3話 初遭遇
進化が終わってから少しして、俺は最初の獲物を見つけた。
それは俺と同じスケルトン。
その手には何も持っていない。
対して俺は道中で拾ったボロボロになっている剣を持っている。
別に切れ味は求めていない。骨より固いものと少しのリーチだ。
そして振り回したときの遠心力の威力があればいい。
おれは慎重に歩を進め、標的のスケルトン目掛けて一気に間を詰めて、持っていた剣を振り下ろす。
走り出したときに相手が気付いたがもう遅い。
スケルトンは手で俺の剣をガードするが、それで左の腕から肩を粉砕した。
スケルトンはよろけて後ろに倒れるが、俺は一気に仕留めるために距離を詰め、油断なく頭に剣を振り下ろす。
見事に頭蓋骨にぶち当たり、骨が粉砕されてスケルトンの命の灯火は消えた。
俺は一呼吸して緊張を少しだけ解くと、殺したスケルトンを観察する。
どうやら動く気配はない。
粉砕した骨を見ると、腕と肩と頭蓋骨だ。
それで動かないという事は、頭蓋骨が弱点だろう。
そこで頭蓋骨を見てみると、脳が入っている場所に何やら、ひし形の石のようなものがある。
それを取り出すと、とても不思議な感覚がする。
何だろうと考えるが分からない。
だが恐らくこれだろうと予想出来る物がある。
きっとこれは魔石という物だろう。 それに感じるのは魔力か?
この体にも魔力が宿っているのだろうか?
感じたことはないし、使うことも出来ない。
だが手に持っている魔石からは確かに何かを感じる。
そこでこれを持って行こうと思うが、袋も何もない。
だが置いていくのは何か嫌なので、試しに噛み砕いて見ることにした。
スライムを倒した始まりが噛み砕きだ。
今回もそれでいいとなぜか思えた。
そうして少し固い魔石を噛み砕いてみると……
何やら薄っすらと赤い色が付いた靄のような物が現れ、俺の中に入ってきた。
少し慌てるが、それらは全て俺の体に入りきってしまう。
少し警戒するが何も起こらない。
と、少し変化が起きた。
体に何か宿ったのを感じた。
多分今まではあっただけで、何も役に立ってなかった魔力と言うものだろう。それが体に感じ、動かすことが出来るようになったようだ。
だとしてもスキルなどないだろうから、魔法なんかは使えないだろうな。
ならここは身体を強く出来ないだろうかと考えた。
そこで魔力を身体に巡らせて強化を図る。
最初はうまく動かない魔力も、徐々に動き始める。
そしてそれは骨全体に行き渡った。
そこで持っていた剣を振りかぶり、一気に振り下ろす。
するとさっきまでよりも少しだけ速く振れた気がした。
きっとこれを使いこなせばこれから先、大きな違いが出てくるはず。
そう思い俺は魔力が有る限り、戦闘ではずっと使い続けようと思った。
こうして同種であるスケルトン、そして初めてのスライム以外の魔物を殺す事に成功した。
その後はスケルトンを次々葬って行く。
狩りを続けるうちにいい場所を見つけた。
この場所は何も持っていないスケルトンしか出てこない。
これはいいとそこで延々と狩り続けた。
だが上手いことは続かない。ついにボロボロだった剣が折れてしまった。
それでも半分はあったから、それで凌いでいたが、そこから更に折れてしまい、使い物にならなくなった。
仕方なく素手で倒そうとするが、これが中々に倒せない。
そりゃそうだと思う。こちとら只の骨だ。筋力などない。
だからスケルトンの骨を砕くのも一苦労だ。
腕や足は間接技を見よう見真似で砕いたが、命である弱点の頭部は全く割れる気がしない。
更に言うと右手が砕けてしまった。
考えてみれば手の骨なんかより頭蓋骨の方が硬いに決まっている。
俺は仕方なく折れて捨てた剣を拾い直し、剣の柄で頭部を叩き、スケルトンを殺した。
はあ、やっちまった。これで利き腕が駄目になった。
これから逆手と壊れた剣で行くのかと少し憂鬱になる。
一応、剣は10cmくらいなら残っているが、切るのは難しいだろう。
折角いい場所を見つけたのに、移動しないとダメだな。
何か使える物を見つけないと、今度は左手すら失う事になる。
俺は後ろ髪を引かれるようにこの場所を去ることにした。
慎重に索敵をしながら進んでいると、なんとついに出会ってしまった。
やっぱりいるか……人間が!
