンに張り付かれながら遠距離からワイトの魔法で狙われることだ。
だが今はワイトに張り付いている。 デュラハンは主には攻撃しにくいはず。 ならそれを利用させて貰おう。
なんて思っていると、ワイトがデュラハンに強化の魔法を放つ。
「最初から計画破綻かよ!」
やはり元王族…馬鹿ではなかったらしい。
これは困った。スピードで優っていたのにデュラハンは威力上昇と共にスピードまで手に入れてしまった。
俺はなんとか必死にワイトに張り付きながらデュラハンの攻撃を交わしていく。
そしてその攻撃をワイトへ当たるように誘導する。
ワイトからの魔法はデュラハンへ、デュラハンからの攻撃はワイトへ。
その合間に周りの雑魚アンデッド共を巻き込み塵と化していく。
そんな事を考えながら戦っていると頭が焼き切れそうになってくる。
どんどんと頭痛が増していき、ピークを迎えようとした時に、ふいに痛みが治まった。
ようやく
よし! これで行ける!!
俺はワイトに猛然と斬り掛かった。
「小癪な死にぞこないめ! さっさと死ね!」
「
死んでるのに死ねとは可笑しなことを言うなどと思いながら、少し余裕が出てきたからか、合間にウォーターボールでさっきのようにデュラハンを足止めする事にした。
それは成功して、ワイトとの一騎打ちに持ち込み一気に片を付けようと身体強化を引き上げる。
「チッ、使えぬアンデッドなどいらぬわ!」
そういうと周りにいた邪魔なアンデッド共が一斉に崩れ落ちた後に腐りきって、肉が骨になり骨が灰に変わっていった。
なんだ? と思ってると、ワイトの魔力が高まってきた。
俺は警戒心を上げながら斬り付けようと接近するが、そこでワイトが自身を軸に盛大な爆発を起こす。
まさかの自爆攻撃に反応できずに俺は吹き飛ばされた。
「よもや自爆を使わざるを得ないとはな。だが離れたぞ、覚悟しろ
俺は墓に何度もぶつかり破壊しながら
その身体は腕は千切れ、青く美しかった鎧も上下が砕け散り殆ど無くなっており、胴体にもかなり損傷を負ってしまった。
足は辛うじて無事だが、動きに支障が出るだろう程の傷を負う。
「我に楯突くからそうなる。さあもう逝く時間だ」
そういうワイトは傷一つない身体でそのように宣言して来る。おそらく自身の結界で防いだのだろう。何が自爆だ。
だが……
「……誰がなんだって?」
俺はゆっくり立ち上がり身体を見る。すると驚異的な速度で身体が癒されていく。
「なんだそれは!? 回復薬か何かか? いや、アンデッドに回復薬が効く筈が…」
俺の再生に狼狽えた声を上げるワイト。自分だけが特別じゃないんだぜ?
「そうか…貴様ユニーク個体だな? 進化の過程で身に付けたのか!」
ご名答。ユニークだか何だか知らないが、種族に亜種が付いているし前世の記憶がある事からも特別なのかもな。
なら人間に…なんて思うが、それはもう過ぎた事。
今はこいつを殺すことに全神経を傾けよう。
俺は今までの比じゃない速度でワイトに向かっていく。
ワイトはワイトで遠距離からいくつも魔法をぶつけてくるが当たらなければどうという事はない。
そして何度も何度も執拗に結界に魔剣を斬り付けていると、結界にヒビが…と思いきや
バキンッと嫌な音がして、剣先が飛んで行った。
「チッここでかよ!」
「わはははは! 我の結界をそのようなチャチな剣で破ろうなど片腹痛いわ!」
俺の魔剣にヒビを入れられといて勝ち誇るなと思いながら、どうするか必死に考える。
その一瞬で数十発の魔法を水や炎や風などを織り交ぜて俺に放ってきた。
「チッ! さすがはリッチに近いと言うだけはある!」
俺は一線の見切りでもって必死に避けるが、避ける能力が足りなければいくら見切れていても避ける事は叶わない。
いくつかの着弾を受けながら俺は吹き飛ばされた。
「ほらほら! まだまだ続くぞ
吹き飛ばされる身体を必死に立て直し、迫りくる魔法の群れを見た。
そこで思考が切り替わる。
周り全てが遅くなり、止まった時間に自分だけが動いているかのように感じる。
ギリギリでまた瞬間加速が発動した。
その状態で自身の身体の状態を確認する。
またもや腕が取れており手首がなくそこから上は凍っていた。
一体どんな状態なのかと思いながら左腕で良かったと感じる。
足は右足の太ももが抉れ、胴体も右半分が焦げている。
だが肉が損傷しただけで骨は無事だ。
ならばスケルトンだった経験がある俺には大丈夫と言い聞かせ、身体強化を骨に集中し、この魔法の群れの隙間を地面に這って縫うように回避していく。
着弾した所が爆発し砂埃を上げていく。
それを背後に感じながらワイトに隠れるように擦り抜けていく。
ワイトのあの顔、骸骨のくせに悦に浸ってやがる。
それを見て俺は胸の内から燃え滾る怒りが沸いた。
それを力に変え身体を急速に再生しながら折れた剣先を拾い上げ、ワイトの背後から握りしめた剣に魔力をたっぷりと注いで斬り付けた。
元々ヒビが入っていた場所に叩きつけるとパリンッという音の後で、光の粒子が弾け飛んだ。
「なっ!? なんだと!! 一体どこから!?」
驚くワイトに俺は手の肉が深々と刺さるのも気にせず、剣をさらに握りしめワイトに休む暇を与えない猛攻撃を仕掛ける。
「死にぞこないが我を誰と知っての狼藉か!」
どこぞの江戸時代かというようなセリフを吐きながら両手に出した盾のような結界で俺の
俺は握り絞めた折れた剥き見出しの剣先で指が千切れ飛ぶかと思う程握りしめながらワイトに猛攻を仕掛ける。
たまに赤い液体が俺の目に映るが、それが何か分からずに斬り掛かっていた。
それが己から流れ出る血液だと気づいたのは少しの間があった。
それから上下左右に斬り込んで行くがデュラハンの邪魔があったりと、ワイトに決定打を出せずにいる。
そして身体を必死に動かしているからか、他の部位は治っても手から延々と血液が流れ出ていた。
そうして徐々に身体が動かなくなっていったのを感じ焦り始めた。
だがここで勝機を逃せば次はないと、加速する思考で握っていた剣を離しファイアナイフに切り替えた。
両手に結界で魔法の出せない今のワイトなら、これでも通じるだろう。
そう思い俺はそれに望みを掛けながら再び仕掛けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます