13話 俺の名は

 水中エリアの階段は水の中にあった。そこを普通に歩いて下って行ったが、階段に入った瞬間に空気があり、水がそこから下に来ることはなかった。


 ほんとダンジョンというのは不思議なところだな。もう何でもありだ。

 まぁ魔法袋を開けても水が入らないのと同じかもしれないが、よく分からん原理だよな。


 それからもいくつかの階層を下り、行きついた場所は不気味な薄暗い場所だった。


「なんか懐かしい感じすらする場所だな」


 そこはホラー感、漂う墓地エリアだ。


 ダンジョンの上の洞窟はまさにこういう感じだったな。墓はないが俺のお仲間ばかりの場所だった。

 そこの例外はスライムくらいだっただろうか。あと蟻か。

 おそらく蟻があの場所を掘り当てて外の出口を作ったのだろうと思われる。

 まぁあの5人組の冒険者共なら分かるかもしれないが、俺には予想で精いっぱいだ。


 しかし少し前までいたはずなのに懐かしさすら感じるとは、ダンジョンというものは本当に時間間隔が分からなくなるな。


 俺はこの世界に生まれてからどのくらい時間が経ったのだろうか? ふとそう思うがまだ2・3か月程度かもしれない。

 だがずいぶんと長い事時間が経っている気がする。それほど毎日必死に生きている証かもしれない。


 そうしてこの墓地エリアに入り歩いていると、異臭が濃くなってきた。

 そして現れたのは腐った死体であるゾンビだった。


「おいおい…俺こんな臭いしてるのか…?」


 今までは嗅覚がなく、肉体を持っても自分の匂いは分からなかった。

 だがこの場所に来て鼻にツンとくるような臭いが充満している。

 何か腐ったような正直臭い匂いだ。


 俺も臭いしてそうだな……外に出る時は臭いに気を付けよう……

 そう心に決めて、臭い消し効果のある草や薬草を取ろうと決めた。


「まぁ今はお仲間の処理だよな」


 ウ~ウ~と唸っている腐屍体ゾンビ共を始末することにする。


 正直洞窟にいた奴らと遜色ないほど弱い奴らだ。

 ただ臭いがキツいだけ。 だが俺のお仲間なのに俺に危害を加えるってどういう事だろう?


 上の階では素通り出来たりした。それで半々くらいで襲うもの襲わないものと分かれていた。

 その違いはよく分かっていない。


 だがここでは全ての奴らが襲ってくる。

 たまに肌が綺麗な人間かと思うような奴が襲ってくるが、それはどうやら屍喰鬼グールのようだ。


 腐屍体ゾンビ屍喰鬼グールの違いは見た目と能力の違い、あとは知性の違いがある。

 見た目はグールはほぼ腐っている部分が見当たらない。顔が青白いくらいで本当の人間に見えなくもない。これなら顔に泥を薄く塗って化粧でもすればバレなそうだ。

 臭いは……この場所はよく分からない。だが腐ってる部分が見えないところから、そんなに臭くはないだろうと思う。

 なら次は屍喰鬼グールになれれば外に出れるかもしれない。

 ただまぁ日の光が大丈夫ならだが…


 まぁそれは進化してから考えよう。違う進化先もあるかもしれないしな。


 そうこうしている内に墓地の奥まで来ていた。

 ここは一層、瘴気というか魔素とは少し違うような物が漂っていた。


 腐屍体ゾンビ共はじっと佇んでいて、虚ろな目をしたまま何かを待っているような状態だ。

 ここには屍喰鬼グールもいるが、そいつらも襲ってくることはない。


 少し不思議に思ってると途端に死の臭いが漂ってきた。


 俺は一気に警戒感を引き上げた。

 これは……


「おやおや…こんな所に意志を持った腐屍体ゾンビが? 作った覚えがないが」


 こいつはそんじょそこらの魔物じゃない。そんな生易しい存在じゃない…


「声も出せんか? これならどうだ?」


 そう言うなり濃かった瘴気のような霧が一気に晴れていき、目の前の化け物の気も弱まった。

 圧迫感がなくなり幾分楽になったが、圧迫されて声が出なかった訳じゃない。ただ単にどうやって勝つかに頭を巡らせていただけだ。


「お前はどうやってここに来た? この場所で生まれたのか?」

「俺の前に自己紹介したらどうなんだ? 骸骨の化け物さんよ」

「これはこれは、失礼をした。我はワイトだ。元は王族だったが殺された時に名は捨てた」



 ワイトと名乗るこいつは王族なのか。何処のだ?それとどのくらい前になる?

