51話 一歩前進

 下へ行くと黒い悪魔が大量に居た。

 それを俺達は入り口で大量に屠っていたが、何度来ても減っている気配がない。


「なぁアリシア。この迷宮っていうのはアリシアの幻覚みたいに、行く度に再生というか、再度も湧いてくるのか?」

「多分そう。ここの狼や蛇を倒しまくったけど、一向に絶滅はしなかった」

「なるほどねぇ。なら経験値貰い放題だな」

「そんな事より早く根絶やしにして」

「そうは言うがなぁ。アリシアが来ない事にはなぁ」

「……まだ無理」


 俺がなぜ入り口を掃除して数を減らそうとしてるかと言うと、あの数を減らして見た目の精神的負担を減らそうとしてたからだ。

 だが一向に減る気配がないから、いい加減アリシアに覚悟を決めろと言ってるのだが、言う事は毎回同じだった。


 なのでアリシアの覚悟が決まるまでリリと一緒にレベル上げをする事にした。


「おとうさん、やっぱり気持ち悪いね」

「まぁな。結界を張ってても張り付いてくるからなぁ」

「この結界に触れたらダメな効果とか付けられないかな?」

「ん~、それが出来れば多少は見た目が楽になりそうだな。やってみるか」


 それからは俺とリリが結界に触れたらダメージを与えられるように工夫をしていった。


 その間も俺はヴォルテックスを、リリはそこにフレアストームを放ちながら、経験値を稼いでいく。


 そうする事、数日が経っただろうか。

 ようやく結界に触れるとダメージを与えられる結界が出来上がった。


「よし、結界に集って来る奴らはみんな下に落ちて死んでるな」

「すごいね! これどうやってるの?」

「ああ、結界に電撃を付与したんだ。だから触れた時にバチって鳴ってるだろ?」

「うん! なんかバチバチ光って触れた所から下に落ちてるね」

「ああ、リリも使えるように練習だ。後でしっかり教えるから」

「うん! たのしみ!」


 コックローチは結界に触れるたびにバチバチ言いながら床に落ちていく。

 これは夏の夜、コンビニとかの街頭に付いていた電撃殺虫器をイメージした物だ。

 光に寄って来た虫が電気の通った檻に触れると感電して死んでいく。


 しかし電灯にLEDが普及した事で電撃殺虫器は減ってきている。

 これはなぜかというと、LEDは紫外線を発しないからだ。

 虫が光に寄って来るのは紫外線を目指してやってくるようだが、LEDはそれがないので電撃殺虫器が必要なくなっている。


 だがここのコックローチは攻撃した者にリンクしてくるので、電撃を纏った結界に勝手に当たってきて勝手に死んでいくといった形になっている。


 (これも結構、良い経験値稼ぎになるな)


 これなら視覚での精神的負担は多少は緩和出来そうだと思うので、リリと同時にアリシアにも使えるように教えよう。

 そうすればここにも来れるようになるだろう。


「よし、一通り倒したから上に戻るか」

「うん! この数日で一気にレベル上がったよ!」


 そこまでレベルが高くないリリは、この数日で結構なレベルが上がったようだ。

 ここは20階層だからフロアボスが居そうだが、倒した後もここである程度レベル上げる為に残っても良いかもしれないな。


 それからは上に戻り、リリとアリシアに電撃の結界を使えるように教えていく。

 まずは電気という物がどういう物か教える所から始まった。

 それを理解させたら、その電気を結界に付与するようにすると電撃の結界が使えるようになる。

 二人は真剣に覚えようと、特にアリシアは眼が怖いくらい血走っているくらい真剣に覚えようとしていた。


 よほど嫌いなんだなと思いながらガラハドにも教えるが、やはりガラハドというかデュラハンは身体の外に魔力を放出するのが苦手なようで、全く出来る気配がなかったので、それよりも範囲攻撃が出来ないかの練習をしていた。

 一応、大剣に闇魔法を纏わせるのは出来ているのだから、なんとかなりそうな気もするが、一筋縄では行かないのだろう。


 俺も一緒にもっと広範囲魔法が使えないか試すが、やはり中々に上手くは行かないようだ。


 (ん~、応用じゃなく新しい魔法ってどうやって覚えるんだろうな? 魔導書はどうやって読んだ奴に魔法を授けてるんだ?)


