47話 久々に

 リリが己の力で幻覚を解く事が出来た。

 それを俺とガラハドは喜んで褒めに褒めた。

 リリはとても嬉しそうにしていたので良かったと思う。

 それからその日はゆっくりする事にした。


 そして次の日に、あの一匹のアルラウネに会おうかと話し合っていたが、その次の日になると俺もガラハドもリリもまた幻覚を見ており、目の前には大量の木々が生い茂っており、遠くからストーンバレットの魔法で木に攻撃をしてみると、アルラウネの姿になって地面に倒れるのが見てとれた。


 それを見た俺とガラハドの感想は、この幻覚に掛からなくなるようにしないと、もしあのアルラウネと敵対した場合には、更に強力な幻覚を掛けられてしまう可能性があると判断して、俺だけじゃなくリリも含めて幻覚が掛からなくなるまで、幻覚の解除と耐性が得られるのを待つ事にした。


「一体どのくらい掛かるのかね?」

「さてのう……こればっかりは儂でも分からんわい」

「もうずっとここにいるね。……すこしあきちゃった」

「だなぁ。……仕方ない、2・3日どっか行くか?」

「いいの!? お外出たい!」

「いけるのかの?」

「ああ、何度か言おうと思ってたが、気を逸らすと悪いと思って言わなかったんだ。多分、俺の転移で一旦ワイトの小屋まで行けば地上に出られるぞ」

「おお! そうじゃったそうじゃった。転移があったんじゃったな! 使えないのが普通だし、あの時以来使ってなかったから忘れとったわ!」

「私も忘れてたー! なら早くいこ!」

「分かった。じゃあ久々だから小屋までは各自で行くか? それとも不安なら俺と一緒でもいいぞ」

「儂は自分でやってみたいのう」

「私は不安だからおとうさんと行く!」

「よし、ならガラハドは小屋で落ち合おう」

「了解じゃ。ぬははは! 楽しみじゃ。ではのう!」


 そう言って大笑いしながら転移で消えていったガラハドを見てちょこっと不安になったが、あいつならなんとでも対処出来るだろうからいいかと思った。


「それじゃリリ、行くぞ」

「は~い!」


 そう言ってリリは抱き着く様に俺の腕を抱き締めて来た。

 俺はリリの頭を撫でながら、ワイトの小屋への転移を発動した。


 次の瞬間にはリリと一緒に見覚えのある小屋の中にいた。

 そしてもうすでにガラハドの姿もそこにあった。


「よし、戻って来たな。それじゃユルブローでも行くか?」

「うん! 久々におかあさんのお墓に行きたいな」

「そうか、なら街で花でも買っていくか」

「うん! おとうさん、ありがと!」

「では儂はどうしようかのう。この身体じゃ外に出れんしのう」

「う~ん。あれだな。顔さえ見られなけりゃいいんだから、顔に何か被ってるように見せるか?」


 ガラハドが寂しそうにそう言って来たので、俺はせっかくだしと外に行けるように提案してみた。

 デュラハンの鎧と大剣は非常に目立つが、おかしいのは顔がない事くらいだ。

 兜が無けりゃ絶対に外というか人間がいる所にはいけない。

 だが兜さえあればフルプレートの騎士みたいに見えなくもない。


「何かとは何を被るんじゃ?」

「たとえば服を頭に被ったようにして、それで目と鼻を開けりゃどうだ?」

「えらい奇抜な恰好じゃのう。強盗みたいじゃな」

「まぁそれくらいしか方法が思い付かないな。でもそれでも街の中は無理でもリリと一緒にリリの両親の墓ならいけそうじゃないか?」

「うむぅ……そうじゃのう。行ってみたいしそれでやってみようかのう」

「んじゃ穴開けて兜の中に括り付けるか」

「うむ。よろしく頼むわい」


 そうして俺は要らない服を取り出して、小さくした血短剣ブラッドダガーで服に穴を開けていった。


「ところで兜を取ったら視界はどう見えてるんだ?」

「視界は変わらんよ。兜についてると思うだろうが、鎧が本体だから鎧に付いとるな」

「へぇ~、そうなのか。じゃあ鎧からの景色はどう見えてるんだ?」

「人間のそれと変わらんな。デュラハンというのは不思議なものよの」


 どうやらデュラハンは普通の人間と変わらぬ視界らしい。

 まだまだ分からない事だらけだが面白い物だと感じる。


 それからはガラハドから兜を貸してもらい、穴の開けた服を兜にくくり付けて、さらにもう一枚の服を中に入れて目や鼻を書くようにして、人の頭が兜の中にあるように見えるよう、何度か試行錯誤しながら括っていった。


