37話 下層へ
俺達は早速ダンジョンの下層へと足を向けていた。
ワイトのいた場所が10階層。
今はその下の11階層にやってきていた。
「確かにガラハドが言った通りに霊体系の魔物が多いな」
「そうじゃのう。奇策が得意な連中じゃが防御が紙のようでの。軽い素振りで消えゆくから詰まらんのじゃよ」
「確かにな。まぁ経験値が上手そうだしここはリリに倒して貰いながら行くか」
「うぅ……こわいよぅ、おとうさん……」
「大丈夫だ。お前には結界を張ってある。万が一にも危険はない」
「うぅ……」
とりあえずリリに倒してもらうのは確定として、どうやって倒そうか考えていたら、こいつらレイスやファントム、スペクターといった霊体系の魔物は魔法は効くがそこそこ耐性が強く、特に無属性の物理攻撃は無効化する。
しかし属性の乗った斬撃にはとても弱い。
なのでガラハドの闇属性が乗った大剣の前には紙の様に消えていく。
そこでガラハドにリリのショートソードに闇魔法を付与出来ないか試して貰ったのだが上手くいかなかった。
「うむぅ……昔から放出系の魔力操作は苦手じゃ」
そんな事を言いギブアップ宣言してきた。
もう少し粘れよと思ったが仕方ない。
「ならどうするか……俺の
そう思い俺の
「ぬお! それは儂を葬った奴じゃな!?」
身に覚えのあるガラハドがその属性の纏った
そりゃ自分が殺された物がそこに出てきたらそうなるわな。
「ああ、これをリリに使って貰えばいいだろう」
「おとうさんの剣使っていいの!?」
「なんだ? そんなに嬉しいか?」
「うん! だってそれ使ってるおとうさんカッコよかったもん!」
そう言ってとても嬉しそうにしているリリを見て、ありがとうと言い頭を撫でてやる。
確かに血の様に赤黒い剣なのでカッコいいと思うし、さらに炎を纏わせたらなおの事カッコよく見える。
それをリリに渡してやる。
正直俺以外使えるか心配だったが問題なかったようだ。リリ用に重さを抑えたショートソード仕様にしたのが良かったのか、今ではビュンビュンと嬉しそうに振っている。
「危ないから気を付けろよ」
「うん! だいじょうぶ!」
そういうリリだが、そういう奴が一番危ないんだよなと思いながら見守った。
それからはガラハドを先頭に攻撃して来る霊体の魔物を、魔力を纏ったガラハドの腕が掴んで抑え込み、そこを俺の
そんな事を繰り返していった。
(こりゃ簡単なパワーレベリング状態だな)
そんな事を思いながら11階層を隈なく探索し、いくつかの宝箱を発見して開けていく。
昔、ダンジョンを踏破していたからと腕に自信があるガラハドが躊躇なく開けていくのを見て、さすがだなと思っていたら、それは見事に裏切られた。
どうやら適当に開けていただけのようで今回は外れだったようだ。
「ぬはははは! 油断しておったわ!」
それは開けた瞬間に宝箱がガラハドの腕に鋭い牙で食いついてきた。
「ほ~、ミミックってやつか?」
「うむ。こやつを見抜くのは中々に難しくてな」
「そりゃそんなにガッツリ齧られてたらな」
俺は若干呆れながらそれを見ているが、その表情には気付いていない。
「うわ~……痛くないのガラハドおじちゃん?」
「わはははは! こんなの屁でもないわ!」
そう言って噛まれたままのミミックを上に持ち上げ、自由な左腕でぶん殴った。
それは強烈な一撃であり、殴られたミミックが高々と宙を舞っていった。
「うわ~……」
「わー! きれー!」
俺とリリの感想が違うがそれも仕方ない。
俺はミミックの不幸さを。
リリは殴られてばら撒かれた金貨や宝石などの綺麗さを見ていた。
まぁ確かにそれは黄金の雨みたいに見えなくもないな。
「しかしまぁよくもこんなに貯め込んでたもんだ」
「ミミックってお金持ちなんだね!」
ミミックが金持ちかは知らないが、ダンジョンというのはなぜ宝箱が出るのだろうか?
