第三章 迷宮下層域へ

36話 検証

 ユルブローの街から転移して、リリと共にダンジョンに戻って来た。

 ワイトの小屋の前に転移したが、ガラハドは居なそうなので小屋に入るがそこにもいなかった。


「ガラハドおじちゃんはどこ行ったのかな?」

「さぁな。きっとダンジョンをうろうろしてるんじゃないか?」

「おじちゃん戦うの好きそうだったもんね!」

「ああ、戦闘狂だあれは」


 リリにも当てられている程だとはな。よほど戦うのが好きというのが伝わったのだろう。

 それにしてもこの階層に居そうにないんだよな。上か下かどこまで行ったのか。


 (まぁ十中八九、下の階層だろうな)


 あれだけの戦闘狂だ。強い奴を求めるに決まってるしな。

 とりあえずはここで待つとして、リリの食事の事をどうするか聞いてみるか。


「リリ、食事は肉ばかりになりそうだがどうする? なんなら俺が街に行って野菜とかを買って来るが」

「う~ん……おとうさんは肉ばかりでいいの?」

「ああ、俺は問題ない。だがリリには野菜や果物も必要だろう。今のうちに買って来るか?」

「……うん! おとうさんお願いしていい?」

「ああ、なら買って来る。ガラハドが来るまでここで待っててくれ」

「うん! ありがとうおとうさん! いってらっしゃい!」


 そう言って俺はユルブローの近くの街に行き野菜以外にも食料を大量に買い込んだ。

 それに調理器具も一通り買い込み、夕方前には全てを買い終えた。


 (また来るかもしれないからここにも血の印を置いとくか)


