EX6 闇の魔女

 ガラハドという王国騎士団長だった男が私の過去をポツポツと話し始めた。

 私は許可してないのに勝手に話してる。


 許さない。


 でも私はそれを止めずにいた。


 なんでかは分からない。でも少しでも私の事を知って欲しいと思ってたからかもしれない。

 もうここにどのくらいいるか分からないけど、ずっと独りだったからか誰かを頼りたかったのかもしれない。

 久々に話す事が出来た事が少し嬉しかった。


 今の感情はよく分からないけど、ガラハドの口を塞がなかったのは間違いではなかったのだろう。




 私は小さな村の生まれで、名前なんてあってないような程の小さな村だった。


 そこでは両親がいて、貧しいながらも5歳くらいまではとても幸せだった。


 けど私が魔法に目覚めてからは状況が一変した。


 それはなぜか。


 私が目覚めたのは闇魔法。


 それは人を不幸にする忌み嫌われた魔法。


 それが発眼した事により、両親は村中から嫌われ村八分にされ、そして最後は苦楽を共にした村人達に殺された。


 最後は私を逃がすようにしてくれたが、私はその時は6歳くらいだった。

 なんとか逃げ延びたけど、一人で生きて行くにはとてもじゃないが出来そうになかった。


 だけど私には闇魔法があった。


 その時の私には強力な攻撃は出来なかったけど、相手の目をくらますのにはとても優れていた。

 それで森に逃げて、小動物を取って食べたりして飢えを凌いでいた。


 その後に大きな街まで行く事が出来て働き先を探すが、子供に出来る事なんてたかがしれていて、結局は乱暴な冒険者パーティーの荷物持ちが精一杯だった。


 それは毎回暴力を振るわれるがなんとか食べる事が出来ていた。

 しかしずっと一つのパーティーに居られるわけじゃないので、点々と違う所を回りながらなんとか生きて来た。


 それで少し身体が大きくなってきたのを機に、街のお店で働こうと職を求めていたら、宿屋の店主が働かせてくれて、低賃金だったが雨に濡れずに一日2回は食べる事が出来ていたので、ささやかな幸せを感じていた。


 しかしその数年後になぜか王国から私を捕らえに騎士達がやって来た。


 私は街に来てから一度も魔法を使っていない。

 なのになぜと思っていると、店主がニヤニヤとした顔をしていたのを見てしまった。

 それで気付いた。


 前に身分証がないからと作って来てやると言って、私の血を役所に持って行っていたのを。

 それで私に闇魔法の素養があるのがバレたのだろう。

 そしてそれを理由に私を売り渡したのだろうと思われる。


 いくらで売ったのかは分からなかったが、その時は逃げるのに必死だった。


 私は久々に使う闇魔法の暗闇を使ってその場から逃げ出した。

 視界を奪う暗闇を使ったことで、騎士達は私を追うどころじゃなかったらしく簡単に逃げ出せた。


 それからは街に居ては危険だと判断して、街から離れた森で暮らす事に決めた。

 その時は10歳くらいだっただろうか。


 それからは闇魔法を使いながら生きていた。


 攻撃の出来る魔法も次々と覚え、さらには強力な重力魔法も使えるようになってきた。


 そうして幸せではないがなんとか生きる事が出来ていた。

 しかし私はあの日からずっと王国に狙われ続けていたのだ。


 私を殺そうと定期的に騎士達が襲って来ていて、さらには懸賞金でも出されたのか冒険者達も私を付け狙っていた。


 昔、私を荷物持ちとして雇いながら毎日暴力を繰り返してきた冒険者パーティーも、私を狙って来ており、その時は闇影槍スティングランスという影から漆黒の槍を出して突き刺す魔法で、その冒険者パーティーを全滅させた。


 その時ばかりは少しだけ気分が晴れた気がした。


 だけど常に命を狙われ続け、時には毎日のように人を殺していた私は、精神的に疲れ果てていた。

 それからは街から遠く離れた人がいない深い森に、家などを作りながら一人で生活をしていた。

 その場所は人が全くいないので、ゆっくりと生きる事が出来ていたのだ。

 私はここで死ぬまでゆっくりと暮らしていて行けたらと願っていた。


 しかし闇魔法の呪いとでも言うのか、その咎からは逃れられないのか、ついに最後の時が訪れた。

 それは私が20歳を過ぎた頃だろうか?