 この世界は分からない事だらけだ。

 だからこそ面白い。


 そうこうしている間に元々、結界が使えたリリは早々に電撃の結界を使えるようになり、アリシアもその後に使えるようになった。


 俺もガラハドも新しい物は使えなかったが、リリとアリシアはしっかりと覚えた事により、ようやくアリシアが黒い悪魔と戦う覚悟をしたようだ。


「いいかアリシア。結界を張ったら最初は眼を瞑ってろ。ある程度殲滅したら声を掛けるから。ああ、結界は3重くらい張っとけ」

「うん……絶対に見ない」

「それがいい。じゃあリリもガラハドも準備はいいか?」

「うん! いつでもいいよ!」

「うむ。儂もいいぞい」


 4人共に意志が固まった事により、早速20階層を攻略する事にした。


 最初は俺とリリが魔法である程度、襲ってくる敵を殲滅して、それからアリシアに合図を出して目を開けさせて、大丈夫かどうか判断させる。


 最初の見た目さえクリアすればある程度は大丈夫だろうと思うので、見える範囲のコックローチを殲滅すべく、魔力が尽きる限界まで魔法を放ち、纏めて殲滅していく。


「うぅ……もうなくなった~」

「そうか、なら魔力ポーションを飲んで休んでてくれ」


 リリが早々に魔力が尽きたので、後は俺がヴォルテックスにフレアボムを撃ち込んで、残りの敵を屠っていく。

 そして魔力がある程度回復したリリがまたフレアストームやファイアストームを放っていく。


 アリシアは結界に触れたコックローチのバチバチする音一つ一つにビクビクと反応を示している。

 そして結界が一つ割れると悲鳴を上げていた。


 アリシアは眼を瞑りながらも電撃の結界を身を縮めるようにして、何重にも張っている。


 そこまでしなくてもと思うが、本当に嫌いなんだから仕方ないかと思いつつ、出来る限り殲滅をするように心掛けた。


 そうして殲滅する事、数時間は経っただろうか。

 どれだけいるのかと思える程の数を倒していき、ようやくリンクして来るコックローチが居なくなってきた。


「ようやくだな。こりゃ攻略するなら一度街へ行って魔力ポーションを買い込んだ方がいいかもな」

「うん。リリの魔力すぐなくなっちゃう」

「これだけいるとはのう。正直このフロアがどのくらい大きいかも分からん程じゃな」

「……もう居ない?」

「ああ、ほぼ居なくなったぞ。後は魔力だけを見るようにしてみれば大丈夫だ」


 炎で殲滅した奴らはいいが、結界やガラハドの大剣で倒した奴らは体液を巻き散らしている物もある。

 なので明かりを最小限にしてあるので、その明かりに照らされている所は見た目が悪い。

 そこを見ない様に伝えながらアリシアに目を開けるように言う。


「……ここは地獄?」

「いや、見なけりゃ経験値の旨い場所だな」

「……まだ眼を瞑ってる」

「分かった。ならガラハド、アリシアの手を引いてやってくれ」

「うむ。仕方ないのう。見た目が良さそうな所まで眼を瞑ってるがよいわい」


 暗い所を見たはずなのに、それでも駄目だったようだ。

 だが帰ると言わないだけマシなのか。

 とりあえず俺とリリが先に進むことにして、敵を殲滅して行く事にする。


 それからある程度このフロアの全体像を確認していくと、かなり広大な石造りのフロアだという事が分かった。

 おそらく天井が10M程、直線距離は1km以上はあるだろうか。

 そのフロア全てに黒い悪魔がビッシリいた。


 一体全体どのくらいの数がいるのかは分からない。おそらく数千万匹はいるのではと思われる。

 それらを殲滅するのは無理だと判断して、今日の所は一旦引いて魔力ポーションを買い込んでからまた来る事にしよう。


「今日は帰るか。何度か来てアリシアが慣れたら、魔力ポーションを買い込んで一気に殲滅しよう」

「うむ。その方が良かろう。ここはお主とリリだけじゃ辛そうじゃ」

「うん。すぐリリの魔力なくなっちゃう」

「………」


 そろそろダウンしそうなアリシアは無言だが、リリもガラハドも同意しているので、とりあえず今日から暫くはアリシアが慣れるまで続けて、慣れた頃に魔力ポーションを買い込む事が決定した。

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