 そして遠目からだが、ガラハドの身体の中に人が入っているように見えるようになったので、俺達は早速リリの両親の墓に転移していった。


「おお、ここがリリのご両親が眠っている墓地か?」

「うん! あそこにわたしのおかあさん達がいるの!」


 そう言ってリリがガラハドのぶっとい手を取って、自分の両親の元へ案内していった。

 俺もリリの両親の墓へ行き、少し掃除をして花を飾ろうと買いに行く事にした。


「それじゃガラハドはあまり人に見られない様にな」

「うむ。もし誰か来たり正体がバレそうになったら、あの小屋に転移するわい」

「そういや場所は分かるか?」

「わからんのう」

「わからんのかい!」


 じゃあどうやって小屋に戻るのかと思ったが当てはないらしい。

 仕方ないので俺は方角と他にも俺が血結晶を埋めた場所の大体の場所を伝えた。

 それで試しに小屋へ転移出来るか試そうとなり、それならとリリも一緒に試す事になった。


 それからは1時間程だろうか。

 ガラハドもリリも問題なく小屋に転移出来るようになったし、おまけに近くの街に設置した所へも転移出来るようになったので、予定通り花を買いに行く事にした。


「お主の転移の有効範囲はどのくらいあるんじゃ? かなり広いようじゃのう」

「分からん。俺も転移なんてこれが初めてだし、俺以外見た事も無いからな」

「確かに転移が出来る奴なぞ、この大陸でも数える程度しかおらんしな」

「やっぱりそうか。なら今まで通り信頼出来る奴以外には黙っとくか」

「それがよかろう。儂たちがアンデッドだと話せる奴以外には隠し、血結晶の事も言わんほうがええのう」

「だな。今の所リリとあんただけしか教えてないしな」

「わたしに教えてくれて嬉しい!」

「儂も嬉しいのう。なぜ教えてくれたんじゃ?」

「なんだろうな。戦ってあんたの真っ直ぐさが分かったからかな?」

「うん! ガラハドおじちゃんは嘘付かないってより嘘付けなそう!」

「ぬはははは! 確かに儂は嘘が付けんで、王国騎士団長の時は貴族相手に苦労したぞい」


 ガラハドは経歴から貴族や王族と接する事が多く、嘘もお世辞も付けないからかなりやっかまれたとの事。

 だが歯に衣着せぬ言動と裏表がなく、それでいて親身に対応する事から、味方も多かったようだ。


 (そんな奴があのワイトに付き従って主君と言ってたんだもんな。やはり一度ワイトの事を知りたいな)


 そんな事を思いながら、転移はほぼ隠す事にして、少し遅くなったがユルブローへ花を買いに行った。


「これきれいな花だね」

「ああ、墓に添えて良い花か分からんが、俺もリリも綺麗と思ったならいいだろう」

「うん! こっちはかわいい!」


 俺達は2種類の花を買っていた。

 見つけた花屋には種類がそこまでなかったが、それも仕方ないだろう。

 まだまだユルブローは復興が進んでおらず、ようやくスタンピードで破壊された外壁や家屋が片付けられた所だった。


 なので花は俺達が直感でいいなと思った物を買った。


 一つは青い色をしたバラのような花だ。これはとても美しい花で、それでいて棘が無かったので買う事にした。


 もう一つは可愛らしい黄色いキンセンカのような花だ。

 これはリリが一目ぼれしたようで、俺もそれが良いと感じたので買ったのだ。


 この二つをお墓へ供えようと早速行こうかと思ったが、その前にある場所へ行く事にした。


「リリ、家に行ってみるか?」

「……うん。行ってみたい」


 リリも行きたいと言ってくれたので一度見に行ってみようと思う。


 それからは活気が戻った街を歩いて行くが、家屋の建設は破壊された入り口から遠い場所から始められていた。

 それはまだ住める家屋があるから、それを直してから新しいのを建てるのだろうと思われる。


 (リリの家は完璧に破壊されてしまっているので、まだ建てられてないだろうな)