そう、生前の姿である人間がこの洞窟に入って来ていたのだ。
俺はこの世界の人間を観察するために、細心の注意を図り、人間を追跡し始めた。
後ろから観察していると、この人間は3人パーティーのようだ。
戦い方は1人が戦士役、1人が遊撃役、1人が魔法使いの遠距離役だ。
戦士は剣と盾を、遊撃は盗賊のように両手ナイフを、魔法使いは火の玉を。
魔法使いだけが女で残りは男のようだ。
3人はどうやらスケルトン2体と戦っている。
それも危なげなく勝っている事から、今の俺よりも圧倒的に格上だ。
今の俺はスケルトンになったが、剣が無ければ一匹のスケルトンすら倒すのがやっと。これじゃこの人間たちに勝てるわけがない。
ここは気付かれないようにしながら、もう少し観察をして行きたい。
そうして観察を続けそろそろ離れるかと思っていると、人間達が苦戦する相手が出てきた。
それは3匹の蟻だ。
俺が見た蟻よりもデカい。それが3匹だと俺なら死を覚悟する。
だがこのパーティーはどうするのだろうか? 少し様子を見てみる。
すると……
戦士が1対1で倒すようで、残り2匹を遊撃役が相手取り、戦士が1匹倒す時間を作っているようだ。
その遊撃役の2匹を魔法使いが魔法で援護するといった戦法のようで、それは今のところ機能している。
だが崩れる時が来た。
戦士が1匹を倒し遊撃役の方へ向かおうとした時、1匹の蟻が
それを予期してなかったのか、もろに浴びてしまう。
「キャアアー!」
「カサネ!」
そこで流れが変わった。
遊撃役の人間が魔法使いに意識を取られた瞬間、1匹の蟻が遊撃役の足を食い千切る。
それで遊撃役が戦力から脱落。残りの魔法使いも顔に蟻酸を浴びた為、目が開かず脱落、残りの戦士はまだ元気だが、いくらダメージがある蟻とはいえ、2匹は厳しい。
徐々に劣勢になりかけるが、意を決した顔をした。
そこで戦士の剣が一瞬光ると、2匹の蟻の足が数本まとめて吹き飛んだ。
何かしらのスキルを使ったのだろうか。
だが今の技で体力が無くなったのか、一気に動きが悪くなる。
蟻は足を失ったからか思うように動けてないが、それでも執拗に戦士を付け狙う。
しかし両者決め手がないまま時が進み、ついに戦士が2匹の蟻を倒した。
だが満身創痍、立っているのもやっとの状態。
そこで俺は思った。
あの人間の剣が欲しい。あの人間の持ち物が欲しい。
もしあれらが俺の物になれば、これからの戦闘が随分と楽になる。
そこで俺は決めた。
この人間共を殺す。
一時の迷いもなくそう決めた。
そして隙を見せている今が最大のチャンス。
激闘が終わった直後が一番油断する。
今は戦士のみが危険だ。それ以外は危険はない。
戦士は魔法使いの方に行っている。
遊撃役は自分の足を何かの液体で治療していて、武器を地面に置いている。
狙うは今だ!!
そこで俺は今までのにないほどの身体強化を施し、一気に遊撃役に近寄った。
自分でも信じられないほど一瞬で距離を詰め、持っていた折れた剣を思い切り首にぶち当てた。
そして遊撃役の前に置かれた武器を奪う。
次はそれに気付いた戦士に向かって駆け出す。
戦士が慌てて構えるが俺はナイフを投げつける。
戦士が盾を顔の前に出して弾く。
だが俺はそれを予期していた。
盾で俺の姿が見えなくなった時に、咄嗟に飛び上がった。
そして体を反転し天井を蹴り更に加速する。
戦士が盾を下ろし前を向くと、もうすでに俺はそこには居ない。
一気に急降下し体が地面に向かったまま、戦士の目の前まで行き、もう一本奪っていたナイフを顔に突き出した!
そこで決着。
俺は地面に叩きつけられるが戦士は即死し、後は無力な魔法使いの女だけ。
目が見えない為、事態が分からない魔法使いは、ただただ戦士か遊撃役の名前らしき言葉を叫んでいる。
いい加減耳障りなので、楽に行かせてやる事にした。
俺は戦士の剣を取り、一気に魔法使いを縦に切り裂く!