そんな事を思っていた。
とりあえず落ちて来た宝を拾い集めていたら、予想だが全部で1億以上はあろうかという程の宝が集まった。
「一気にお金持ちになっちゃった!」
「わはははは! 儂には金なんぞ要らんから全部リリにやるぞい」
「まぁデュラハンにはいらんわな」
そんな事を言いながら全部魔法袋に入れておく。
後でちゃんとリリにもお金を渡さないとな。
ただ、多く持ち歩くのは危険なので、ある程度だけ渡そうと思う。
あとは冒険者ギルドに登録出来ないならどこかで金庫みたいなのを借りようと考えた。
その後で気になったのでガラハドになぜダンジョンに宝箱が出るのか聞いてみると、どうやらダンジョンは外から生物を呼び寄せてその魔力を吸うのが一番効率よくダンジョンを成長させられるとの事で、動物や魔物、それと人間などを呼ぶ為の一つの手段として宝箱を置いているとか。
魔物などは興味がないようだが、人間は宝箱があれば開ける奴が多い。
それに魔力も、弱い魔物が来るよりは人間の方が多く数も多いので、人間がよく来るようにしているとか。
「なるほどねぇ。ダンジョンっつーのは意思があるのかね?」
「あるだろうのう。ダンジョンマスターなんているようだからな」
「へぇ~、ならこのダンジョンもいるのか? 話せたら話してみたいもんだな」
「話せる奴ならな。過去にダンジョンマスターに会ったが、魔物だったからか話なんて出来なかったのう」
へぇ~、魔物もダンジョンマスターになるのか。
てっきり人型の奴らがなると思ってたわ。
「それにダンジョンマスターはなぜか皆、人間に敵意を持っとるようでな。話し合いなんぞ出来そうにないぞ」
「それならそれでいい。ただ俺達なら意外と大丈夫かもな」
俺とガラハドは魔物だからもしかしたら話が通じるかもしれない。
そうなったら色々聞いてみるのもいいかもな、なんて思いながらリリのパワーレベリングを続けていく。
そうして11階層を攻略し終えた俺達は階段を見つけていたので、12階層へ足を踏み入れた。
「なんじゃ、また同じような所じゃな」
「ああ、上もそうだったが5層づつフロアボスが居たから、この下もそうなんじゃないか?」
「ならまたリリのレベルを上げながら進むかのう」
「うん! わたしがんばるよ!」
11階層でだいぶ慣れたのか、霊体を怖がることが無くなった。
それからは15階層までリリのパワーレベリングをこなしていって、ついにはフロアボスに辿り着く。
「おお、こいつはヴァンパイアじゃな。まぁ
「へぇ~、こいつがヴァンパイアか。初めて見たな」
「噛まれたら仲間にされちゃうあれ?」
「そうじゃ。だから噛まれんように儂が戦おう」
そう言ってガラハドが前に出て行く。
「リリの子守をしてて我慢できなくなっただけだろ?」
「わはははは! そういうな!」
「子守じゃないもん!」
俺の言葉が悪かったのかリリを怒らせてしまった。
まぁ間違ってはいないが謝って頭を撫でておく。
それからはガラハドに任せる事にして、俺とリリはその戦いを見守る事にした。
念のためにリリには結界を張っておいた。
久々にガラハドが戦えると張り切っており、見た目は裸に羽の生えた人間といったような姿のヴァンパイアに斬り掛かっていく。
斬り飛ばした腕はコウモリになり、またくっついて攻撃をしてくる。
「へぇ~、身体がコウモリになるのか。剣だけだと面倒そうな相手だな」
「ガラハドおじちゃん大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。元剣聖なんだしな」
心配そうなリリに対し俺は楽観的だった。
その言葉通りにガラハドは大剣でバッサバッサとヴァンパイアの身体を斬っていく。
それは細切れのようになっていくが、斬られたそばからコウモリになっていき、それがまたくっ付いて元に戻る。
それを何度も繰り返した。
(ガラハドも遊んでるな~)
そう気楽にその戦いをぼんやりと眺めていた。
それが良くなかったんだろう。ガラハドの攻撃をすり抜けた一匹のコウモリが俺の首に噛みついてきた。
それに気付いたガラハドが焦っていた。
「ぬ? しまった! スターク!!」