 その俺の予想通りに、かつてリリが過ごした家は、倒壊した家屋の瓦礫が片付けられただけになっており、家が建っていた場所は更地と化していた。


「……お家なくなっちゃったね」

「ああ」


 それから俺達は無言でその場所をしばらく見つめていた。

 俺は周りを見渡してみると、俺達と同じように自分の家と思われる場所をじっと見つめている人達が何人かいたので、やはり自分の家が破壊されたというのは精神的に辛いものがあるのだろう。


 俺はリリの頭に手を置いて優しく撫でた。

 そしてリリは俺に顔を向け、もう大丈夫と言ったのでガラハドの待つお墓のある丘へ行く事にした。


 本当は冒険者ギルドに寄ろうかと思ったが、もし面倒な事が起きると嫌だったので寄らない事にした。


「おお、戻って来たか」

「ただいま~!」

「ああ、花を買って来たぞ。ほんとはガラハドにも何かと思ったが、思い付かないから一緒に添える花だけだ。悪いな」

「気にするでない。花だけで十分じゃ。この身体になってから……いや、前世の時から物欲が無くてのう。そういえば支給される給金に手を殆ど付けずに溜まりに溜まっておったわ」


 そう言って笑うガラハドを見て、そりゃそうだろうなと思った。

 何か買うより戦うのが好きだろうから、金を使うとしたら装備くらいだろうか?

 だけど王国騎士団長という事からそれもある程度、支給されそうだしな。

 まぁこれから行動を共にするとしてもお金が掛からなそうで良かった。


「さて、じゃあ花を添えて、それが終わったら近くの街で食料を買って、他にも何か買いたいのがあれば買うか」

「は~い! わたし少し服が欲しい!」

「おお、確かにリリは細かったが肉がしっかり付いてきておるな。服もサイズが大きいのを買った方がええじゃろう」

「……ごめんなリリ。気付かなくて」


 そう言ってリリの頭を撫でて謝るが、リリは笑顔で謝る事じゃないと言ってくれた。


 (そうだよな。リリも年頃の女の子だ。もう少しそっちにも気を使わないとな)


 一瞬、どこかの一般的な人間で、リリを大事にしてくれそうな所に預けた方がいいのだろうかと考えてしまったが、きっとそれはリリが拒否するだろう。

 リリは覚悟を決めて俺に着いて来てくれるんだ。それを否定するようなことをしたら失礼だろうと、俺はリリが自分の意思で俺の元を離れるまでは大事にしようと思った。




 それからはリリの両親の墓にリリとガラハドと共に2種類の花を添えた。

 その後は近くの街へ転移してから、数か月分の食料やリリの服、それから露店で食事したり飴細工のような甘味があったので、それらをいくつか買ってみた。


 そして事前に話していたアルラウネの素材、根っこと果実をいくつか売る事にして今後の資金を調達する。


 しかしそれらを冒険者ギルドに持ち込んだ時は少し面倒な事が起こりそうだった。


「これどこで手に入れましたか? もし近くだったら危険なので場所を教えてください」


 ユルブローではない近くの街の冒険者ギルドに持ち込んだのだが、受付嬢がそう言って場所を教えろ教えろとしつこかった。

 なので遠くだから大丈夫、買う気が無いなら違う所へ持って行くと言ってようやく買い取ってくれた。

 実際遠くなのだから大丈夫なのだが、迷宮で手に入れたなんて言えないしな。


 それから買い取ってもらった金額を見たが、さすが霊薬の材料となるだけあって、根っこ3個に果実6個で金貨100枚になった。

 まぁ霊薬の価格を聞いたら金貨500枚から1000枚らしいから、妥当な所かなと思う。


 そうして豊富な資金を手に入れた俺達はさっさとワイトの小屋へ戻っていった。


「悪いなガラハド。街へ入れられなくて」

「わはははは! 気にするでない。それよりも儂にも飴細工を買ってくれるとは優しいではないか」

「リリがガラハドおじちゃんに上げたいと思ったから買ったんだよ!」

「おお、おお、リリは優しいのう」


 そう言ってリリを両手で高い高いするように持ち上げる。

 それをとても嬉しそうに喜ぶリリを見ながら、俺は今後の計画を練る事にした。


 この後はあの階層へ行き、一匹のアルラウネと対峙する。

 話が通じれば話し合い、もし敵になろうものなら戦って葬る事も視野に入れる。


 その為にアルラウネ対策として、聞くかどうか分からないが植物に聞く除草剤だったり、焼く為の油を大量に買っておいた。


 さぁ、ここからはまた気を引き締めていこう。


 あのアルラウネがどんな奴なのか、これから会うのが楽しみだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る