「殿下、この先にいるようです」

「そうか。なんとしても捕らえよ」

「はっ。生け捕りで宜しいでしょうか?」

「そうだ。生きたまま捕らえるんだ。殺したら使えなくなるだろう」

「殿下が国王になる為に利用するんですよね?」

「そうだ。あの忌々しい兄上たちを出し抜いてやるのだ」



 私は闇魔法で聴覚を強化して誰が来たのか探っていたら、そんなやり取りが聞こえてきた。


 どうやら相手はこの国の王子のようで、私の力を利用しにきたのだろう。

 私は捕まったらどんな事をさせられるか分からないので、今回も必死に逃げる事にしたが、なぜか魔法が上手く使えずに簡単に捕まってしまった。


 私はかなりの怪我をしたが生きて捕らえられてしまったのだ。


 王城へ行く道中に聞こえた話だが、どうやら神器とも言えるような、魔力封じの結界を使える魔道具を内緒で、王城の宝物庫から持ち出してきたようだ。


 私を捕らえる時には、魔力封じの結界を気付かれない様に私の周りに張っていたらしく、この有様というわけだ。

 そして今も私の周りに結界を張られているので魔法を使う事が出来ないでいた。


 私は腕と足に酷い怪我をしたまま治される事もなく、そのまま玉座の間へ連れていかれた。

 そこには何人も人がいて、少し高くなっている場所にある豪華な椅子に座っている人も居た。

 あれが王様なのだろうかと考えていると、信じられない言葉を私を捕らえた王子が口にした。


「さぁ闇の魔女よ! ここにいる奴らを皆殺しにするのだ!」


 そういって魔力封じの結界を解かれた。


 その言葉にその場にいた全ての人間が驚愕の表情をしていたが、瞬時に私に殺気を放ってきて、王様や他の豪奢な服を着ている人達の前に騎士達が守るように立ち塞がって行く。


 もちろん私は拒否をしたが、命令に従わない王子が激情したのか、手に持っていた剣で私を斬り付けながら何かを叫んでいる。

 けれど私は元々の傷からの痛みや、新しく斬られた痛みでそれどころではない。


 このままでは殺されると思い、気付いたらその王子に向かって咄嗟に闇魔法を放ってしまっていた。

 それで王子は絶命し、私は国家反逆罪としてその場で取り押さえられてしまった。


「父上! あの者は悪くありません!」

「ならん。この国の王族を殺した責は取らせねばならぬ」

「あれはあの馬鹿が暴走したからではないですか!」

「自分の弟を馬鹿というでない」

「そんな事はどうでもいいのです!」


 私は痛みで薄れゆく意識の中で、私を庇ってくれる人がいる事に少し心が温かくなるのを感じながら、目の前が暗闇に沈んだ。


 それからは王都の広間で民衆の前に晒し物にされながら、あっという間に処刑されてしまい、私の短い人生はそこで終わりを告げた。


 だけどその最後の瞬間に見た光景は、民衆はどの人間も狂喜を孕んだ表情で私を罵倒していたが、王子と思われる人と、その横にいる大きな騎士の人は、私の事をとても悲しそうな悔しそうな表情で見つめているのが、とてもとても印象的だった。