今までの身体強化は何だったのかと言うほど、あっさりと魔法使いの体は真っ二つに切り裂かれた。
今まで以上に使った身体強化のお陰か、はたまた剣の性能ゆえか。
こんなに気持ちの良い切れ味は初めてだ。
俺は少しの間、快感に溺れていた。
そこでふと思った。
そういえば遊撃役の男は殺せたのか?
あんな折れて短くなった剣で殺せるのだろうか?
俺は油断なく近寄って見てみると、まだ息があるようでこちらを睨んで小さく何かを言っている。
先ほども思ったが、やはり俺はこの世界の言葉は分からないようだ。
なら聞いても無駄だろうと今度は軽く剣を遊撃役の男に振るう。
するとサクッと首が落ちた。
首がそこそこ切れていたとはいえ、こんなに楽に切れるのは、単純に剣の性能か。
それが分かっただけ良いだろう。
後はこの人間達の持ち物を漁ることにした。
どうやら特別な物はないようだが、今の俺には全てが宝の山だ。
特に装備を全部持っていく。
剣・盾・鎧にナイフも物言わぬ死体から引き剥がし、身に付ける。
この身体は肉がない為に、物凄く鎧が着づらい。
だから、上の鎧は着ずに下のズボンだけを履くことにする。
他には何かないかと見てると、ふと遊撃役の男の近くに落ちていた袋に目が行った。
なんだと見てみると、それは魔法袋のようで、中が広くなっている。
容量は小さな押し入れ程だろうか?
中には大した物は入ってなく食料がメインだった。
俺は食料を全部出し、そこに上の鎧や魔法使いの杖に服などを詰め込んだ。
あらかた全ての持ち物を奪っただろう中には、ポーション類もあった。
そこで俺は自分の骨にポーションを掛けてみることにした。
それは実験だ。
スケルトンにもポーションが効くのかどうか。
どれが何のポーションだか分からないから、2種類あった両方を試してみる。
まずは緑と赤のポーションのうち緑を一滴だけ垂らす。
右手が駄目になってるから右手にと思ったらレベルが上がったのか、いつの間にか治っていた。
ならと利き手の逆の左手に一滴垂らす。
するとシューシューと音を立てて骨を溶かす。
かなり痛みが走り、慌てて土に手を擦り付けた。
何とか痛みが収まり、手を見てみると、少し溶けて脆くなっていた。
これは毒か強酸か? でもそんなものを2本のうちの1本として持たないよな?
ならこれは回復ポーションだろうと予想する。
回復系が俺には効かないことにガッカリするが、もう一つのポーションも試してみる。
今度は赤のポーションだ。これを一滴垂らす。
すると何も変化は起きない。
だがもしや? と思いステータスを確認する。
そしてもう一度垂らすと無事に魔力が回復していた。
これは確定だ。魔力回復ポーションだ。
これはいざと言う時に必要なので取っておく事にする。
こうして道具の検証も終わり行こうかとしてると、蟻が気になった。
近寄って見てみると、綺麗に足が切れていた。
そして体も切り裂かれ緑の体液が体からこぼれ出ている。
そこで色違いの物を見つけた。
そこそこ大きい赤い色の物だ。
なんだと見てみると……魔石だ!
それもスケルトンの3倍はあるだろうか。
思わず嬉しくなり、残りの2匹の魔石も取り出すと、一気に3つの魔石を貪り喰う。
すると身体にこれまで以上に力が漲るのが分かった。
そして何となくだが感覚的に進化出来ると勘が訴えている。
だが進化のメッセージが出てこない。
多分だが何かが足りないのだろうと思った。
何が足りない? 今俺が欲しい物はなんだ?
懸命に考えてると、戦士の死体が目についた。
そこで本能が疼く。
これは肉を欲している衝動だ。
今までは食べることは魔石のみだった。それも食べると言うよりは魔力の吸収だ。
だが今は肉が欲しい。
元人間からすると、非常に躊躇われる。
人間の肉を喰うなんて……
だが今は人間じゃない。そして異常に肉を欲している。
躊躇いも束の間、俺は気付いたら目の前の戦士の死体を貪るように喰っていた。
食べては肉が喉を通っていき、胃まで行くと消える。骨であるからこそはっきり見えていて、自分で見てもとても不思議な現象だと思う。
どのくらいの時が経ったかある程度、戦士の肉を食べ終わると目の前にあのメッセージが浮かび上がった。
そう、進化のメッセージだ。
2度目の進化は3つの進化先があるようだった。
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