 そうして街の外の森の中の人気ひとけの無い場所に印を残して、再びダンジョンへ転移した。


「あ! おとうさん、おかえりなさい!」


 小屋の中に転移したからか、リリがすぐに気付き俺に駆け寄ってくる。


「ああ、ただいま。たくさん買い込んだぞ」

「ありがとう!」

「調理器具も買ったし早速何か食べるか?」

「うん! おなか減っちゃった!」

「じゃあ簡単な物を作ろうか」


 そういってリリと一緒にパンに肉や野菜にチーズなどを挟み、サンドイッチのようにして二人して食べた。

 そうした頃に外から気配がして、この魔力はガラハドだろうという事が分かった。


「ガラハドが来たようだな」

「え? よく分かるね?」

「ああ、魔力の質でな。リリもそのうち集中しなくても分かるようになるさ」

「いいなー。わたしもがんばる!」


 両手のこぶしを胸の前で握りしめるリリの姿に頬が緩む。

 そして小屋の扉が開くと思った通りガラハドがやってきた。


「お、誰かおるな? おお! スタークにリリ! 戻ってきおったか!」

「ただいまガラハドおじちゃん!」

「ああ、戻ったぞ」


 ズシズシと重たい鎧で床を踏みしめるガラハドは、床の板が潰れそうなほどの重量を誇っている。

 なんかますます重くなってないかこいつ? なんて思いながらどこに行ったか聞いてみると……


「少し下まで行っとったわい! 上に行っても弱い奴しかおらんだろうしのう」

「やっぱりな……下は何が居た?」

「下にはここの上位種がおったな。グールにレイスにファントムに、面妖な奴らばかりで面倒じゃったわい」

「へぇ、霊体系か。どうやって倒したんだ?」

「儂は魔法が使えんようでな。じゃが大剣に闇属性を纏わせる事が出来るようで、それでぶった切ってやったわい。わはははは!」


 そういって笑うガラハドはほんとに戦うのが好きなんだと思わされる。

 とりあえずダンジョン攻略には役立ちそうだからいいが、ずっと一緒だと暑苦しそうだなんて思ってしまっても仕方ないだろう。


 そうしてガラハドが帰って来たので、明日からの予定を話し合う。

 と言ってもダンジョンを攻略するだけだがな。


「とりあえずは今日は休んで明日からダンジョンを進もうと思うが良いか?」

「ああ、いいぞい。その前に!」


 同意したかと思えば急に話を止めて来るガラハド。

 どうした?と思っていると……


「お主がここから出て行くとき消えてしまっていたが、あれは転移か?」

「ああ、転移だ。そこにある転移石、あれの入り口にあったのを喰らったら使えるようになってな」

「なんと……では入り口にはもう転移石がないのか?」

「ああ、無いな。俺の腹の中というより身体の中だ」

「そうか……ならもうお主がおらんとこのダンジョンの出入りは出来ないという事か」

「いや、俺の血を使えば出れるぞ」

「む? どういう事じゃ?」

「こういう事だ。リリ見せてやれ」

「はーい!」


 黙って見守っていたリリに俺がそう言うと、元気に小屋から出て行った。

 だが次の瞬間には小屋の隅に現れていて、それを見ていたガラハドが驚いていた。


「なんと!? リリも転移の持ち主じゃったか!」

「いや違う。俺の血の媒体を持っているだけだ」

「むう? どういう事じゃ?」

「俺の血は転移石の転移能力を受け継いでいるようでな。俺の血を持っていれば俺が血の印を置いた場所限定だが、リリでも転移が使えるんだ」

「……という事は、儂でも出来るのか?」

「ああ、俺の血を持ってりゃな」

「おお! なんという能力じゃ!」


 そう言うガラハドはとてもはしゃいだ様に上機嫌になり、すぐに儂にもくれと言い出した。

 そこで俺は考えた。このまま渡してもいいが、仲間が増えるたびにこの転移能力を渡していったらいずれ無くしたり奪われたりするだろう。

 そうなるとこちらが不利になったり、それを知った奴らに付け狙われるだろう。

 そこでどうにか出来ないか考えていると……


「ならば魔力で認証出来るようにしたらどうじゃ?」

「魔力で認証?」

「うむ。ギルドカードのように本人の魔力しか受け付けない様にしとけばええじゃろ」

「そんな事出来るのかね?」


 そう思いリリを呼び、リリに渡したペンダントを一旦預かり、固めた血の部分を取り外し、新たに血を固めた物を嵌め込んだ。

 そこでリリに自分の魔力をそこに流して貰うように言うと、リリはそのペンダントに魔力を流し始めた。

 そして前の血の塊を違うペンダントに嵌め込んでガラハドに渡す。


「ガラハド、一度これで転移してみてくれ」

「おお! ついに儂も転移が使えるのか!」


 見るからにウキウキなガラハドに若干引きながらも、血の印を埋めた場所を教えて、小屋から出て貰い、俺の魔力を辿ってそのペンダントに魔力を流すように言った。


「うむ! では試してみるぞい!!」


 そう言うなりガラハドは小屋から出て行き、物の数秒で小屋の隅に転移してきた。


「はやっ!」


 俺は驚いていると……


「ぬおおお!? なんと! 儂にも転移が出来たじゃと!?」


 あっさりと転移出来た事に驚きを隠せないのか、大声で叫び倒している。


「喜んでいるとこ申し訳ないけど、今度はリリの持っているペンダントで試してみてくれ」

「おお! 任せい!」


 そう意気込みリリからペンダントを貰い小屋から出て行った。

 だが今度は数分待ってみても現れる様子はなく、ガラハドがなんだか少し気落ちした様子で扉から入って来た。


「使えんかったわい……」

「なら成功だろう。ガラハドのペンダントを貸してくれ。また新しい血と取り換えてやるから」

「おお! 頼むぞい!」


 そう言いペンダントを渡して来るガラハド。

 そのペンダントの血の塊を交換し、今度はガラハドの魔力を流させる。


「よし、流したな。血も固まっているようだし、これでガラハドしか使えなくなったな」

「おお! 本当か!!」

「試しにリリ、使ってみてくれ」

「はーい!」


 リリが今度はガラハドからペンダントを預かり小屋から出て行く。

 それから数分経つが転移してくる様子はなく扉から入って来た。


「おとうさん、だめだったー!」


 笑顔でそう言ってくるリリからペンダントを預かり、少し眺めてみる。


「どういう風に作ったんじゃそれは?」

「俺の血を魔力で固めてな。1回目はカチカチになるまで魔力で固めた。だからこれ以上魔力で固まることはなく、どんな魔力でも反応してたのだろう。だから2回目は少しだけ俺の魔力の量を抑えた。次にこれを使う奴の魔力を流して固めて貰ったんだ。そうすればそいつの魔力が俺の血に入り込み、俺とそいつが使えるようになるってわけだな」


 試しにやってみたが、上手い事出来たので良かった。


「な~るほどのう。て事はじゃ。お主ならこれも使えるという事か?」


 そういってガラハドがリリから返してもらったペンダントを俺に差し出してきた。


「ああ、多分な。まぁ俺はそれが無くても元々使えるから証明にはならんが、やってみるか」


 そう言ってガラハドのペンダントを預かり、小屋から出てすぐに転移で戻って来た。


「うむぅ……分からんな」

「そりゃそうだ。元々使えるんだから証明にならんと言ったろ」


 このペンダントを使って転移したかガラハドからは分からなかったようだが、俺は確かにペンダントを使って転移した。

 これで俺が作った血の塊は俺ならどれでも使える事が分かった。

 それにガラハドが言ったように、最初に魔力を流した血の塊は、俺と最初の奴にしか使えない事が分かり、認証出来るかの実験は上手くいったようだ。


「ところで血の塊というのもあれだから何か違う名前にするか」

「そうじゃのう。なら何と呼ぶ?」

「そうだなぁ……」

「これきれいだから血石とかは?」

「そのまま石だと捻りがないな」

「なにがいいかのう」

「血は血だが見た目は結晶みたいだから、血結晶でいいか?」

「わたしはさんせーい!」

「儂もそれでいいぞい」

「なら今度からこの俺の血の塊は血結晶って呼ぶことにするわ」


 そうして俺の血を介して転移する事が出来るこの血の塊を血結晶と呼び、それを嵌め込んだ貴金属を今後は信頼が置けそうな奴に渡す事が決まった。


「だが無暗に渡すなよ?」

「はーい! 誰にも渡さない!」

「無論じゃ。ところでなぜペンダントなのだ?」

「リリはまだ小さいから見える所よりは隠せる所って感じだな」

「ほうほう。なら儂はなんじゃ?」

「ガラハドは腕輪だと壊しそうだし指は太くて入らないし、ペンダントなら鎧の中にぶら下げとけばいいかなと」

「なるほどのう。じゃが固定しないとブラブラして壊れそうじゃのう」

「まぁそこは何かで張るしかないな」


 そう言い魔法袋から何か張れる物や粘つく物を探す。


「ん~、無いからスライムの粘液でいいか?」

「むぅ……まぁ仕方あるまい」


 渋々だが了承を得たので、鎧の首の部分に引っ掛けて鎧の中に入れて、スライムの粘液を塗りたくり、乾燥させてくっ付けた。


 スライムの粘液は渇くとカチカチにくっ付いて中々剥がれる事は無い。なのでこれでガラハドが激しく動いてもペンダントが揺れて壊れる事はないだろう。


 こうして転移の問題を解決した俺達は、明日からダンジョンの攻略を始める事を話しあって、今日の所は休むことにした。


 ああ、明日が楽しみだ。ガラハドは先に下に行ってしまったようだが、俺はまだこの下の行った事が無いからな。

 これからまた血沸き肉躍る戦いが待っていると思うと楽しみで仕方がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る