 次に目を覚ますと私は小さなアルラウネになっていた。

 上半身が子供の人間のような姿をしているが、下半身が植物の球根のような姿をしていた。


 私はアルラウネを見た事をなかったが、植物の魔物になってしまった事を理解した。

 そしてなぜか私は生前の闇魔法をそのまま使える事が分かった。


 それは生前なんかよりも強力になっている気がする。


 魔物になったからか魔力も増え、操作も容易に出来、生前にこの力があれば私は死ななくて良かったのにと何度も思った。


 しかしそれはもう叶わぬ夢。


 今は今を生きていこうとなんとか前を向いた。


 それからはこの場所にいる他の魔物に殺されない様にと思い、レベルを上げて強くなりながら、この洞窟というよりは迷宮だろうと思われる場所で、とても凶暴な狼や私なんか軽く飲み込んでしまう蛇などを倒しながら成長していった。


 たまに話せる同種族のアルラウネが居たりしたので、そこでどんな事が出来るか聞いたりしながら過ごしていった。

 私はアルラウネなのに前世の闇魔法しか使ってなかったから、あのアルラウネには種族特有のスキルを教えて貰えてとても助かった。


 それで私はなんとか外に出たいと歩き回りながら上に行ける階段を見付けた。

 それからは上に上にと迷宮を登って行った。


 迫りくるものは闇魔法やアルラウネ特有の蔓や種や幻覚魔法などを使いながら、上へ上へ。

 しばらく上に進んでいると、フロアボスと思われる羽の生えたヴァンパイアらしき裸の男にも出会ったが、特に攻撃されることもなく上に行けた。


 そしてある程度上に行くと魔物は弱くなるが、気持ち悪いアンデッドが出るようになった。

 私は早く動けないので素早く動く狼のような魔物は嫌いだが、見た目は醜いアンデッドだが、動きは私以上に遅いので、ここをなんなく通り過ぎて行った。


 そして私はあの人に出会った。


 それは強力な魔力を宿した一匹のアンデッドで、何やら意志があるような気がした。


 私は妙にそのアンデッドが気になってしまい、闇魔法の隠形により魔力も姿も消しながら、そのアンデッドを観察する事にした。


 それからはそのアンデッドはワイトだという事が分かり、数週間ほどそのワイトを観察していると、なんと思わぬことが分かってしまった。


 そのワイトは元王族であり、闇の魔女である生前の私を助けようとした王子その人だったのだ。

 最初はずっとブツブツと小さく独り言を言っていたので、上手く聞き取れなかったが、気付かれない様に少しづつワイトの拠点となる場所へ近付いて行っていたら、その言葉を聞く事が出来るようになった。