 もし殺されてから時間があまり経っていないなら、このダンジョンに外から人間がやってくる可能性が出てきた。


「自己紹介ありがとう。俺はこのダンジョンの上にある洞窟で生まれたスケルトンだったが進化してこの姿になった。ところであんたは殺されてどのくらい経つんだ?」

「ほぅ…スケルトンが肉体を得るまで進化したか。我は進化させたことはまだないな。それに我が殺されてからの時間は分からん。何せ死んでから意識を取り戻すまでの時間が分からんからな。ただ…」


 ワイトが言うには意識を取り戻してからはもう十数年は経っているという。それならばこの場所にワイトを狙ってくる奴はそんなにいなそうだ。

 そして意識を取り戻して今の身体になってからは、死体を扱う能力が備わっていることに気付き、ここで腐屍体ゾンビなどを作って復讐の機会を伺っていたらしい。


 まぁ跡目争いか何かで殺されたのかもしれないな。


「なるほど。ならあんたは日の光に当たっても大丈夫なのか?」

「アンデッドで日の光が大丈夫な奴はいない。例外以外はな」

「例外だと? それはなんだ?」

「それは進化の先が日の光に強いやつになる事だ。何かの種族の亜種になれば日の光も克服できる奴も出よう」


 それを聞いて少し安堵した。俺は外に出たい。ならば日の光に耐性がある奴に進化しなければいけないが、確証がなかった。

 だがその可能性が出てきただけで少し希望が持てた。


「ところでなんで言葉が通じるんだ?」

「なんだ? お前はユーガレット語を話せないのか?」


 ユーガレット? なんだそれはと思っていると…


「この大陸の言葉だ。まあ分からずとも問題はない。我は思念で言葉を届けているから言葉くらい分かろうものだ」

「へぇ、思念だと言葉が通じるのか。いい事を聞いた」


 今のこの感じを覚えておけば俺でも外の奴らを話せそうだと一つの懸念が解消された。


「ところでスケルトンよ。お前はどうやってここまで来たのだ?」

「もうスケルトンじゃないがな」

「では名は何と言う?」

「名前か…」


 前世の名前は捨てた。 なら今の俺の名前はない。

 さて……何て名前で生きようか…。


 少し考えたが俺の目的は生きる事。それは生きるのに相応しい力を手にする事。

 その為には進化が必要だ。

 ならば…


「俺の名前はスターク。それが今の俺の名だ」


 語源はSterke《シュテルケ》、ドイツの言葉で強さという意味を持つ。それをローマ字読みした物を名前にした。

 強さを欲して生きている今の俺にはピッタリの名前だろう。

 俺はこれから「スターク」と言う名で生きていく。



「スタークか。ならばスタークよ。俺の配下にならんか?知恵のあるアンデッドは貴重だ」


 そんな提案をしてくる。

 正直こいつを敵に回すなら受け入れた方がいいだろう。

 だが俺はもう理不尽に縛られて生きるのには飽き飽きした。

 ならば道は一つ。


「悪いが受け入れられないな。俺は自由に生きたいんだ。それに外に出るのが目的だからな」


 こいつの元にいればずっとこの臭く薄暗い場所に閉じ込められたままだろう。それは受け入れがたいものだ。


「そうか。久々にまともに話せたというが惜しいな。ならば死ね」


 そういうや否や、魔法を放ってきた。

 それは膨大な魔力が乗った光の玉だ。

 俺は急いでその場を離れ飛び退いた。


 俺がいた場所は真っ赤な炎に包まれていた。

 あれは炎の玉だったか。俺のファイアアローなんかとは次元が違うな。


「ほう、今のを避けたか。我はワイトだがもうすぐリッチになれるほど力が高まっている。お前もそれなりの強さがありそうだ。ならばその命を我の糧にしてくれよう!」


 その言葉の次の瞬間には、辺りが膨大な瘴気に包まれた。

 これは正直俺にはなんら効果はない。むしろ心地が良いくらいだ。


「同じアンデッド。やはり瘴気は効果がないか。ならばこれはどうだ」


 今度は周りに無数にいたアンデッド共をけし掛けてきた。

 だがその程度、物の数ではない。俺は冷静に大量に迫ってくるアンデッドを捌いていく。

 それと共にこの広い場所から移動していく。

 隠れたり魔法を防げる場所まで移動しようとアンデッド共を引き連れながら移動する。


「大したものだ。この程度のアンデッドは意味がないか。これではむざむざ配下を減らす一方だな。ならばこれはどうだ?」


 そう聞こえたと思ったら、アンデッド共が後ろの方から俺に向かって跳ね上がっていき、一体の頭のない鎧が迫ってきた。


 デュラハン


 鑑定結果がそう答えを出した。

 これは中々の強敵が出てきたな。そう思い後ろに下がり多数対1人に有利な場所に移動しながら対応していく。雑魚共を斬り殺しながらデュラハンの攻撃を避けていくが執拗にこちらの隙を狙ってくる。

 こいつは知能が高いのだろう。それも戦う知能が。

 だからか剣技が俺と同等かそれ以上あるだろう。


 思わず笑みがこぼれる。


 俺は剣が強い奴と戦いたかった!どいつもこいつも剣を持ってる奴は弱すぎた。

 自己流だけでは成長は緩やかだ。だからどこかで剣を持つ強い奴と戦いたかった。

 だからこいつの剣技を吸収したら俺はもう一段上に行けるのではと感じ、歓喜に震えた。


 さあ、俺の糧になってくれ!

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