40話 待ちたるもの

 危険な植物エリアを下りたらまた同じような植物エリアの光景に、俺達は固まってしまったが、ここは隈なく調べるのは危険と判断し、さっさと下へ行く事を優先した。


 それから結界を維持しながら下への階段を探しているうちに、いくつかの宝箱と共にウォーキングマンドレイクにも出会い、命からがらというか、魔力からがら下の階層へ行く事が出来た。

 現在は18階層にまで来ている。


「はぁ……今度は大丈夫そうだな」

「なんとかなったね!」

「わはははは! 儂らは楽だったぞい」


 そう言って笑うガラハドに腹が立っても仕方がないだろう。

 主に疲れたのは俺だけだ。結界を常に張って魔力と戦っていたが、リリとガラハドは歩いているだけだったからな。

 リリはいいとしてガラハドにまで結界を張るのはどうかと思ったが、結界を張れないとマンドレイクの叫びで魔力を一気に持ってかれてしまうらしく、仕方なく張ってやった。

 リリも自分で結界を張ると言っていたのだが、もしもの時に自分で張らせるために魔力は温存させておいた。

 なので一人で3人分を張らなければ行けないし、マンドレイクの叫びの範囲から離れようとすると今度は周りの植物が蔓や種でちょっかい掛けてくるので、ストレスも半端なかった。



「ここは前のエリアみたいに草や植物が生い茂ってないから大丈夫そうだな」

「だのう。ただ植物系は強さというより厄介さが多いから油断ならんぞい」

「だねー。私も魔法でがんばる!」


 一度この上の階層でファイアストームをぶっ放したが、魔力を持っている植物は燃えづらくあまりにも効果が薄かったので諦めた。

 あの飛竜部隊の一人が放った炎の大渦ならば、そこら中を焼き尽くすのも容易いかもしれないが、俺には撃てないし魔力が勿体なさすぎる。


 現状魔力は魔物から吸い取るくらいしか回復手段が無いのが痛い。

 魔力完全回復ポーションは出来る限り使いたくないからな。

 エリクサーも魔力完全回復ポーションもあれ以来一個も手に入ってない所を見ると、やはりとても貴重なのだろう。


 (自作でも出来りゃ楽なんだが、俺には無理だしなぁ……)