 それは闇の魔女を庇ったばかりに兄弟達に謀反を疑われ、暗殺されてしまったという物だ。


 私はそれを聞いた瞬間、心に大きな穴が空いたような気がした。


 私を庇ってくれた人、私の最後の景色で私を悲しそうに見ていたあの人が目の前にいた。

 だがそれは当時を見る影も無いほどに化け物の骨の姿になってしまっていた。


 それだけではなく、私を助けようとした事を後悔し、あの気高かったであろうその意志すらも歪んだものになってしまっていた。


 それからはその元王子であるワイトは、アンデッドを生み出す事に執念を捧げ、ついには大物であるデュラハンを蘇らせた。


 ワイトはそのデュラハンがガラハドであると何度も言っていた。


 そのガラハドは元王国騎士団長であり、最後までワイトである元王子に付き従ってくれていて、最後は王子を仁王立ちで庇いながら死んだと言っていた。


 独り言なので断片的にしか分からなかったが、何度も同じような話をしていたので推測ではあるがこのように私は解釈した。


 それからはこの二人が私が死ぬ最後の光景に居たあの二人だと思い、感謝の念を抱いたのだが、私のせいでこの人達が死んでしまった事実に、私は崩れ落ちてしまった。


 なぜ私が闇魔法なんか使えるのか。

 なぜ闇魔法が使えるくらいで殺されなければならないのか。

 なぜ私のせいでこの人達まで死ななければならないのか。


 ずっとそんな事を考えていた。


 ガラハドと呼ばれたデュラハンは意識が薄いようで、反応がとにかく鈍くて、ワイトが何度も話し掛けていたが、殆ど反応は見せなかった。


 そんな事実が発覚してから数年はずっと観察を続けた。

 けれどワイトもデュラハンも何にも進展を見せずにいたので、私は心が辛くなり、いつの間にか自分が生まれた場所へ戻ってきてしまっていた。


 それからは生まれた場所でずっと呆けていたが、ふと下の階層が気になって下りてみる事にした。


 そこから先の記憶は無い。


 私は気付いたら元の場所に戻ってきており、下へ行く階段を塞いでいた。


 この下へは行ってはいけない。

 心が強くないと絶対に発狂してしまう。

 私には無理。

 だから誰もここを通さないし、下からの侵入もユルサナイ。


 この場所に誰も近付かない様に、この広大な場所に幻覚の魔法を放ち続け、このフロア全体に行き渡るようにして、無数のアルラウネがいるように見せる事にした。

 そうする事により、このフロアの魔物すらも近寄らなくなっていた。


 それからは暇なのでアルラウネを花に見せたり木に見せたりしながら、気分で変えていったが、あまりに暇すぎたので私は警戒の魔法を使い、侵入者が来るまで眠りにつくように成長した葉っぱで身体を包み、闇の中に意識を落としていった。


 そうしてこの場所に陣取ってから長い長い時間が過ぎていった。




 次に意識が覚醒したのはどのくらい経った時だろうか。


 久々に警戒に引っ掛かる感覚がして意識を外へ向けると、見たことの無い3人の人間と思われる姿が見えた。

 それからは撃退すべく幻覚魔法を強めていたが、中々帰ろうとしない。


 いつしか姿を見せなくなったので諦めたのかと思ったが、気付いたら空に巨大な岩を作り出しそれを落としてきた。


 私には全然届かないので、すごい事をやる物だと思っていると、そこへ巨大な炎の球をぶつけてきた。


 それはまるで流星が降り注ぐかのように私の幻影が居る場所へ次々と降り注いできた。


 その光景に私は久しく感じていなかった恐怖を覚え、幻影であるアルラウネを殺しまくっているので、必死に幻影を操ったり幻覚魔法をさらに強化して惑わせるようにしていた。


 それからは一度は殺されて消えた幻影を毎日再生でもさせるようにして、なんとか諦めないかと思っていたのだが、姿を見せてはまた居なくなりという事が続いた。


 私はこのまま帰る事を望んだが、その3人組のうち2人が私が作り出したアルラウネを調べてしまい、それが幻影だという事に気付かれてしまった

 それからこちらに近付かずに何かをやっているのが見えた。

 私は必死に帰る事を望んでいつも通り対応をしてたのだが、数か月経った所で変化が起きた。

 いつもは止まる所からどんどんと私に近付いてきてしまい、恐怖で種や蔓、それに魔法も撃つが全く鎧の人間には聞いている様子は無かった。

 けど不思議とこちらに殺意はなく、それに遠目にだがなんだかあの鎧の人間が、王子に付き従っていたデュラハンに見えた事からも、少し関心が出てきてしまった。


 それからはデュラハンと思われる方ではない人間が、私を仲間に欲しいと行って来たり、下へ行かせてほしいとか言ったりしていたので、試練を与える事にした。


 もしこの試練を突破するようならば、この下に行っても大丈夫だろうと思う。


 私は密かにこの人間。

 そしてあっちにいる鎧姿のデュラハンに期待をしていた。


 どうか私の試練を乗り越えて欲しい。

 あのデュラハンが上にいた王子に従っていたガラハドであって欲しい。


 そしてどうか……私をここから連れ出してほしい。


 様々な思いを抱きながら、私は目の前の人間に幻覚の魔法を降り注いでいった。

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