39話 植物エリア

 あれから俺達はダンジョンの攻略を進めていた。


「いいのう、いいのう。儂もおぬし達の中に入れて欲しいのう」


 あのヴァンパイア事件以来、ガラハドはずっとこんな調子だ。鬱陶しいったらありゃしない。

 あれから5日は経っており今は16階層を探索していた。

 なのにあれ以来、未だに「いいのういいのう」と言っているガラハドをどうしたものかと気を揉ませていた。


「いい加減鬱陶しいわ。なんとかならんかそれ?」

「じゃって儂も家族が欲しいんじゃもん。こんな身体じゃ誰もなってくれそうな奴がおらんでのう」

「はぁ……まったく。リリが良いって言ってるんだからそれでいいだろ」

「なんというかリリなら誰とでも良いと言いそうでのう。おぬしも認めんと家族とは言わん」

「……はぁ」


 リリは「いいよ!」と軽々しく言っているが、俺としてはこんな戦闘狂で命のやり取り、更に言うなら一度は命を奪った相手と家族になると言うのは勘弁願いたいものだ。

 まぁもう少ししたら落ち着くだろうからそれまでの辛抱だな。


 あのヴァンパイアのせいで余計な苦労をしたが、結果オーライと言う事で良しとするか。


「ところでこのエリアはお前と一緒で鬱陶しいな」

「わはははは! 儂にはなんも効果はないぞい」

「わたしもおとうさんの結界でだいじょうぶ!」


 そんな事を言う二人に俺は若干疲れた顔をする。


 ヴァンパイアの階層から進んで16階層から下は植物エリアだった。

 その植物エリアの一定の場所では、幻覚の花粉だかなんだかを飛ばしまくっており、それがずっと飛んでいるものだから、常にリリに結界を張っていないと駄目なのだ。

 俺やガラハドには効かないがリリには効果が出てしまう。


 (最初リリが「妖精さんだー」といってフラフラして人喰い植物に食われそうになった時は焦ったな)


 なので常に俺がリリに結界を張っており、その分ガラハドとリリには植物の魔物を倒して貰う事にしている。

 たまに俺の魔力が少なくなってくるとリリの護衛をガラハドに任せ、血銀十剣ミスリルブラッディソードでそこら中の植物を斬りまくり魔力を吸収して、また二人に任せると言った具合で進んでいく。


 ただ正直このエリアは、幻惑の花粉以外はそこまで脅威ではなかった。

 蔓や種を飛ばすだけのイビルウィード。

 そのイビルウィードに口を付けて牙を付けたようなキラープラント。

 木に擬態して隠れて枝や根っこを突き刺して来るトレント。

 そしてそれをデカくしたビッグトレント。

 さらには歩くキノコのマルマッシュ。これは食ったら美味かった。


 それらはガラハドが先頭に立ちぶった切っていったり、リリに指示して不規則な蔓を受ける練習をしたりとピクニックのような感じで歩いていた。


 だが人型の植物が出てきてからは話が違って来た。


 俺が地面に何か変なものが埋まっていると思い、不用意に引き抜いたらそれはマンドレイクで、引き抜いた瞬間から急に叫び声があがり、一瞬クラッと立ち眩みのような物を感じた。


 それからしばらくは覚えていない。


 意識がハッキリした時にガラハドから聞いたが、知識のあったガラハドはマンドレイクの叫び声が聞こえた瞬間に魔力を身に纏って防御して、瞬時にマンドレイクを斬り伏せたとか。


 それからは俺が虚ろな表情でいるのが治るまで周囲を守ってくれていたらしい。

 時間は5分かそこらだったようだ。


「そうだったのか……あれはなんなんだ?」

「奴はマンドレイクといって引き抜かれた瞬間に叫び声を出し、その周囲の生命力を奪う厄介な魔物じゃ」

「あ~、なんか聞いたことあるな。ならリリは大丈夫だったのか?」

「うむ。マンドレイクは生命力を奪うが魔力を纏うか結界の中に居れば、魔力が身代わりになってくれるからの。リリは無事じゃった」

「そっか……悪かったな」


 俺は素直に詫びを入れてガラハドとリリに謝る。

 それを二人は受け入れてくれて次に向かおうとしたが……


「なぁ……あれはなんだ?」

「む? ……なんじゃと?」

「……え?」


 俺の指さした方向を二人も見ると、そこには地面から30cm程だろうか。何やら根っこが歩いてくるのが見てとれた。


 それは俺が引き抜いたマンドレイクにそっくりな形をしていた。


「これは……厄介じゃな」

「……あれはなんなんだ?」

「あれはウォーキングマンドレイクじゃ」

「え……? ウォーキング?」

「つまり歩くマンドレイクじゃな。あやつはいつの間にか近くに寄って来てから、自分の意思で生命力を奪う叫び声を上げるんじゃ」

「じゃあ何か? いつどこでも叫び声を上げられるって事か?」

「そうじゃ……あんなものがそこらにあるとしたら、このエリアはとんでもない事になりそうじゃのう……」


 ガラハドの言う通りそこらにこいつが大量にいたら、歩く爆撃機のような物だ。

 そこら中で生命力を奪われていたら早々に力尽きてしまうだろう。

 そう思った俺達は急いでこのエリアを通り抜ける事にした。

 それからしばらくして……


「常にみんなに結界を張ってないと駄目だな。こりゃ魔力が尽きて死ぬか次の階段を見つけるかの戦いだな」

「そうじゃのう。魔力で判別しようとしてもそこら中に魔力を持った植物がおるから、どれか分からんしのう」

「リリも魔力いっぱいあって分かんない」


 ガラハドやリリの言う通りに地面付近の魔力を感知しようとしても、そこら中に魔力があって、どれがウォーキングマンドレイクか分からない。

 多少なりとも動いていればいいのだが、止まっていると全く分からず、近づいて気付いた時には叫び声を出されるという事が何度か起きていた。

 なので常に結界を張っているが、1回の叫び声で結界をダメにされるので、その都度、強度の高い結界を張っているが、そんな事を続けているとこちらの魔力が先に尽きる。


 (そうなると死を意味するからな)


 このエリアをさっさと下りたいが、階段が草に隠れて見つからない。

 そしてその草をかき分けていると、ウォーキングマンドレイクが居て叫ばれるといった事を繰り返していた。


 それから魔力が尽きそうなときは血銀十剣ミスリルブラッディソードでそこら中を斬りまくってなんとか魔力を回復しながら進んでいく。

 たまに草刈りのように地面スレスレから草を切り倒して見通しを良くするが、それでマンドレイクも斬った時は叫び声があがり俺の血剣ブラッドソードがダメにされる。

 そんな事を繰り返していると……


「お? ……これじゃないか?」

「む? どれじゃ?」

「どれどれ~?」


 地面に何やら石の階段があるのを発見した。

 しかしそれは半分以上が草で埋まっていたので、不安だったがそれらをどけてみると、下へ向かう階段だと判明した。


「ようやくだな」

「そうじゃのう」

「下はあの根っこさんがいないといいね」

「だなぁ……」


 うんざりしながら返事をする俺達一行は、下の階層へ向かう為に階段を下りていった。


 しかしその光景は上の階と変わらぬ景色で、3人共に真顔になってしまったのは仕方のない事だと思う。

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