俺は油断しすぎてコウモリの魔力を追ってなかったのもあり簡単に噛まれてしまった。
その噛まれた瞬間に身体に何やら異様な魔力が流れて来た。
それは血液を通り脳まで到達し俺の身体の自由を奪おうとしてくる。
「おとうさん!?」
「スターク! 操られるな!」
そんな事を言ってくるが、俺にはその言葉を聞く余裕は無かった。
何やら外野が騒ぎまくっているが、俺は自分の身体に入ってきた魔力という異物と戦っていた。
「くくくっ……その男はもう我が物だ」
「こやつ!? 喋れたのか!?」
「ふんっ。誰が
「ちぃっ! 油断したわ!」
「くっくっくっ! さぁスタークとやら! その小さい女を殺せ!!」
その言葉に俺の身体がリリを殺そうと勝手に動き出す。
(くっ……身体が勝手に動きやがる! ……こりゃ不味いな)
俺の意志とは裏腹に身体がリリを殺そうと動き出す。
(ちっ……まさか強制的に身体を乗っ取って来るとは思わなかった。自惚れていたな)
今までガラハドが居た為、危機らしい危機がなかったのであまりにも油断していた。
それに自分の体を乗っ取られる事への対策もしていなかった。
そりゃ10階層にワイトがいたんだ。この15階層はもっと強いのや厄介なのがいて当たり前だ。
(なんとか抗って動きを遅らせられているが、不味いな……)
リリが怯えた表情をしながら俺から
こんな表情をリリにされるのは初めてて心が痛んだ。
なんとかしなければと思うが、段々と思考も怪しくなり抵抗が出来なくなってきた。
「リ…リ……に、げろ……」
俺が必死に声を出すが、リリは怯えて何も出来ていない。
ちらりとガラハドを見るが、ヴァンパイアがガラハドを抑えておりこちらに来れないでいる。
万事休すか……と諦めかけていると、突然、上半身に激痛が走った。
「おとうさん、しっかりして!!」
俺は「ぐぁっ」と叫び声を上げて何をされたか見てみると、どうやら液体が身体に掛かったのが分かった。
それが片目にも入って目が潰れてしまったようだが、もう片方の目でリリを見る。
すると手にはビンを持っており、どうやら聖水を俺にぶっ掛けたようだ。
咄嗟の判断で聖水を俺に掛けたのだろう。
しかしそのおかげかヴァンパイアの魔力が一瞬だが弱まり、その魔力の根っこを掴んだ。
「ぐぅっ……このコウモリめ……身体の中にまで入って来てやがったのか!」
俺は魔力を操作してヴァンパイアの魔力を外に放り出すと、コウモリの形をした魔力がヴァンパイアの元へ戻って行くのが見てとれた。
俺はそれに向かって
「ちぃ! なぜ聖水が外から効くのだ!?」
「そりゃあやつは……(
何やらガラハドが小さく呟くが俺の耳にはハッキリと聞こえていた。
きっとリリに気を使ったんだろうが、もう遅いだろう。俺の身体が煙を上げて多大なダメージを受けている。肌に直接掛かった所は爛れており、服から染み込んで肌に触れた部分も溶けだしているだろう。
そしてきっと一番掛かったであろう顔は、見るも無残な物になっているに違いない。
(ああ……こんな事ならガラハドの言う通りに、バレる前にリリに話しとくべきだったな……)
俺はこの後に起こるであろう事に気を重くしながら、ガラハドにさっさとヴァンパイアを倒すように促した。
「分かっておるわい! 儂のせいじゃ! さっさと終いにするぞい」
「何を馬鹿なこ…と……を……?」
その言葉が最後になりヴァンパイアの魔力は霧散して、その体はコウモリになる事なく灰になって崩れ落ちていった。
何の事は無い。ガラハドの尋常じゃない程の魔力を含んだ、闇魔法を纏った大剣の強烈な一撃を、目にも止まらぬ速さで振るっただけだ。
だがその威力は生半可な者では消し炭になる程の威力を誇っていた。
それが消し炭ではなく死んで灰になったあたり、そこそこの実力はあったのだろう。
(しっかし兜付けてから強すぎだろあいつ……)
俺はその威力を羨ましく思いながら、潰れてない片目でリリを見た。
しかしその俺を見たリリの顔は、とても怯えた表情をしていた。
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