 どこかで信頼の置ける薬師か錬金術師でも居ればいいんだがな。

 まぁ居たとしてもエリクサー程の物が作れなければ意味が無いから、多分そういう奴は見つからないだろうと都合の良い考えは辞めにした。


「さて、このエリアが大丈夫そうなら隈なく探して宝箱を探そうか」

「さんせ~い!」

「うむ。上の階では詰まらんかったでな。少しは面白い事でも起きんかのう」


 ガラハドの言う面白いというのは戦闘の事だろう。俺も面倒じゃない戦闘を希望したい。


 それからはゆっくりと慎重に魔力を探知しながら、この壮大な広い森のようなエリアを進んで行く。


「ここはまだ森に入ってないが、あっちにある森はガムルの大森林を思わせるようなデカさがあるな」

「うむ。儂もあの森は1度だけ見た事があるが、途轍もなく広大だったのう」

「うん。ほんと大きい森だよね。目の前の森も大きそう!」


 遠くに見える森は見渡す限りが木で埋め尽くされており、素材集めには事欠かなそうなくらいの広大さを誇っている。

 後ろには荒野が広がっているから、そっちに行こうとしたら透明な壁に阻まれ行けなかった。

 なのでこちらは迷宮の壁だろうとガラハドが言ったので、反対に見える巨大な森へ向かう事にした。


 それからは荒野を歩いているが、たまにだが魔物が襲ってくる。

 それは植物ではなくウルフ系が襲い掛かって来ていた。


「こいつらはなんて名前なんじゃ?」

「ああ、こいつらはブラッディウルフみたいだな。向こうに見えるのがマジカルウルフだそうだ」

「なるほどのう。ブラッディウルフは群れで行動するが、こんな数じゃない筈じゃ。森に入ったら大量に居りそうだのう」

「そうなのか。なら森に入ってからが危険度が上がりそうだな」

「ねぇ、おとうさん。マジカルウルフって魔法使うの?」

「そうじゃないか?」

「確か大した魔法じゃないが、魔法を絡めての連携攻撃が上手かったはずじゃ」

「そうなんだ! 負けない!」


 魔法を使うウルフは初めてだから、どう戦うのか見てみたいもんだな。

 リリが対抗心を燃やしているから、もし結界が大したダメージを受けなかったら任せてみるか。

 そう思いながらも次々と襲ってくるブラッディウルフをガラハドの大剣と俺の血剣ブラッドソード、そしてリリのショートソードで順調に屠っていった。


 それから広大な範囲を持つ森に到着すると、そこは静けさに包まれた場所だった。


「なんか静かすぎやしないか?」

「うむ……なんじゃろうのう?」

「ガムルの大森林と全然違うね」


 リリの言う通りガムルの大森林とは真逆で生き物の音も、木々の葉の擦れる音もしない。

 これほどまでに静かなのは怪しいと眼に送る魔力の量を増やして見てみると……


「おいおい……こりゃ幻影か?」

「む? 幻影じゃと?」

「え? もうかかっちゃってたの?」

「掛かってたというか……」


 俺が魔力を眼に集中した所、目の前の樹木は木なんかじゃなく違う植物だった。


 俺はおもむろに血剣ブラッドソードで近くの木をぶった切ってみる。


 ギュゥイイイイイ!!


 およそ木とは思えない叫び声で倒れて行く植物。

 その姿は……


「おお、なんと……アルラウネじゃと?」

「女の人?」


 そう、木に擬態というか幻影で木に化けていたアルラウネだった。

 それがそこら中からこちらを見ており、凄まじい数のアルラウネが集合していたのだ。


「もしやこの木が全部アルラウネとでもいうのか……?」

「おい、ガラハド。アルラウネってどんなことをやって来るんだ?」

「………」


 リリは口を開けてポカンとしており、同じくポカンとしているガラハドに俺は声を掛けながら強めた結界を自分含めて3人に掛けて行く。


「確かアルラウネは誘惑の香りを放つようじゃ。それと蔓と魔法も使ってきおる」

「そうか。誘惑は結界で防げるか?」

「おそらく……試してみた方がいいかもしれんのう」

「そうだな。1体じゃ掛からなくても、この数じゃさすがにマズイ」


 そういうと俺達はゆっくりとこの場所を離れて行く。

 だがそれを逃さない様にアルラウネ達の蔓や魔法が俺達に襲い掛かって来る。


「走れ!」


 俺のその言葉に一斉に後ろに走り出す3人。

 それでも執拗に蔓と種、そして魔法を見渡す限り居るアルラウネ達から放たれてくる。

 強めの結界を張っといて良かったと思いながらも俺は後れを取りそうなリリを抱きかかえ、身体強化を引き上げてその場から瞬く間に走り去っていく。

 ガラハドはその巨体に見合わぬ素早さを持っているらしく、俺に着いて来ている。


「そんな図体で早いじゃないか」

「ぬはははは! デュラハンはパワーだけじゃないんじゃよ」

「脚力もあるって事か」


 ならば遠慮はいらないと更に速度を上げて行く。

 そうしてアルラウネの攻撃範囲から逃れた俺達は、一息つく為にこのエリアの安全地帯を探した。


「ふぅ……あの数のアルラウネはヤバいだろ」

「うむ。あれでは流石の儂でも数に押し切られて蔓に巻き取られそうじゃ」

「あの木、全部があの女の植物なの?」

「ああ、全部がそうだった」


 見渡す限り広大な木々が全部アルラウネだとは思わず、あのまま進んで行ったら確実に死んでいただろう。

 数にしてみれば、見えた範囲だけでも数万は居そうだった。


「……ああ、だからブラッディウルフ共がこんな荒野で俺達を襲って来ていたのか」

「そうじゃのう。あの森というかアルラウネの中にいたんじゃ、瞬く間に食い尽くされそうじゃ」

「狼さんかわいそう……」


 本来なら森で戦った方が有利であろうブラッディウルフの群れが、こんな荒野で戦いを強いられるというのは、あそこに一歩も入れずにいた証左であろうな。

 ならばあの森以外にも進める場所がありそうだと、違う場所を探す事にしてみた。


「とりあえず安全地帯と、あの場所を避けてアルラウネの大群の向こう側に行く道がないか探そうか」

「うむ。それが賢明じゃな」

「は~い!」


 さすがにあの数は危険だと判断して、まずはあのアルラウネの集団地帯を迂回するようにして進んで行く事にした。

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